究極のオフローダーであり、かつ路上でのステータスが抜群という、英国の「ディフェンダー」。頂点に位置するのは究極のヒーローモデル「ディフェンダー オクタ(Octa)」だ。
ひと言でいうと、究極の性能を持ったディフェンダー。オクタというサブネームは、8面体(octahedron)形状のダイヤモンドに由来するという。「地球上で最も硬く、最も人々を魅了する鉱物であり、特徴的な外観と耐久性を有する」というのが、ディフェンダーによるダイヤモンドの説明だ。


「この形状からインスピレーションを得たディフェンダー オクタは、強靭さや弾力性、人目を引く魅力、希少性や価値を象徴しています」とプレス向けリリースにある。メーカーがこのクルマに対して持つ、大きな自信を感じさせる。

2024年夏に登場して、日本でも大きな発表会があった。25年からごく限られた人へのデリバリーが始まった。筆者も今年6月、ドライブする機会があった。“ディフェンダーの頂点”と形容するのがよくわかる体験だった。
そもそも、米国ジープに対抗できる性能をもった4WD車として1948年に開発されたのがランドローバー。車名はユニークで、ランド(陸のどこでも走れるの意)と、ローバーをひとつに繋げたもの。

ローバーは実は、当時の英国では、ロールス・ロイスやベントレーのすぐ下に位置する高級車だった。
特に1960年代から80年代にかけて、ウィルスン、ヒース(ふたりの首相はザ・ビートルズ「タックスマン」の歌詞に登場)、キャラハン、そしてサッチャーまで、歴代英国首相は「P5B」というローバーの大型セダンを愛用した。

Netflixのドラマ「ザ・クラウン」でも、サッチャーが首相になった当時、ローバーに乗っている場面が何度も出てくる。首相のクルマは途中からジャガーXJに代わる。
クルマはこのように、ある種の世代交代をする。当時はローバーを誇らしげに名乗っていたランドローバーも、独自に”進化”。ランドローバー自体が押しも押されもせぬブランドとなった。

現在の「ディフェンダー」は、2020年に登場。オリジナルの雰囲気をうまく活かしたボディデザインに、パワフルなエンジンと性能の高い4WDシステム、それにシンプルながら質感の高いインテリア(とそれに比較的高価格のブランド性)で、しっかりファンを掴んでいる。
日本でも2ドアの「90」、4ドアの「110」、そして3列シートの「130」を展開した。

オクタは、110をベースに、専用の4394ccV8エンジンを搭載している。マイルドハイブリッド化されたこのV8は、467kWの最高主力と750Nmの最大トルクを発生。
ボディのディメンションは性能アップとともに拡大。4940mmの全長はオリジナルの110とほぼ同等である一方、車高は28mm上がった。それで渡河性能などが向上。オフロード性能が常に高いのはディフェンダーのこだわりだ。

トラック(左右の車輪の幅)を68mm拡大させて操縦性を上げているため、全幅は1955mmから拡大して2065mmとなっている。
サスペンションシステムも、アクティブダンパーを採用するなど専用設定。ブレーキもより強力になり、オンロードでもオフロードでも性能が向上している。
足回りも専用。「6D ダイナミクスサスペンションシステム」と呼ばれる電子制御システムが採用された。油圧連動の連続可変セミアクティブダンパーが路面の状態を検知するセンサーと繋がっていて、オンロードでは路面に張り付くような感覚で走れる。

オフロードでは、より高い走破性とスムーズな操縦性を実現。とりわけ、ボタンで起動する「オクタモード」は大きな特徴だ。ディフェンダー初のオフロード走行時のパフォーマンスに特化したモードである。
筆者は、まだバカンスシーズンが始まっていない軽井沢の千ヶ滝から鬼押出し、それからオフロードコースの「浅間サーキット」(一般非公開)でドライブ。期待以上の走りだった。

オンロードでは、足まわりがよく動く。かつ電子制御サスペンションシステムのおかげで、車体の上下動は抑えられ、上質なセダンに乗っている感覚だ。
印象的なのはステアリングホイールを動かした時。オフロードでも高い走破性を発揮することが求められているので、スポーツカーのような俊敏な動きは抑えられている。
スポーティなクルマと比較すると、カーブを曲がるときにステアリングホイールを動かす量は多め。だけれど、遊びがあるのではなく、クルマとドライバーがステアリングホイールを介して繋がっている感覚はとてもよい。

エンジンはパワフル。標準のディフェンダーより大きくウイングが張り出し、それなりに迫力を感じさせるオクタの外観にふさわしく、「ダイナミック」モードでは力強い疾走感が痛快なほどだ。
オフロードでは、「オクタ」モードを起動させた。路面は砂利敷き。起伏に富んでいて、小さなカーブが多い。かつ、道幅は狭い。そこでのドライブは安心感が期待以上に高かった。

オクタモードの最大の目的は、たとえ悪路であっても、33インチ系のオフロード用タイヤを使った駆動力をできるかぎり確保することにある。路面から車輪が離れず、かつトルクを最大に効率よく路面に伝える角度を維持しようとする。
荒れた路面をすこし速度を上げながら走るときの安定感には感心するしかなかった。路面の状況が、ステアリングホイールを通して手のひらに伝わってくるし、カーブを曲がっていく時の安定感も特筆もの。

道は砂利と小石なのだけれど、カーブに入って、曲がって、そして出口から加速していく感覚は、舗装路面とほとんど変わりないほど。
オクタモードでは、思いきり強くアクセルペダルを踏み込んでも、車輪が空転するようなトルクは出てこない。あくまで落ち着いて、無理のない速度感。乗員がはげしく揺さぶられることもなく、走っていける。信頼感が持てるのが、最大の特徴と言える。

インテリアの基本デザインは、ディフェンダー110に準じる。オクタの場合、軽量化と質感を同時に追求。高価なセミアニリンレザーもあるし、一方で従来のレザーより30%軽量というウルトラファブリックや、クバドラ社のウールファブリックも、という具合。
スーパープレミアムクラスとも言うべきSUVはいま、市場で増えている。オフロードも得意とするディフェンダー オクタは、このクルマでしか手に入らない性能とキャラクターを有している。唯一の価値のあるクルマだ。
ディフェンダー オクタ
全長×全幅×全高:4940×2065×2000mm
ホイールベース:3020mm
車重:2610kg
4394cc V型8気筒マイルドハイブリッド 全輪駆動
最高出力:467kW
最大トルク:750Nm
乗車定員:5名
価格:2099万円〜
問い合わせ:ランドローバージャパン
www.landrover.co.jp/index.html