建築家・藤本壮介が「衝撃を受けた」と語る建築はどんなものだろうか。悩みつつ厳選してくれた10の建造物は、バラエティに富んだラインアップである。本人のコメントも携えて、ひとつずつ紹介していこう。
いま、最も注目すべき建築家、藤本壮介。大阪・関西万博では会場デザインプロデューサーを務め、国内はもちろん、世界中から耳目を集めている。本特集では、新境地を切り拓いてきた藤本建築の数々や、本人インタビュー、協働したクリエイターとの対話などを収録。建築家・藤本壮介の仕事の全貌と、その魅力に迫る。
『いまこそ知りたい、建築家・藤本壮介』
Pen 2025年10月号
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1. アクロポリス

「岩山の階段を上り、門をくぐるとパルテノン神殿が斜め前方に姿を現すのですが、初めて見た時は神々しいその立ち姿にとてつもない衝撃を受けました。黄金比でつくられているなど諸説ありますが、それだけでは説明できない、人類が創造した最も完璧な建築物であると思います。何度訪れても、その光景には感動を覚えます」
2. コロッセオ

「急斜面の観客席に囲まれた古代の円形闘技場という異色な建造物であること、またかつては人間と戦わせた猛獣などの飼育もしていたであろう地下空間の存在など、造形に加え土木的なスケール感にも興味深さを覚える建築です。空に開いている開放的な構造は、私が手掛けた万博の大屋根リングに通じるものを感じますね」
3. アヤソフィア大聖堂

「周囲に立ち並ぶドームや塔が、大聖堂をはじめ全体を支える役割を担っています。その構造的な発明に驚かされました。また、それにより内部では小さな空間が泡のように無数に広がっているように見え、不思議な感覚を覚えます。壁に描かれたモザイクなど絢爛豪華な装飾にも圧倒され、内部空間においては世界一の建築だと思います」
4. カンタベリー大聖堂

「私がゴシックの大聖堂が好きになったきっかけの建築です。千年近くにわたり改修が繰り返された結果、ゴシックの荘厳さとは少し異なる雰囲気を持つエリアも存在する、複雑怪奇な空間構成です。そこがとても面白い。そうした異なる時代や世界観が複層的に重なり合い、驚くべき多様性を内包する包容力を持っているのも、この建物の魅力です」
5. 銀閣寺の庭園

「日本の代表的な伝統建築である銀閣寺にも、異なる世界観が重層的に重なり合う魅力を感じています。向月台という実に京都らしい石庭もある一方、無数の岩が武骨に組まれた斜面など、その空間から一歩踏み出すと風景がガラリと変わり、まるで庭が再構成されるような、ほかでは体験したことのない不思議な感覚を覚えるのです」
6. ユニテ・ダビタシオン

「現代建築の父、ル・コルビュジエが設計した18階建て337戸の集合住宅です。人々が集まり生きる社会という複雑にして多様なものが立ち上がり、その背後には純粋で美しい秩序も存在している。そんな、一見すると相反する要素が共存し、立ち上がっている姿にとても美しさを感じます。最初に見たコルビュジエの建築にして、最も好きな作品です」
7. エッフェル塔

「造形はもちろん、より惹かれるのは建設を推進した設計者のギュスターヴ・エッフェルや実行委員会の強い意志です。建設中は国内から大反対が起こったようですが、百年を経たいまではパリのアイデンティティになっている。反対をものともせず未来を切り開き、新たな価値を創造した彼らの、揺るぎない姿勢に強く感動しています」
8. 新国立美術館(ドイツ)

「もうひとりの現代建築界の巨匠、ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエが最後に手掛けた作品。屋根だけが浮いているように見える印象的な造形は、あたかも2億年前にエイリアンがつくり出したのではないかと思えるほど。そんな、時間を超越した雰囲気を持ち、圧倒的ななにかを醸し出しているミースの到達点です」
9. 広島ピースセンター

「丹下健三が設計した平和を祈念する公園であり資料館。素晴らしいのはセンターの軸線上に原爆ドームが位置するように設計され、ドームを平和のシンボルとして機能させたこと。これは建築であり、“世界への眼差し”で人類が犯した過ちの記憶を未来永劫に遺すことを、圧倒的な技術力を用いて成功させた唯一無二の事例です」
10. ソーク研究所

「20世紀を代表する建築家であり、都市計画家のルイス・カーンにより設計された生命科学研究所です。中央に水路が走る中庭から空と太平洋が開けて見える、なんとも開放的で美しい建築です。シンメトリーに個別の建物が整然と並んでいるように見えますが、実は奥の大きなラボスペースでつながっている構造もユニークです」