「いい服はすぐ売り切れるから早く買おう!」のアオリ言葉をスルーしませんか??【ファッションコラム】

  • 写真・文:一史
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ファッションライター/フォトグラファーの一史です。
このコラムは、ファッション有識者やショップ販売員がよく口にするアオリ言葉「いい服はすぐ売れちゃうんですよ。シーズン立ち上がりに買っておかないと」への反論、というか不満の話です。
「いい服」ってどんな服でしょうか??

わたしはトレンドが大好きです。
楽しくて仕方ありません。
近頃だと街の女子たちが全身ダボダボファッションの流行を過去に追いやり上半身ピタピタに切り替えたり、スニーカー男子がローファーを履きはじめたり。
パリやミラノのファッション・ウィークで各ブランドが打ち出す戦略的なトレンド情報よりも、街のリアルな空気にワクワクします。
世の中が動いていることを実感できて。
自分でも意図的にトレンド感のある服小物を身に着けるようにしています。
現代的なアイテムをワードローブに加えると、何十年もの間に塗り重ねられ固着した心のアカを擦り落とせてすっきりします。
新しいアイテムを着たとき若い連中に「それ、いいっすねえ」などと言われたら、「買ってよかった!」と嬉しくなります。

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スタイリッシュな2025年現在のトレンドスタイル。

そんなわたしですが、トレンドの捉え方を数年単位で考えています。
男性服は長く着られるものが多いとはいえ、さすがに10年経つと腕の太さ、襟の形などちょっとしたところで古臭く感じられるものです。
数年以上は魅力を保ち、周囲の人から「洒落てる」と思われ、いろんな服に合わせられ、生活に役立つ機能性がある服を「いい服」だと考えています。
(素材や縫製の高級さ、創造的なデザイン、歴史的な銘品とは別の話です)

ファッション関係者による「いい服はすぐ売り切れる」の「いい服」って、たいていはそのシーズンの旬のアイテムのことでしょう。
暑さ寒さが残るシーズン立ち上げにファッションの店に行き、数カ月後にならないと着られない服を買うようなファッションピープルは、旬の服を好むものです。
では彼らに負けじと流行服を先行買いして着たら、「お洒落な人」になれるのでしょうか。
答えは、否、です。
なぜなら現代の服装はコーディネートが最重要だから。
全身のバランス(特に髪型、シューズ、バッグ、メガネ、服のシルエット)を整えてはじめて「モダンに洒落てる」と人に感じさせることができます。
トレンド服を買いに行くなら、同時に全身コーデ分を購入して美容室を予約する覚悟がいるということです。

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今治でつくったタオル生地を使うファッションブランド「シングファブリックス」のTシャツ(26年春夏もの)。快適なタオルをTシャツにする発想力、美しい色バリエーションの独自性が際立つ「いい服」。

旬のトレンドずばりでも「いい服」と思うこともあります。
気分を大きく高めてくれたり、服の作り手に共感するときなど。
例えば次の写真のジャケットは、来年の2026年春夏のアイテム。
ボレロのような長短丈のトラッカージャケット。
「ロングシャツの上にこれを羽織り、長い裾を覗かせたらめちゃカッコいい」とコーデのイメージが膨らみます。
ジェンダーレスな印象も好みです。
若いデザイナーさんのモノづくりの姿勢も魅力的でして。
これはわたしにとっての「いい服」。
(ただトレンドすぎて短命な予感がするうえにやや高価なため、個人オーダーをまだ迷い中)

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トラッカージャケット、超短丈、デニム風生地とトレンド満載の、YUTASETOGAWAの26年春夏ジャケット。

世の中は膨大な数の服が溢れています。
とある店の、とあるアイテムが売り切れて買えなかったところで、代替品は山のようにあるでしょう。
何週間もゆっくりと考え納得のいくものを購入するのが懸命ではないでしょうか。
“今年の流行”でなく、“近年の傾向”で服を選ぶ考え方をするといいと思います。
皆さんは決して焦らないでください。
ファッションの店でアオリ言葉を聞かされても。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。