レンジローバー スポーツは、ドライブが積極的に楽しめるスポーティSUV。なかでも、レンジローバー スポーツSVは図抜けている。「レンジローバーファミリー史上最もパワフル」なエンジン搭載だ。

2023年に「エディション1」が発売され、24年に「エディション2」が続いている。25年7月に軽井沢で後者に乗った。
現在、レンジローバーのラインナップは多様だが、頂点は、その名も「レンジローバー」と、名前のとおり、より走りに振った「レンジローバー スポーツ」。

レンジローバーのデザインテーマが「リダクショニズム」。リダクションとは“削減”という意味だ。
日本法人では「還元主義」と訳される。「シンプルさの追求であり、複雑さをそぎ落としていく手法」と、同社のジェリー・マガバーン氏は語っている。
チーフデザインオフィサーの肩書きを持つ同氏によると、車体のすべてのラインとパーツが明確な意味を持っていることを明確にするための手法だそう。

軽井沢で接したSV「エディション2」も、レンジローバーのデザイン哲学に則って仕立てられた一台だ。
エンジンは、4.4リッターV型8気筒。467kWの最高出力と750Nmの最大トルクを持つ。
マイルドハイブリッドとターボチャージャーを装着。発進時はモーターがトルクを積み増し、回転が上がるとターボが回り出す。ドライブした印象をひと言でいうと「強烈」だ。

静止から時速100kmまで加速するのに3.8秒とされている。ちょっと前のスーパースポーツに匹敵する値だ。それでいて、これ見よがしな空力付加物などない。
いわゆる足まわりは、23インチの大径ホイール装着。それに、前が285/40、後ろが305/35という薄いタイヤの組合せだ。
リダクショニズムゆえ、車体は”かたまり”としての造型で、それがかなりの迫力を生んでいる。そこに大きなタイヤ。

「ここまでシンプルでピュアな造型にすると、誰もマネできないしょう」
かつてレンジローバーが発表されたとき、前出のマガバーン氏が私にそう語ったことがある。
タイヤと車体のバランスであるプロポーション、面づくり、細部の処理、そして同様のテーマで造型された内装……。
自分ならそのデザインテーマをこう昇華させるのに……なんて、他社のデザイナーが考える余地を残さないほどの徹底ぶり。
それゆえ、レンジローバーは唯一無二の価値を持ち続けるのだ。

そこに持ってきて、BMW Mが手掛けた4.4リッターV8エンジンを搭載。
チューニングは、おなじエンジンを使う「ディフェンダー オクタ」よりオンロード走行寄りだ。
オクタでは、トルクもトップエンド(高回転)でのパワーもしっかり確保されている。が、発進加速の鋭さなどはSVが上。

オクタもSVも最大トルクは750Nmと同一で、1800rpmからという発生回転数も共通しているが、アクセルペダルの重さや踏み込み量のファイン(細かい)チューニングが違うのだろう。
それだけでも印象はまったく違うから面白い。
ステアリングホイールを操ったときのフィーリングや、車体の動きと関連する電子制御サスペンションシステムの設定も、SVのほうが反応が速くてスポーティに感じられる。

軽井沢周辺の上がり勾配なんてなんのその、カーブが続く屈曲路では大排気量のスポーツカーなみの身のこなしだ。
下り坂でも、重量級の車体にまったく負けない強力かつ踏みごたえが繊細なブレーキで、安心感が高い。
内装は先に少し触れたように、シンプルな造型が特徴的だ。あえて上質な素材感を強調したデザインである。

乗りこむと、操作類がごちゃごちゃと目に入らないため、人によっては圧迫感が少ないと感じるだろう。
「ライトクラウド/エボニ−」なるカラーコンビネーションのシート地は雰囲気がよい。
ヘッドレストレイント(ヘッドレスト)一体型のスポーティな形状なので、からだのホールド性という機能面でも優れている。

どこを目指して開発したのか。コンセプトが明快なのが、レンジローバーの最大の長所で、SVも同様だ。
2000万円を超える価格帯だからこそ、限られた顧客層に向けて、つくり手の審美観が伝達できるともいえる。
高価格帯のクルマでも、いまひとつ存在価値をうまく確立できないものがある。それをクルマづくりのコミュニケーションというなら、レンジローバー スポーツSVはうまい。好個の例なのだ。
レンジローバー スポーツSV
全長×全幅×全高:4970×2025×1815mm
ホイールベース:3000mm
車重:2560kg
4394ccV型8気筒
システム最高出力:467kW@6000〜7000rpm
最大トルク:750Nm@1800〜5855rpm
8段オートマチック変速機
全輪駆動
乗車定員:5名
価格:2105万円〜
問い合わせ:ランドローバー・ジャパン
www.landrover.co.jp