【Penが選んだ、今月の音楽】バンド・ファーストの精神を宿す、甘茶ソウルの成熟作『フラワーズ』

  • 文:山澤健治(エディター)
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【Penが選んだ、今月の音楽】
『フラワーズ』

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アメリカ中西部の名門州立大学、インディアナ大学ブルーミントン校で結成されたヴィンテージ・ソウル・グループ。2016年にセルフタイトル作でデビュー。収録曲「Groovy Babe」がGoogleのCM曲として使用され話題を集める。本作は、4年ぶりとなる4作目。

1980年代後半、KKKの支部もあるアメリカ中西部の保守的な田舎街で留学生活を過ごした。人種差別される側の痛みを味わいつつ、人種間の壁が年毎に氷解していく景色にはとても勇気づけられた記憶がある。そんな当時の自分に、40年後の日本の参院選では排外主義の機運が高まると伝えても、にわかには信じないだろう。人種に優劣をつける「日本人ファースト」の思想がまかり通るディストピアが、しかし、いま現実化しつつある。

肌の色を超え、ヴィンテージ・ソウルへの愛を絆に同じ中西部で結成されたドラン・ジョーンズ&ジ・インディケーションズは、そんな萎えかけた気持ちを奮い立たせてくれる存在だ。ソウルフルな黒人シンガーであるドラン・ジョーンズと、甘美なファルセットボイスでドランと人気を二分するドラマー兼シンガーのアーロン・フレイザーという二枚看板それぞれのソロ・アルバムを間に挟み、4年ぶりに発表された『フラワーズ』は、各自の経験を糧とする「バンド・ファースト」の想いが詰まった美品だ。

インディアナ州ブルーミントンの地下室で制作したデビュー作をなぞるように、サウンドの核を担うブレイク・レイン(g)のシカゴのホーム・スタジオで録音された楽曲は、その多くのトラックがワンテイクのデモをベースに生み出されている。ただし、制作過程は似ていても、ガレージ・ソウル然としたデビュー作やディスコ・ビートに挑んだ前作とは異なり、『フラワーズ』の聴き心地はアーロンのスウィートネス全開で甘く優しい。ウィリアム・デヴォーンの不滅の名曲を想起させる曲もあるが、なにより顕著なのが70年代の東海岸周辺のモダンなボーカル・グループのムードだ。ドラマティックスやエイス・スペクトラムが撒いた種を開花させた、甘茶ソウルの成熟作に胸が温まる。

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ドラン・ジョーンズ&ジ・インディケーションズ ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ DOC367JCD ¥2,750

※この記事はPen 2025年9月号より再編集した記事です。