アクセル開度75%のトルネード!?  王道を見せつける、グランドツアラーの最高傑作「ベントレー コンチネンタル GT スピード」【第223回 東京車日記】

  • 写真&文:青木雄介
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新型は部品の68%を刷新。ヘッドライトは4灯式からクラスターライトとデイタイムライトを組み合わせた。

手に入れたら最後、「死ぬまで乗る」と誓ってしまうだろうクルマがある。ベントレーの新型「コンチネンタル GT スピード」は、そういうマスターピースだった。

野球でいえば、内角低め時速160㎞のストレート。来るとわかっていても、感嘆の声とともに見送るド直球ですよ。個人的に初代の衝撃を超えることはないと思っていたけど、超えた気もしているね。そのハイブリッドシステムは、独創的なフォームで球界に衝撃を与えた村田兆治のマサカリ投法を超える、野茂英雄のトルネード投法みたい(笑)

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オプションのNaim オーディオ システムでは座席に内蔵されたトランスデューサーがアクティブにベースラインを体感させる。

先代までは魅力の本質がエンジンにあり、ベントレーらしい上品でなめらかなコクのある12気筒を「スピード」の名にかけて、いっそう速く乗りこなすためのグランツドアラーだった。新型は、V8エンジンにハイブリッドモーターを組み合わせたPHEV(プラグインハイブリッド)。

乗ってみると先代のW12エンジンの格上を狙っているし、クルマの個性をとてつもなくブーストさせている。でも新境地ではないのね。あくまでも進むべき王道をより洗練させ、深化させている。

高反発なクッションのシートに座ると、無音でクルマは滑り出す。ゆるやかなアクセルであれば、時速100㎞を過ぎてもEV走行を続けられる。より強く踏み込めば、無重力状態のようなふわりとした体感があってV8エンジンの豊穣なトルクが湧いてくる。つながりはスムーズで、アクセル開度75%以上を踏み込めばV8エンジンが解放される仕組みになっている。 

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ウェルカムランプは煌めきまで表現する。

ワインディングを攻めれば、オーセンティックなV8サウンドとともに稀代のグランドツアラーらしい走りを見せる。トルクフルで優しく地面を蹴り出し、足元のみならず車体全体でブレーキがかかるようにエレガントに制動する。シート圧に同調する素晴らしい乗り心地のツインチャンバー・エアサスペンションは、硬さを感じさせないところで、ひそやかに踏ん張りを効かせる。

そしてその名の通り、スピードを上げるほど宙を浮いて移動するような、浮世離れした高速走行が見事。路面や速度に応じてアダプティブな走行をする「ベントレーモード」はポテンシャルの機微を伝えてくるし、「コンフォートモード」も全身骨抜きにされてしまうような恍惚とした揺れがもたらされる。アクセルを踏み、速度を出すことで凝りをほぐされるような根源的な快感があって、つくづく「ヤバいクルマだ」と思ったね。

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バッテリー搭載により前後バランスは49:51に。トランスミッションはポルシェの手による8速DCT。

アクセルとブレーキ、ステアリングの操作感には、手巻きの腕時計のようなアナログな感触があり、そのクラシカルな品のよさがドライブ体験へ反映される。さらにその繊細さが「クルマに見られている」ような感覚を生み出し、エンジンを切るまで体験として連続していて、いっさい隙がない。

この夏の夜の闇のような、ねっとりとした連続性はPHEV車の特徴でもあるんだけど、ベントレーの自信に満ちた保守王道のスタンスを表現してもいる。

王道とはその名前に他ならない。このクルマは、初代からその一語一句が本質を射抜いてきた。「コンチネンタル GT スピード」。そう呟けば、呪文のようにドライバビリティが甦るのだ。

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リアには後輪操舵と電子制御式トルクベクタリングLSDを搭載。リニアで鋭いターンインを実現。

 

ベントレー コンチネンタル GT スピード

全長×全幅×全高:4,895×2,187×1,397㎜
排気量:3,996cc
エンジン:V型8気筒ツインターボ+Eパワー
システム最高出力:782ps
システム最大トルク:1,000N・m
駆動方式:AWD(フロントエンジン4輪駆動)
車両価格:¥39,303,000
問い合わせ先/ベントレーコール
TEL:0120-97-7797
www.bentleymotors.jp

※この記事はPen 2025年7月号より再編集した記事です。