スズキにとって初のBEVが「e(イー)ビターラ」。2025年度中に発売されるという、このモデル。7月10日に先行情報が公開された。ここではプロトタイプをテストドライブした印象をお伝えしたい。
eビターラは、スズキ社内のデザイン。車体側面をはじめ、各所のエッジを強調したような特徴を持つ。もうひとつの特徴はパッケージング。4275mmと比較的コンパクトな全長に対して2700mmと長めのホイールベース。225/55R18サイズのタイヤが車体四隅に配され、前後オーバーハングは切り詰められている印象だ。エンジンでなくBEV(バッテリー駆動EV)だから可能になった構成だろう。
スズキによると、eビターラのコンセプトは「エモーショナル・バサタイル・クルーザー」。つまり「EVのイメージである“洗練さと先進性”のみならず“多機能性”を併せ持つSUV」だと、プレスリリースで説明している。
世界戦略車というeビターラ。それだけに意欲的なボディデザインだと感じられる。フロントは一見、明確なグリルがなく、ボディ同色のパネルと、LEDのシグネチャーランプが存在感を強調。
後方は、張り出した後輪まわりのフェンダーと太いリアクォーターパネルが力強さを主張。立体的なコンビネーションランプの輪郭は、ヘッドランプ周りとの関連性を意識させる。
車体側面は、前進したAピラーの付け根がキャビンの広さを強調しているのが、すぐ目につく。ボディは側面は強く抑揚がつけられていて、フェンダーとボディ下部をつなぐ黒い樹脂製のクラディングとともに、オフロード感ともいうべき雰囲気を醸し出している。
スズキでは、eビターラにFWD(前輪駆動)とAWD(全輪駆動)を用意。特に後者では、オフロードでの走破性の高さも謳われている。
スズキの手掛けるクロスカントリー型4WD車の実力ぶりはジムニーで実証済み。eビターラでは一歩進んで、と言えばいいのだろうか。都市とオフロード、ふたつの世界に向けたクルマのようだ。
私は、FWD車とAWD車を交互にショートサーキットで乗った。発売前のプロトタイプなので、まだ登録が出来ず一般道での走行は不可だからだ。
サーキットと一般道ではどうしても走り方が変わってしまうが、急な加速やブレーキング、それに連続するカーブでステアリングホイールを操作したときの車体の動きなど、走行性能における重要な部分を体験することができたと思う。
4WD車は、後輪の駆動力を使いながら、カーブでの姿勢安定性を図って図っていて、実際に安定感が高い。アクセルペダルを踏み込んだ時の加速もよくて、なかなか痛快な走りっぷりだ。
ステアリング特性は、「オフロード走行も考えてシャープさは追求していない」とスズキの技術者は言うが、十分楽しめるレベルの仕上がりと感じられる。
技術的な注目点は、スズキが開発して、トヨタも自社ブランドで販売する計画に則って開発されたところ。
シャシーの一部構造を担う駆動用のリン酸鉄バッテリーは、BYD傘下の電池メーカー弗迪電池(FDB)によるもの。FDBは中国でトヨタと提携を行っているメーカーだ。
組み合わされる駆動系は「eAxle(イーアクスル)」と呼ばれる。モーターと減速機とインバーターが一体化した機構で、トヨタとアイシンとデンソーが出資するBluE Nexus(ブルーイーネクサス)から提供される。
最近のトヨタやレクサスでは、eAxleを活用して車輪の駆動力を制御。車体の姿勢制御からコーナリング中のライントレース性に至るまでカバーする技術を採用しているが、eビターラでは後輪を駆動することで、操縦安定性とともに、悪路走行性も同時に高まっていることを強調する。
登坂能力がFWDの18.5度に対してAWDでは26.8度まで上がっている。さらにドライブモードでオフロード用の「トレイル」モードでは、前後輪の駆動に加え、片輪が浮き上がった場合でも、そこにブレーキをかけることで、接地している車輪へのトルク伝達が途切れない仕組みだ。
駆動用バッテリーは、49kWhと61kWhの2種類。FWD車は49kWhの106kW仕様と、61kWhの128kWというふたつの仕様が用意される。AWD車は61kWhのバッテリー搭載で、48kWの出力を持つ後輪駆動システムが加わる。
25年夏からグローバルで販売が開始される。日本へは今年度中の導入を計画しているとスズキ。価格は未定だが、どこでも走れる可能性を秘めたeビターラだけに、新しい市場を開拓できるかもしれない。
スズキ eビラータ 4WD (Prototype)
全長×全幅×全高:4275×1800×1640mm
ホイールベース:2700mm
車重:1890kg
電気モーター 前後各1基 全輪駆動
バッテリー容量:61kWh
最高出力:フロント128kW リア48kW
一充電走行距離:450km以上
乗車定員:5名
価格:未定
問い合わせ:スズキ
www.suzuki.co.jp