ブッフローエから届いたラストアルバムに、ジャネール・モネイのような残響を聴く。BMW アルピナ「B4 GT」【第227回 東京車日記】

  • 写真&文:青木雄介
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スプリッター&ディフューザーで高速度域の安定性が向上。

「B4 GT」は、アルピナの“ラストワルツ”だ。創業家ボーフェンジーペン家が率いた独立系メーカーが自らに課した最終章。GTの称号が示すのは熟成の果てに到達したコンプリート。「ブッフローエ生まれ、ブッフローエ育ち」で鳴らしてきたクラフツマンシップについに終止符が打たれた。 

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GT専用ロゴ刺繍や代名詞のラヴァリナレザー巻きのステアリングに加え、スイッチ類にはゴールドのアクセントが。

乗ってみるとBMWのハイパフォーマンスモデル「M4」とのキャラクターの違いにアルピナの本質が浮かび上がってきた。「M4」はドリルミュージックさながらにラディカルで、不穏で攻撃的でFRベースのスポーツクーペとして最高。一方、「B4 GT」はジャネール・モネイのようなプログレッシブなR&Bを思わせるのね。エッジがあってもコンシャスで直感的でありながらも深く練られたプロデュースワークが光る。たとえばアクセルを踏み込んだ時の低音で美しい6気筒サウンド、4500回転を超えてからの変調、アフターファイア音に至るまで、サウンドはインスピレーションに満ちている。

このクルマに限らず、アルピナはコンセプトアルバムのようなパッケージングの美であり、音、乗り味、デザインに至るまで隙なくコントロールされている。「アルピナかくあるべし」という、膨大な試行錯誤の末に完成。驚くべきことに「B4 GT」も、セッティングをすべて一度白紙に戻して再構築しているんだ。

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ネームプレートが添えられたエンジンは「M4」超えの730Nmを常用域で使いこなす。

このクルマのパワートレインは「M4」と同じS58ユニットをベースにしているものの、吸排気系からターボまで独自にセッティングされていてまったく違うキャラクターに生まれ変わっている。Mモデルが高回転域での鋭さを追求するのに対し「B4 GT」は低中速域のトルクを持たせて、730Nmをフラットに発生させるセッティング。なめらかさと押し出しの強さによって、GTとしての品格を際立たせている。

そして四輪駆動ながらも、後輪駆動のステアフィールを残す。独自の調律が施されたアイバッハ社製のスプリングは、硬さをまったく感じさせずに路面からの突き上げや振動をいなし、静音性にも抜かりがない。ワインディングでは勝手知ったる重心のバランスとトルクマネージメントで安定してコーナリングする。ゆれも心地よくてサーキットを攻め倒すような足まわりではないけど抜群に速い。

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GT専用オロ・テクニコ20インチ鍛造ホイール。

そしてこの足まわりこそがスプリングサスペンションの究極だと思えたのね。特に独自のドライブモードであるコンフォートプラスで走ると、海原を滑るように悠々と走行しながらもスプリングの律動も感じられるような繊細な感覚がある。エアサスのようにハーシュネスを包み込むのではなく、反発してバランスしている。思わず声が出る絶妙さでね(笑)

そもそも「M4」とこの「B4GT」を選べるというのは贅沢すぎる悩み。たしかにこれはアルピナの遺産だけれど、同時にBMWにとっての未来への試金石でもある。単なる高性能モデルではない。クラフツマンシップとテクノロジーを高度に融合させたこのクルマは、Mではない「次のBMWのあり方」を示唆しているように思える。その意味で、ボーフェンジーペン家は、とても大きな置き土産を残したと言えるだろう。

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サスペンションのダンピングプログラムを全モード変更し、コンフォートプラスモードを追加。

BMW アルピナ B4 GT

全長×全幅×全高:4,800×1,850×1,440㎜
排気量:2,993cc
エンジン:直列6気筒ビ・ターボ
最高出力:529PS/6,250-6,500rpm
最大トルク:730Nm/2,500-4,500rpm
駆動方式:4WD(フロントエンジン4輪駆動)
車両価格:¥17,100,000
問い合わせ先/ALPINA CALL
TEL:0120-866-250
https://alpina.co.jp

※この記事はPen 2025年9月号より再編集した記事です。