「大人の名品図鑑」サンダル編 #2
夏の装いに季節感と軽やかさを添えるのが“サンダル”だ。素足で履けば開放感を楽しめ、ソックスと合わせれば個性的な足元を演出できる。さらに近年は、スニーカー感覚で履けるスポーツサンダルも人気だ。今回は、そんなサンダルの中から3つの名品にスポットを当てる。ポットキャスト版を聴く(Spotify/Apple)
ファッションという視点から考えると、男性よりも女性の方がサンダルは常に重要視される履物と言えるのではないだろうか。
その象徴的な例が、1998年からアメリカで放送され、映画化もされたテレビドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』だ。主人公キャリー・ブラッドショーを演じたサラ・ジェシカ・パーカーが、劇中でこよなく愛したのは「靴のロールスロイス」と呼ばれるマノロ・ブラニクのサンダルやピンヒールだった。2019年の『ハーパーズ・バザー』誌のウェブサイトに「キャリーはマノロ・ブラニクの靴に4万ドルをはたき、銃を突きつけられたときにも絶対に手放したくない。これはお金には代えられない価値がある」と記されている。女性にとって、美しくデザインされたサンダルとは、そんな気持ちになるほどの魔法を持った特別な履物なのだろう。
マノロ・ブラニクが「靴のロールスロイス」ならば、ユッタ ニューマンは「サンダル界のロールスロイス」と称されるブランドだ。デザインと製作を行なっているのはドイツ出身の女性で、1980年代半ばにパリからニューヨークへ移り、革サンダル職人バーバラ・シャウムのもとで靴づくりを学んだ後、1994年に自身の名を冠したブランドを立ち上げた。
彼女のつくるサンダルはすべてハンドメイド。革の裁断から縫製、仕上げまで、ニューヨーク・マンハッタンにあるアトリエで、限られたスタッフの手によって一足ずつ丁寧に製作されている。トゥ=つま先が反り上がり、土踏まずが隆起したデザインも彼女のサンダルの大きな特徴だが、これらは一つひとつ手で曲げられてこの形状に仕上げられていると聞く。
堅牢なレザーソールにEVA素材のアウトソールを組み合わせた構造もブランドの大きな特徴だ。代表的な素材として知られるのが「ラティゴレザー」。植物タンニンで鞣した牛革にオイルやグリースをたっぷり含ませたこの素材は、昔から馬具、特に鞍のストラップなどに使われていた。水や摩擦に強い特徴を持ち、雨や汗などに強い特性があるが、逆に革そのものは非常に硬く、履き始めは足が痛くなることもある。しかし履き込んでいくと足に馴染み、唯一無二のフィット感と履き心地をもたらしてくれる。---fadeinPager---
履くほど色艶を増す、一生もののサンダル
1997年、ニューヨークで開かれたアナ スイのショーで、ナオミ・キャンベルがユッタ ニューマンのサンダルを履いた瞬間、その名は一気に世界へと広がった。やがて「サンダル界のロールスロイス」と称されるようになり、日本では2000年代初頭に人気セレクトショップのバイヤーが買い付けたことをきっかけに、ファッション感度の高い人々の注目を集めるようになる。
今回取り上げた「アリス」はトゥリングタイプのデザインで、ブランドを代表するモデルだ。親指部分が独立した「サムホール」が特徴的で、甲部分を覆うストラップもよく見ると斜めにカットされている。親指をホールドしてくれるので、この種の一般的なサンダルよりもフィット感もある。もちろん素材は「ラティゴレザー」で、履けば履くほどに色艶を増す。独特な盛り上がった土踏まずも、時間をかけて足に馴染み、やがて長時間歩いても疲れにくい存在へと変わっていく。アウトソールには耐久性を備え、簡単に滑らない底材が使われており、実用面でも妥協のないつくりだ。
素材から製法まで、サンダルに対するつくり手の哲学が投影されたような逸品ではないか。一生ものとして自分だけの一足に育てていく楽しさもまた、ユッタ ニューマンがつくるサンダルの魅力といえるだろう。
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