カンヌで「注目すべき10人の才能」に選ばれた女優・鈴木唯。 大人でも子どもでもない12歳の素顔

  • 写真:竹之内 祐幸
  • 文:松本雅延
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鈴木 唯●2013年、埼玉県生まれ。2024年、 髙田恭輔監督作品『ふれる』でスク リーンデビュー。第78回カンヌ国 際映画祭コンペティション部門に 正式出品された『ルノワール』では 主演に抜擢。同映画祭の「注目すべ き10人の才能」にも選ばれた。

「初めて作品で演技をした時、身体の底から興奮したというか、快感を覚えたんです。その感じをずっと体験したいから、これからもお芝居をやっていきたいです」

俳優・鈴木唯。彼女は12歳にして既に演じることの面白さを身体で知ってしまっているようだ。現在公開中の早川千絵監督作『ルノワール』では主演を務め、本作がお披露目されたカンヌ国際映画祭では「注目すべき10人の才能」に選出された。

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演じた役は、想像することが大好きな11歳の女の子・フキ。がんを患い闘病する父(リリー・フランキー)と、家事と仕事に忙殺される母(石田ひかり)との生活が変化する中で、子どもから大人へと脱皮する繊細な時期の少女を見事に演じきった。すらりと伸びた手足に、どこか遠くを見ているかのような黒い瞳、そして愛くるしいヘアスタイルが印象的な鈴木。その存在すべてがフキという役柄に溶け込み、スクリーンいっぱいに押し出されている。

役づくりについて早川監督から「そのままでいい」と言われたというが、台本を読み込み、フキの感情を捉え撮影に挑んだと話す。

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父役はリリー・フランキー。撮影中リリーが差し入れてくれたスイカで、人生初のスイカ割りをしたのもいい思い出になったという。

「少し変えたのは髪型くらい。小さい頃からずっとおかっぱなんですけど、映画のためにちょっとだけ短くしました。伸ばしたいと思うこともありましたが、今回みんなに覚えていただいたので、一生このままでいいかなって。あと、スイミングをやっていた時は、この髪型だとキャップが被りやすかったり、すぐに乾いたり……。意外といいことも多いんですよ」

そうやって時折、現実主義的な一面がのぞくのも彼女の魅力だ。監督の早川は、本作のフキ役を早い段階で鈴木に託すことに決めた。そのオーディションでの面白いエピソードがある。動物が好きだという鈴木は、監督の前で得意の馬の鳴き声のモノマネを披露した。なお劇中にもモノマネが2度ほど登場する。早川監督も鈴木の存在からフキの輪郭を明確にし、脚本を書き重ねていったようだ。

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左:祖母手づくりの編み人形は鈴木のお守り。手前は自身のサインが入った『ルノワール』の台本。画角を意識して鈴木自ら配置してくれた。 右:読書好きで小説も書くという鈴木。『14歳の君へ』は「人生の考え方が変わった本」。『黒ねこサンゴロウ』は早川監督からクランクアップの際にもらったもの。

鈴木いわく、フキは大人でも子どもでもない、ちょっと不思議な子。劇中、テレパシーや催眠術に関心を持ち、人の言葉とは違ったコミュニケーションを織り交ぜながら他人との世界を紡いでいく。

「フキちゃんは多分、なんでも直接感じて直接返す” 直直型“ なんだと思います。私もテレパシーとかUFOとかミステリアスなものが大好きだから、そこもちょっと似ているかもしれません」

取材当日、鈴木が大切にしているものをいくつか持ってきてもらった。大好きなドラえもんの秘密道具図鑑やお守りの人形、そして早川監督からもらった児童小説『黒ねこサンゴロウ』。

「この本は、船乗り猫のサンゴロウが主人公の話。そこに登場する灯台守のカイくんの秘密がすごく悲しくて。あとから読んだら、映画と似ている部分があると感じました。だから監督は私に贈ってくれたのかな。いままで読んだなかでいちばん心にしみた小説です」

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愛猫は鈴木にとっての癒やし。「アメリカンショートヘアで本当はミウという名前なのですが、家族みんな“みーちゃん”って呼んでます」

映画はフキの想像の世界と現実の世界が入り混じり、その解釈は鑑賞者に委ねられる部分が多い。

「私が思ったのは、想像のシーンではBGMが流れていること。そこで印象に残っているのは、フキちゃんが船に乗りいろんな人と楽しそうに踊るシーン。フキちゃんが大人になり独立して楽しく生きていくことを監督に教えてもらいました。ただ、この映画が、ひとりの女の子が成長していくひと夏の物語だとしたら、それは全部フキちゃんにとって大切な現実だとも、私は思います」

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どんな俳優になりたい? いま、そのためにしていることは? そう尋ねると「すごい俳優になりたいと思いますが、楽しく元気にお芝居を続けられたらいいなって。そのためには健康が大事」と答えた。そして、12歳らしい瑞々しい眼差しでこう続けた。

「あと、私はいま中学生なので、青春を楽しみたいです。学校も遊びも。いましかできないことを、思いっきり!」

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PICK UP

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映画『ルノワール』死期が迫る父と仕事に明け暮れる母。近所の未亡人や伝言ダイヤルで知り合った自称大学生。心の奥に孤独や痛みを抱える大人に触れながら成長する、少女のひと夏の物語。

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PERSONAL QUESTIONS


いまよく聴いている音楽は?

おじいちゃんの影響でビートルズやクイーンを聴いています。楽曲は、ビートルズなら『Ob-La-Di, Ob-La-Da』や『I want to hold your hand』、クイーンは『Don’t stop me now』とか。

毎日欠かさずに行っていることは?

おうちのベッドの上。疲れた時に飛び込んで寝るのが幸せ。ベランダも好きですね。秋は日向ぼっこしたり、お風呂上がりにベランダで空を見ながら水を飲んだりするのも最高ですね。

いまほしいものは?

ドラえもんの映画45周年記念のアクリルスタンド。私はドラえもんが大好きで、毎日アニメを観るほど。映画44作品コンプリートしたいです! あとは自分の部屋と机もほしいですね。

無人島にひとつだけ持っていくとしたら?

えっと……サバイバルの本かな。SOSを出す方法とか、いろいろ本で調べて、試して、助けの船が来るまで自力で生活します。誰もいない無人島でサバイバルするのも楽しそう。

 

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