【保存版】トヨタ90年代の名車図鑑! RAV4・アリスト・MR-S…いま見ても色あせない“黄金期”の実力

  • 文:小川フミオ
  • 写真:トヨタ自動車
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1990年代は日本車にとって、ひとつのターニングポイントだった。それは業績の明暗とも関係していた。気を吐いていたのは、トヨタだ。

80年代に強力な競合だった日産が割と単調なセダンへとシフトしていく一方、トヨタの車種バリエーションは実に多彩。

企画、エンジニアリング、販売……クルマにとって重要なあらゆる面で、傑出していた印象だ。 

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画期的なデザインだった初代RAV4。

すごいなと思うのは、当時のクルマがいまも古びて見えないことだ。

たとえば、1994年に発売された初代「RAV4」。先日、東京の街中で見かけたが、ショートホイールベースにトールボーイスタイルのボディがぱっと目を引いた。

プロポーションとか面のつくり込みとか、基本的な部分はセオリー通りに設計し、その上で独自の細部を組み合わせたデザイン。

ファッションと同じで、たとえ奇抜に見えても、基本をおさえているデザイナーの作品はずっと残る。

この時代、世界各地の自動車メーカーのデザイナーたちには、一度はここで働きたいというメーカーが3つあったようだ。

米国のゼネラルモーターズ、イタリアのカロッツェリア・ピニンファリーナ、そしてトヨタである。この時代のトヨタの製品を見て、その気持ちがよくわかると思ったものだ。

トヨタ・ブランドにとって2000年代は、しかし、90年代ほどの“キラキラ感”には乏しい。

もちろんこの頃のトヨタは、プリウスに代表されるハイブリッド車の大展開で知られる。海外事業も大きく拡大していった。テスラにも出資して、2010年にはBEVの「RAV4 EV」を共同開発したこともある。

そんなトヨタだけれど、またいつか「よくこんなクルマつくったね!」と思わず言いたくなる新車を手掛けてほしい。

そんな思いを込めつつ、コンセプトが光っていた、1980年代から90年代にかけてのトヨタ車5選をお送りする。

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RAV4(1990〜2000年)

RAV4の登場は衝撃的だった。見たことのないコンセプト。4WDの機能性と、スタイリッシュさとをうまく融合させていた。

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1989年にプロトタイプが発表されたのち、スタイリングコンセプトが洗練されて量産型が登場した。

ゴリゴリのヨンクでないSUV的コンセプトは、米国のフォード・エクスプローラーや仏のシムカ・ランショという先達があるにはある。

RAV4ならではの新しさは、ヨンク技術を、キャンプ場のような場所とイメージ的に結びつけていたこと。

大きなスライディングルーフや、リアセクションが全開にソフトトップも用意され、まさにファンカー(楽しむクルマ)。 

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2ドアの軽快感はいまもかなり魅力的で、スペアタイヤを背負ったスタイルもよい。

95年にはロングボディで4ドアの「V(ファイブ)」が追加される。こちらは機能にうんと振ったモデル。発売当時、このクルマをトヨタから借りて街で乗っていると、とにかく注目された。

「お父さん、これがRAV4だよ!」と、父親の手を引きながらクルマに走り寄ってきてくれた学生もいた。

日産の「Be-1」(87年)以来の目立ちぶりで「これがクルマの力か」と大いに感心した。

改良が施されるたびに、フロントマスクなど各所が重厚になっていったのは残念な点。

メーカーとしては、大ヒットしていた三菱「パジェロ」の市場に入りこもうとしていたのかもしれない。

個人的には、初期のちょっとライトな感覚のデザインがもっとも好みだった。 

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本格的なクロスカントリー型4WDではないけれど、当時のスキーブームなどを販売の追い風にしていた。

“クルマは楽しむもの”というメッセージこそ、RAV4のすべてだと思う。

RAV4
全長×全幅×全高:3695×1695×1655mm
ホイールベース:2200mm
車重:1150g
1998cc 4気筒 4輪駆動
最高出力:135ps(約99.3kW)
最大トルク:18.5kgm(181.4Nm)
乗車定員:4名
価格:159.8万円〜(当時)

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ハイラックスサーフ (1995〜2002年)

ステーションワゴンとSUVをバランスさせたような、クロスオーバービークルが「ハイラックスサーフ」。

1984年発売の初代は、商用車「ハイラックス」をベースに開発された。 

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初代はピックアップトラックのバリエーションとして企画されたが、3代目になると洗練されたSUVに発展。

荷台があって、そこにキャノピー(ハードトップとも)を載せたようなスタイルが特徴的だ。

日本でも人気のトヨタのピックアップ「ハイラックス」にも、合成樹脂製のキャノピーのオプションがある。

キャノピーに荷物を入れてステーションワゴン的に使う。欧米(米国大陸を含む)で見かけるスタイルだ。

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米国ではハイラックスなどピックアップトラック向けのキャノピーが多く販売されている。(写真:ShutterStock)

キャノピーを載せたピックアップ。これが初代のデザインイメージだ。

ハイラックスはいまでこそ、日本でも乗用車として扱われているが、当時は完全に商用。ハイラックスサーフは、名称こそ「ハイラックス」だが、コンセプトは当初から乗用で、名前からも若者市場を狙った商品とわかる。

89年の第2世代はより乗用車として洗練されたスタイルになった。 

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完全に乗用車的な快適性重視のインテリア。

95年の3代目は、完全に乗用車として設計された。SUVというコンセプトもこのとき導入されたもの。

2代目まで、リアセクションはキャノピーをイメージさせていたが、3代目ではそこから離れた。

ボディがひとつのかたまりとしてデザインされ、いまのSUVに繋がるものとなった。

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80年代後半のハイラックスは北米が主市場だった。

初代は、ここで触れたとおり、まさに商用トラックのような乗り心地だった。私は、友人が東京から千葉の外房までサーフィンに行くのに付き合ったことがあるが、「からだがバラバラになる」と思うぐらい揺れた。

3代目はスタイルがうんと洗練されたが、それでも、乗用車のようなモノコック構造でなく、フレームを採用していた。

メリットは、悪路での走破性と、悪路での乗り心地。デメリットはコーナリング時などの高い操縦安定性に影響が出ること。

フレーム構造の採用は開発者の矜持のようなものだったのかもしれない。

変速機も、運転者が2駆と4駆を切り替えるパートタイム4WDが主体。いまでもジムニーはこの方式だ。

スタイリッシュだけれど、芯が通っている。いまのランクル250のような存在だったと思っている。

サーフというサブネームを含めて、いまでもこのコンセプトはアリ、だろう。

ハイラックスサーフ 3000 ディーゼルターボ
全長×全幅×全高:4540×1690×1750mm
ホイールベース:2675mm
車重:1730g
2982cc V型6気筒 4輪駆動
最高出力:130ps(約95.6kW)
最大トルク:29.5kgm(289Nm)
乗車定員:5名
価格:232.3万円〜(当時)

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MR-S(1999〜2007年)

比較的小排気量エンジンを、コンパクトな車体に搭載したのがライトウェイト・スポーツカー。

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マツダ・ロードスターを意識しつつ、ミドシップと凝ったレイアウトだったMR-Sはつくり続けてほしかった一台。

トヨタは1984年に「MR2」というミドシップエンジンの2シーターを発売して、大きな話題になった。

MR2は89年にフルモデルチェンジ。その後継として、クルマ好きの心に訴えかけるデザインで登場したのがMR-Sだ。

英国調というかイタリア調というか、ロードスターの雰囲気をうまく表現したデザインにも大いに好感が持てた。

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オープンの爽快感を強く打ち出したコクピット。

英国ではドロップヘッドクーペといわれるオープンスポーツ。

ソフトトップが多かった。理由は、馬の延長のイメージとともに、エンジンの騒音を逃がす実用性のため。 

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英国のトライアンフが1961年に発表したロードスター「TR4」はいまも多くのファンを持つ。(写真:Newspress)

MR-Sの場合、手動ソフトトップを開けてのドライブ感覚は爽快だった。 

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リアコンビネーションランプを高い位置に設けてウェッジシェイプを強調したスタイルもよい。

MR2はエッジのたったクーペデザインだったので、どうしても意識が“走り”にいってしまいがちだった。MR-Sは、もうすこし気楽な雰囲気。そこがよかった。

年を経るにしたがって、変速機やディファレンシャルギアなど、走りの機能が充実していった。タイヤ径も大きくなった。

96年にポルシェが2人乗りミドシップオープンの「ボクスター」を発売していたので、そちらに引っ張られたのだろうか。 

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モデルチェンジを繰り返しながら生産が続けられているポルシェ・ボクスター(写真は初期型)。(写真:Porsche)

個人的にはこういうクルマはフィーリングでもって楽しめばいいという思いが強いので、初期型でもじゅうぶんだった。いまでも魅力は薄れていない。

MR-S
全長×全幅×全高:3895×1695×1235mm
ホイールベース:2450mm
車重:1020g
1794cc 4気筒ミドシップ 後輪駆動
最高出力:140ps(約103kW)
最大トルク:17.4kgm(170.6Nm)
乗車定員:2名
価格:168万円〜(当時)

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アリスト(1991〜97年)

いま見ても、よくできたデザインのセダンだと思うのが「アリスト」だ。

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ラインの少ないボディにプレスドアの採用と欧州的な洗練性を感じさせるモデルだった。

クラウンのラインナップ拡充が、バブル期のトヨタのテーマだったようだ。

最上級の装備を与えられたのがセルシオと同じ4リッターV8の「クラウン・マジェスタ」で、アリストは軽快さが身上のスポーツ版だ。

当時のトヨタの自慢は「ハイパフォーマンスセダン」なる触れ込み通りの、高性能6気筒ツインターボエンジン。

日本では出力規制なるへんてこなルールがあって、最高出力は(少なくとも書類上は)280馬力までとされていた。

「それ以上馬力があってもどこで出すんですか?と(お役人に)訊かれたら答えようがないので……」

当時のメーカーの開発者はよくぼやいていたのを、私もおぼえている。

アリストは、走りの機能を充実させていた。後輪駆動モデルに加えて、フルタイム4WDの設定、電子制御サスペンションの採用、トラクションコントロール、という具合だ。

もうひとつは、デザインだ。 

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トランクに厚みをもたせたハイデッキスタイルは当時賛否両論があった。

低めのノーズに、躍動感のある矩形ヘッドランプ、側面から見るとハイデッキ(トランク高が高い)のプロファイル。

さらに、キャラクターラインを排して面の張りで美しさを強調したボディに、雨どいのない空力に優れたプレスドア。

デザインは、ジョルジェット・ジュジャーロ率いるイタルデザインのものをベースに、トヨタのデザイン部が仕上げたといわれる。

トヨタは80年代からイタルデザインと密接な関係を持っていたが、このアリストを最後に契約が終了になったと、当時聞いた。

そのためアリストでは、餞別的に(?)、できるだけオリジナルデザインを活かす方向でボディデザインを決めていったとか。

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クラウンファミリーだけあって、スポーティモデルとはいえ豪華さが際立つ。

高いクルマだとキラキラとしたクロームによる装飾を求める市場のニーズに背を向け、独自のスポーツセダン像を提案する。私はこの点においても、初代アリストは大いに評価している。

そういえば走りは、そうとうのものだった。どんな道でも速いのだ。いま乗ると、軽量車体のため、ハンドリングなどに当時より感動するかもしれない。

インテリアだけはもうすこしスポーティなテイストが欲しかった。BMWのようないいお手本があったのだけれど。

アリスト3.0V
全長×全幅×全高:4865×1795×1420mm
ホイールベース:278s0mm
車重:1680g
2997cc V型6気筒ツインターボ 後輪駆動
最高出力:280ps(約206kW)
最大トルク:44.0kgm(約432Nm)
乗車定員:5名
価格:474万円(当時)

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トヨタ・クラシック(1996年)

こういう企画モノがなくなると、自動車の世界はつまらなくなる。 

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いま発売されても人気を呼びそうなデザイン。

トヨタ初の大型国産乗用車「トヨダAA型」(当時はトヨダ)の販売60周年記念モデルとして企画されたのが「クラシック」。

外観は、出来るかぎり当時の雰囲気を再現。とくに独立式ヘッドランプなど、よくやったなあと感心するディテールがいくつもある。比較的大きな車体で、街中で見かけると目を引く。

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ウッドパネルを張り詰めたダッシュボードなど、素材に凝ったインテリア。

価格が当時、800万円を超えていたので、市場は限られていたが、メーカーとしてはそれでもよかったのだろう。

企画モノと呼びたくなるのは、シャシーとパワートレインはハイラックスからの流用だったから。

セパレートフレームのメリットは、乗り心地のよさ。トヨタではクラウンでも同じ理由で、このフレームを使うのにこだわっていた。

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外観のイメージとは裏腹にスポーティな雰囲気をもつシートがそなわる。
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着座位置が高く、リムジンとしてのコンセプトが光る。

クラシックの驚きはOHV(オーバーヘッドバルブ)エンジンの搭載。

燃料効率や性能ゆえ、90年代以降は米国車を除き、乗用車ではほぼ見なくなったエンジン形式だ。

運転どうこうというクルマではないのだろう。実際、結婚式場の送迎などで喜ばれていたらしい。

残念なのはインテリア。ダッシュボードなどがあまりに現代風だった。ウッドパネルや、ウッドリムのステアリングホイールなど、努力は買うけれど、外観とのギャップが少々興ざめだったのは事実。

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ボデーカラーは、クラシカルな黒と濃赤の2トーンを採用した。

とはいえ、1年しかつくられなかったのを惜しむ声も少なくない。今度は90周年記念モデルを出してはくれないだろうか。

トヨタ・クラシック
全長×全幅×全高:4885×1735×1650mm
ホイールベース:2880mm
車重:1480g
1998cc 4気筒OHV 後輪駆動
最高出力:97ps(約71kW)
最大トルク:16.3kgm(約160Nm)
乗車定員:5名
価格:817万円(当時)