〈長崎県壱岐市〉
平山旅館
壱岐は風の島だ。「春一番」という言葉は、かつて壱岐の漁師が早春に吹く南風をそう呼んでいたことに由来する。もっと遡れば、神風の伝説との関わりも深い。そう、壱岐は神の島でもある。島内にある神社庁登録の神社は150社。それ以外や小さな祠も合わせると1000にも及ぶ。言うなれば、島そのものがパワースポットなのだ。そこに湧く湯が効かないはずがない。
博多港から高速船でおよそ1時間、神の湯には意外と容易にたどり着くことができる。「平山旅館」が管理する湯本温泉が発見されたのは1800年前。神功皇后が応神天皇を産んだ際に産湯として使ったという逸話もある。
今回浸からせてもらったのは「月の間」の露天風呂。鳥居の奥に祀られた水神様に手を合わせ、療養規定値の15倍もある高濃度温泉にゆっくりと身体を沈めた。木々を揺らす風になんとなく神の気配を感じてしまう。
「このお部屋に泊まったお客様には、必ず幸運が訪れるんですよ」と三代目女将の平山真希子さんは笑顔で教えてくれた。そして幸運はその日のうちに訪れる。湯もさることながら食事が抜群に旨いのである。ウニやイカなど新鮮な海の幸から幻の銘牛と呼ばれる壱岐牛まで! 壱岐発祥の麦焼酎を飲みながら、自分史上最高の旅館料理を堪能し、そして再び湯に浸かる。この幸福感はやはり神の仕業としか思えないのである。

の温泉を管理する平山家が、1955年に旅館として創業。

壱岐島産。残飯や野菜くずは家畜のエサや畑の肥料にし、各面で循環型を実践している。
※この記事はPen 2025年10月号より再編集した記事です。