素足で履くのがプレッピー流。 ヨットの甲板でも滑らない、手縫い仕立ての白底デッキシューズ

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
Share:
モデル名の「ポートランド」は、ブランド創業の地であるアメリカ東部・メイン州の港町に由来する。上質で柔らかないスエードレザーを用い、ハンドソーンのモカシン縫いで仕上げたデッキシューズのお手本と言えるデザイン。白のステッチとソールに採用されたホワイトホールがアクセントになっている。こちらは2026年春夏に向けてリリースされるニューモデル。¥38,500/セバゴ

大人の名品図鑑 サマープレッピー編 #3

プレッピーとは、アメリカの名門私立学校=プレパラトリースクール(略してプレップスクール)に通い、有名大学を目指す学生たちのこと。彼らの装いを参考にしたスタイルも“プレッピー”と呼ばれ、これまで多くのデザイナーやブランドの着想源となってきた。今回はこのプレッピースタイルと、その装いに欠かせない名品たちを掘り下げて紹介する。ポットキャスト版を聴く(Spotify/Apple

どんなスタイルにおいても、特に流行の影響を受けにくいメンズファッションでは、靴は装い全体を象徴する、最も重要なアイテムのひとつだ。『オフィシャル・プレッピー・ハンドブック』(以下『プレッピー・ハンドブック』)のCHAPTER4では、「プレッピーかどうかを判断するには、まず靴を見る」と記されている。「正しい靴」であれば合格の可能性があるが、「まちがった靴」は即失格と言うわけだ。

では「正しい靴」とは何か。『プレッピー・ハンドブック』では、バスやブルックス ブラザーズのローファーやウィングチップなど、“アイビー”で定番とされた革靴に加え、L.L.ビーンのモカシンやビーンブーツといったアウトドア&スポーツ向けの靴も挙げられている。そしてその中でも特に注目されたのが、「デッキシューズ」である。

デッキシューズとは、ヨットの甲板で滑らないように設計された、白いラバーソールが特徴の靴。『プレッピーハンドブック』では、キャンバスやレザー製のアッパーを持つモデルが紹介されており、さらに「プレッピーは靴下を履いてはならない」と、素足で履くことが彼らの作法と明記されていた。1984年発行の『MEN’S CLUB BOOKS SHOES』(婦人画報社)では、デッキシューズについてこう解説する。

「正確にはボーディング・シューズ、文字どおり船の甲板で履くために出来た靴で、厚手のキャンバス(帆布)を使用したものと、厚手で柔らかい牛革に油を染み込ませてあるオイル・レザーのものがある。海水に濡れても強い。また重要なポイントとして、靴底には濡れたデッキで滑らないように、波状の切り込み加工が施されていること。濡れることを見越して、素足に履くように出来ている」

また2012年発行の『靴を読む』(山田純貴著 世界文化社)には「デッキシューズは水路網が発達し、世界一の海運国だった19世紀のイギリスで開発されたボートブーツが起源と考えられます。それらが海上や港湾での労働靴として、また同国で盛んになり始めていたボート競技用として履かれていたようです。やがてそれがアメリカに伝わってモカシンと融合し、スリッポンタイプの短靴に変容。これにさまざまな機能が追加され、ボートモカシンとかヨットモカシンとも呼ばれるデッキモカシンとして完成をみたと推察できます」と記されている。80年代のプレッピーブームでは、こうした機能と物語を備えたデッキシューズが、アメリカ本国のみならず日本でも爆発的に大ヒット。日本の多くのシューズメーカーもこれに追随してデッキシューズの製作に乗り出した。

正統派プレッピーが選ぶ、機能美あふれる一足

今回紹介するのは、そのデッキシューズの代表格とも言える、アメリカの老舗セバゴの名作「ポートランド」だ。セバゴは1946年、メイン州ポートランドで創業されたシューズブランドで、創業者はニューイングランド出身のダニエル・J・ウイルヘンと言う人物。自身が経営する靴店に置きたい靴がないことが、ブランドを始めるきっかけとなった。1970年に登場した「ドックサイド(Docksides)」と呼ばれるデッキシューズのコレクションは、当時の若者や船乗りの間で人気を博し、80年代にはプレッピー御用達として世界的なブームを巻き起こした。

「ポートランド」は、上質なレザーを使用し、ハンドソーンのモカシン縫いによって、丁寧に仕上げられている。濡れたデッキでも滑りにくい波状のラバーソールや、海水に強い真鍮製のアイレットなど、機能性とクラフツマンシップを兼ね備えた一足だ。セバゴでは、デッキシューズに限らず、ビールロールのローファーやビットモカシンもラインナップされており、これらの靴は『プレッピー・ハンドブック』にも紹介されている。創業以来の手縫いによるフィット感、履き込むほどに馴染むレザーの質感など、まさにプレッピーの美学を体現したシューズブランドだと言える。---fadeinPager---

20250528_Pen_online4597[1].JPG
インソールに刻印されたブランド名。セバゴの名は、メイン州で最も深く、2番目の大きさを持つ「セバゴ湖」に由来する。メイン州が「バケーションランド」と呼ばれるほど、自然豊かでアメリカ中からレジャーを楽しむ人が集める地域。だからヨット用の靴も考案されたのだろう。

---fadeinPager---

20250528_Pen_online4594[1].JPG
セバゴのデッキシューズを象徴するのが、手縫いによるモカシン縫製。素足で履いても足馴染みがよく、履くほどに足型に馴染んでくれる。

---fadeinPager---

20250528_Pen_online4593[1].JPG
あらゆる天候下で安定した滑り止めのグリップを提供する白のラバーソール。1980年代、プレッピースタイルを志向する日本の若者たちも、この白ソールに魅了された。

---fadeinPager---

20250528_Pen_online4599[1].JPG

「ビーフロール」の独特なディテールを持つローファーは、セバゴを代表する靴だ。モデル名は創業者ダニエル・J・ウイルヘンの名前に因んだ「クラシック ダン」。オーセンティックなローファーもプレッピー御用達の靴で、『プレッピー・ハンドブック』ではこの種のローファーを「ぴかぴかにみがかれたものか、ボロボロに履き古したものに限られます」と記している。実にプレッピーの気質がわかる解説だ。¥50,600/セバゴ

---fadeinPager---

20250528_Pen_online4601[1].JPG
セバゴのビットローファーで、モデル名は「クラシック ジョー」。上質なスムースレザーを用い、デッキシューズと同じくハンドソーン製法で仕立てられている。実はビットローファーもプレッピーが愛用する靴で、『プレッピー・ハンドブック』には「カントリー・クラブで靴下なしで履きます。絶対に大卒者向き」と解説されている。ビットローファーは、プレッピー上級者に最適な靴だ。¥52,800/セバゴ

トヨダトレーディング プレスルーム

TEL:03-5350-5567
https://sebago.jp