「まだ生きていた…」首に2年間フタがはまったクマが奇跡の救出。専門家も驚いた生命力

  • 文:宮田華子
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アメリカ・ミシガン州北部で、驚くべき生命力を見せた1頭のアメリカクロクマが注目を集めている。クマの首には、幅5インチ(約12.7cm)のプラスチック製のフタがぴったりとはまり、抜けなくなっていた。

最初に「フタがはまった姿」が捉えられたのは2023年。ロウアー半島北部のトレイルカメラに映ったとき、このクマはまだ子グマだった。フタには狭い開口部が2つついており、その1つに頭を突っ込んでしまったまま抜けなかったようだ。成長するにつれてフタは首を締め付けていった。 

野生動物にとって、動きが制限されることは命に関わる。木に登る、身を伏せる、水を飲む、餌を探す。すべての行動が、首の違和感と痛みを伴っていたはずだ。それでもこのクマは、2年にわたって森の中で生き続けた。

再発見のきっかけとなったのは2025年5月下旬。再びトレイルカメラに映ったと地元当局が報告を受けた。クマは罠にかけられ、6月3日に、ようやく保護された。

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カメラに映った映像。@WOODTV - Youtubeのキャプチャ画像

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首に残った痛々しい傷跡

保護された現場で、野生動物専門家たちはフタの除去に取りかかった。クマに麻酔をかけ、傷つけないよう注意深く作業行った。

ようやくフタが外れたとき、首の皮膚は黒く変色し、カサブタができていた。深く圧迫された部分には一部膿も見られたが、致命傷には至っていなかった。

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フタ除去後の首。締め付けられた跡が痛々しい。@WOODTV - Youtubeのキャプチャ画像(Coutesy: DNR)

体重は約110ポンド(約50kg)。2歳のオスクマの平均的な体重であり、飢餓状態ではなく、全体の健康状態も良好だった。

「餌は自分で探せていたようだ。走ることもできたはず。信じがたい生命力だ」と語るのは、DNR(ミシガン州自然資源局)の専門家、コディ・ノートン氏だ。

このフタは、おそらく農業用やハンター餌用に使われる容器のものと見られている。ミシガン州の規定では、動物がはまり込まないよう「1インチ以下または22インチ以上」の開口部が推奨されており、今回のような中途半端なサイズのフタは野生動物にとって危険そのものだ。

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野生と人間社会の接点

フタ除去後しばらくしてクマは目を覚まし、ふらふらと立ち上がった。そして短時間のモニタリングと処置を受けた後、元の森へと放たれた。

首に残った傷は時間とともに癒えるだろう。問題は、今回のフタと同じような人工物が今この瞬間も、別の命を締めつけているかもしれないという現実だ。

DNRでは、今回の事例を通じて、使い終わった容器やフタの適切な破壊・処理を呼びかけている。スナックの空き容器やペットフードのバケツなども、クマが頭を突っ込み出られなくなる典型例だという。

この一件は、野生動物と人間社会との接点に関わる課題を改めて浮き彫りにした。適切な廃棄管理や規制の遵守が、今後の同様の事故を防ぐ鍵となるだろう。