世界でもっとも有名なブランドロゴはなにか。クルマ好きだったらすぐ思いつくのは、「アルファ ロメオ」ではないだろうか?

もちろん、金融やファッションや時計や航空会社など、有名なブランドロゴは多い。クルマも同様。おもしろいのは、デザインの背景をさぐることだ。
メルセデス・ベンツのものはスリーポインテッドスター(三芒星)と呼ばれる。三菱と同様の意匠だ。
キリスト教に詳しい人なら、「3」がさまざまな意味を持っているのはご存知のとおり。三角はそもそも三位一体を表し、ほかにも三賢人、三美神……と、3のモチーフは多い。
メルセデス・ベンツは「3の意味は陸・海・空(の乗りもの)を手掛ける」としている。
一説では、三角は錬金術におけるまぼろしの元素リンを意味していて、これによって卑金属も黄金に変わるとか。
そのシンボルをブランドに使っているというのだ。

私がメルセデス本社で確認したところ、「初めて聞いた(ドイツ語)」と、一笑に付されてしまった。あれれ。
シンボルの世界は虚実がないまぜ。そんなこともあるのでは、と想像すると、世のなかの見方が楽しくなる。
BMWのロゴは、円を4分割して、青と白の塗り分けはプロペラと空を意味。航空機エンジンを象徴したものとか。
アウディの“フォーリングス”は、ホルヒ、アウディ、ワンダラー、DKWというかつてドイツにあった4ブランドの統合を意味している。
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アルファ ロメオのブランドロゴの背景は?
アルファ ロメオも、私たちにとってはロマンチックに感じられるブランドロゴ(エンブレム)をもっている。

盾のかたちをしたグリルにはめこまれた円形エンブレム。
1910年創業のアルファ ロメオのエンブレムは、左半分に赤い十字、右半分には、ひとを呑む大蛇。

十字はミラノ市の紋章。19世紀のイタリア統一運動の核となったサボイア家のものを、赤白反転させて使っている。
大蛇はイタリア語で“ビショーネ”と呼ばれる。14世紀にはミラノ公を務めるなどした貴族、ビスコンティ家の紋章だ。

ミラノ市の紋章と、1075年に興ったビスコンティ家の紋章を組み合わせたのが、アルファ ロメオのエンブレム。
考案したのは、ロマーノ・カッタネオ(Romano Cattaneo)。アルファ ロメオのレーシングマシンを設計していていたジュゼッペ・メロシの友人だ。

ミラノの自動車会社である「アルファ」(アルファ ロメオとなったのは1920年)にふさわしいエンブレムを、と依頼されていた。
路面電車を待ちつつ、思案にふけっていたカッタネオが、ふと目を上げて見つけたのがビショーネだった。
「これだ」とひらめいた彼は、円形の中にふたつを組み入れ、外側に「サボイア結び」とされる8の字のモチーフを配した。

私は子どもの頃、BMWとともに世界屈指のすぐれたGTメーカーであるアルファ ロメオが大好きだった。

やがて自動車の歴史などを知る過程で、このエンブレムの意匠がわかった。
ミラノを初めて訪れたとき、ショッピングモールのガレリアで、巨大なサボイアの十字を発見。ミラノ中央駅や、城塞だったスフォルツェスコ城には、大きなビショーネがあった。

自動車という工業製品に、イタリアならではの長い歴史をうまく組み合わせた手法に感心したものだ。
世の常として、凝った意匠も、時とともに簡略化されていく。アルファロメオも例外でない。
それでも、より図案化されたサボイアの十字と、ビスコンティのビショーネは、高いデザイン性で違和感なく組み合わされている。


このモチーフは現代まで連綿と続いている。これがあると、アルファ ロメオの魅力が2〜3割増しになる。と、私には感じられる。
フェラーリ(跳ね馬)やランボルギーニ(雄牛)やマセラティ(三叉の鉾)といった、イタリアのスポーツカーに匹敵するブランド力を生み出していると思えるのだ。