アウディが2025年9月初頭、ミラノで「コンセプトC」なるスポーツモデルを発表。「これ本当に市販車なの?」と驚きの声が上がった。

コンセプトCは、新世代の電動スポーツカーのコンセプトモデル。驚くのは、戦前のグランプリマシンから現在に至るまで、エポックメーキングなアウディ車の要素を巧妙に取り込んでいることだ。

ミラノでのサプライズ発表、その舞台裏
ミラノはコルソ・ベネツィアに位置するブティックホテル「ポートレート・ミラノ」の中庭で催されたコンセプトCの発表会。
世界中から集まったゲストを前に、アウディ本社のゲルノート・デルナーCEOと、チーフクリエイティブオフィサーのマッシモ・フラチェッラ氏がお披露目を行った。
会場がどよめいたのは、コンセプトCのデザイン。従来のアウディ車とははっきり一線を画している。

歴代アウディの要素を取り入れたデザイン
いくつものかたまりが組み合わされ、キャラクターラインはほぼ皆無。大径タイヤと、新しい縦型のフロントグリルが組み合わされている。全く新しい感覚のデザインだ。

それでいて、歴史的な要素がちりばめられている。上記の縦型グリルは1936年のアウトウニオン(アウディの前身)「タイプC」を思わせる。
ウインドウグラフィクスは95年発表のアウディTTコンセプトを想起させ、また、各所にこれまでのアウディのコンセプトモデルからの引用が見てとれる。

タルガトップ化する大胆な仕掛け
途中でアウディのデザイナーが、にこやかに笑いながら、インテリアのボタンを操作。するとハードトップが後方に格納され、タルガトップ(ルーフの上の部分だけ開くスタイル)になった。
オープンの状態で見ると、コクピット背後にはブラックの帯が目につく。ポルシェ911タルガを思わせる。

アウトウニオンのグランプリマシンにはフェルディナント・ポルシェが関わっていたことから「Pワーゲン」と呼ばれていたことを連想させる。デザイナーの遊びだろうか。
徹底的にシンプルなインテリア
インテリアは「シャイテック」と表現されるように、かなりシンプル。技術を前面に押し出していない。

エアコンなどの操作は直感的に行えるものの、モニターなどは必要なときのみ展開する。
「徹底したシンプルさが私たちのアプローチの核心です」とフラチェッラ氏。飾り的な要素を取り除き、明快さの追求を実現したと話した。
ランドローバーから移籍したフラチェッラ氏の哲学

フラチェッラ氏は24年2月にアウディに移籍するまで、ランドローバー・デザインの要職にあり、現行レンジローバーやレンジローバースポーツを手がけてきたひと。
むだをそぎ落としたデザインと聞くと、大きな話題を呼んだレンジローバーの「リダクショニズム」を連想する。装飾を排除して、クルマの美を実現するコンセプトだった。
興味深いことに、会場でインタビューをすると、冒頭に触れた第1世代のアウディTT(1989年)からの影響に、フラチェッラ氏は言及。「衝撃的でした」と語った。
アウディTTが与えた衝撃と影響

「私にとってTTは単なるクルマではありませんでした。聞かせるために叫ぶ必要はない。主張するために過剰である必要はない。必要なのは明快さなのだ、というメッセージが伝わってきました」
プレスリリースでも上記のコメントが紹介されている。デザイナーとしてとてもいい発言だと思う。
フラチェッラ氏の経歴は、トリノでのスティーレ・ベルトーネが皮切りで、フォードUK(リンカーンやマーキュリー)、キア(起亜)のカリフォルニアスタジオへと移る。
11年にジャガー・ランドローバーに入り、ふたつのブランドのヘッド・オブ・デザインを務めた。

「ザ・ラディカル・ネクスト」という立場
アウディのコンセプトCを見ると、ジャガーが2024年に発表したコンセプト「タイプ00」のデザインも頭をよぎる。
リンカーンやマーキュリーを含めて、一貫したデザインフィロソフィを感じさせる。「重要なのは、信じるデザインを貫く勇気なのです」と語る氏の言葉に、なるほどと思わされる。
コンセプトCは“変わるアウディ・デザインのマイルストーン”だとされる。言葉でいうと「ザ・ラディカル・ネクスト」。
「コンセプトCははじめての具現化です。まぎれれもなくアウディですが、プロポーション、サーフェス、ディテールは明確に発展。アウディとブランド全体を変革する決意の象徴なのです」

フラチェッラ氏の発言を要約すると、上記のようになる。
市販化は? 会場で飛び交った質問
「このクルマ、売るつもりですか?」と、会場では多くのひとが、目をキラキラさせながら、フラチェッラ氏に尋ねていた。
答えはイエス。「数年後をお楽しみに」と、フラチェッラ氏は自信に満ちた顔で答えていた。
