文化と暮らしの“再編集”。TSUTAYA BOOKSTOREが描く、高雄のこれから

  • 写真:劉泳男
  • 店舗写真:台湾蔦屋
  • 編集&文:Alicia Chien
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台湾・高雄にあるTSUTAYA BOOKSTORE高雄大立店は、本を起点に、暮らしと文化の架け橋となる拠点だ。都市と本の関係を長年にわたり見つめてきた台湾蔦屋董事長・大塚一馬は、書店を通じて、文化の発展を試みている。Pen台湾版の最新号より再編集して掲載する。

Pen台湾版は2024年3月にスタートし、隔月で発行。日本の新たな潮流や価値観を台湾に届けると同時に、ローカルなエッセンスを融合させ、中国語圏の読者により豊かなライフスタイルを提案している。
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台湾に来て7年以上が経つ台湾蔦屋董事長・大塚一馬。彼が語るのは、TSUTAYA BOOKSTOREからはじまる、書籍、都市、暮らし、そして地域創生について。彼の目に映る高雄は、単なる港町ではなく、台湾のカルチャーを世界へ発信する「未来都市」としての可能性を秘めている。

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大塚一馬 Kazuma Ohtsuka●NTTコムウェアでシステムエンジニアとしてのキャリアをスタートし、2001年にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)グループの蔦屋書店に入社。2007年から2018年にかけてエリアマネジメントを担当し、2019年より台湾に赴任。現在は、台湾蔦屋股份有限公司の董事長兼総経理を務める。

いつも穏やかな印象を与える大塚一馬は、取材の中でこう強調した。「文化がある場所こそ、成長する力を持てるんです。」彼は、文化空間の設計や選書のロジック、空間が持つ言語性こそが、日本のCCCグループにとって最も重要な要素だと語る。

書店は、ただ本を売る場所ではない

「本は、文化を伝える最も重要な手段です」

そう語るのは、日本からやってきた大塚一馬。長年にわたり、デザインと暮らしをつなぐ文化の融合に取り組んできた彼にとって、TSUTAYA BOOKSTOREは単なる書籍販売の場ではない。それは、街の文化的エコシステムの一部であり、都市に息づくカルチャーの発信基地でもある。台湾各地への出店を進める中で、特にこれまで大型書店のなかった地域にあえて挑む理由―それは、彼の考える「地域創生」の具体的なアクションそのものだ。

「本と文化を、書店のない場所に届けたい。そして、地域とともに育っていきたい」

そんな思いが、TSUTAYA BOOKSTOREを従来の書店とは一線を画す存在にしている。並ぶのは本棚やコーヒーだけじゃない。暮らしに寄り添うセレクトアイテム、洗練された空間デザイン、地域に根差したアートやカルチャーイベント。「もしもその街の書店が、地域の人々が語り合う起点になれたなら―それはもう、単なる「文化の容器」ではなく、「文化を動かす行動」と呼べるのかもしれない。」

高雄の「違い」は、日常のリズムとして感じられるもの

高雄のことを語るとき、大塚一馬は笑顔でこう話す。「多くの人が高雄に対して工業の街というイメージを持っているかもしれません。でも私たちが見たのは、商業が活気づき、南国らしい雰囲気に満ちた魅力的な都市でした」

そんな高雄の持つリズム感は、彼にとって日本の大阪を思わせるものがあるという。どちらの街も、強いアイデンティティを持ち、地元発のファッション、音楽、アート、そして暮らしの文化が根づいている。台北とは距離もあり、文化や習慣も異なるこの都市には、独自のライフスタイルが育まれていると彼は感じている。

「ここは第二の都市だけじゃない。自分たちの立ち位置を模索しながら成長を続ける、台湾南部カルチャーの拠点なんです」

本と地域創生が織りなしてきた経験

「地域創生」という言葉は、日本のCCCグループにとって単なるスローガンではなく、都市と具体的に関わるための実践的な仕組みである—その姿勢は、大塚一馬の語り口からも明確に伝わってくる。日本各地で積み重ねてきたその実践は、台湾における都市戦略を考えるうえでの確かな土台にもなっている。

「文化がある場所こそ、成長する力を持てる」

そう強調する彼にとって、文化空間の設計、商品セレクトのロジック、そして空間が持つ言語性は、TSUTAYA BOOKSTOREが最も大切にしているポイントだ。高雄大立店では、特に南国らしい空気感を取り入れたデザインを施し、現地の運営チームにより大きな裁量を与えるかたちをとった。こうした地域との協働の仕組みは、「外から来たブランドが、どうすればその土地に受け入れられるか」というテーマに対する、大塚なりの答えでもある。

都市の書店から、まちとの対話へ

大塚一馬は語る。高雄には、思わず目を見張るような豊かなアート&カルチャーの空気がある。図書館や美術館、愛河沿いで開かれるイベントに至るまで、街と文化がごく自然につながっていると感じたという。

「高雄大立店では、高雄市立美術館と連携してトークイベントや記者会見を行ったこともありますし、店内でアーティストが作品を展示したこともあります」

書店が市民の日常に寄り添いながら、文化と地域をつなぐ「都市のハブ」となること。それは単なる本を売る場ではなく、暮らしの中に文化を届け、地域の声を映し出すメディアとしての役割でもある。

「書店は、日々の生活を伝えるメディアにもなれるし、アートを動かす触媒にもなれるんです」

文化発信の可能性と高雄のポテンシャル

高雄を拠点に、アジアや日本へ文化を発信することは可能か―その問いに、大塚一馬は即答で肯定的な返事を寄せた。「高雄には独自の文化基盤があり、クリエイターと観客が揃っています。大事なのは、プラットフォームを持つことです。」

彼は、将来的に日本・代官山の書店のような文化推進の経験を高雄に持ち込み、地域のアーティストやデザイナー、作家たちが自らの作品を発表できる場を提供し、さらには国境を越えた展示へと発展させていきたい。芸術とマーケティングの間に存在するギャップについて、彼は書店がその架け橋になり得ると考えている。「私たちは台湾南部の声が聞こえるようにしたい。高雄を台湾の文化発信の拠点にしていきたいのです」

都市観察からの生活提案

空間から商品選択まで、TSUTAYA BOOKSTOREの高雄での経営は地域の特徴を鮮明に反映している。「書籍の販売成績は好調ですが、文房具や日本のライフスタイル雑貨も高雄では非常に高い受容度を示しています」さらに予想外の発見として、暑い夏の高雄では、鍋料理関連商品の販売が台北を上回っているという―この文化を超えた消費傾向の面白さは、高雄の人々の生活リズムをより深く理解するための手がかりとなっている。

「高雄の消費者が芸術文化活動に示す参加意欲の高さは、私たちが予想していた以上の収穫です」と大塚一馬は語る。美術館と書店のコラボレーションは台北や台中ではあまり見られないが、高雄ではむしろ自然な共生の雰囲気が生まれているという。

南部からの文化的自信

書店と都市の関係は、高雄で徐々に明確化し、その輪郭を形作ったのは大塚一馬の参加と観察によるものだ。彼が示すのは一つの信念―書籍は知識の源にとどまらず、地域に変化をもたらす架け橋でもある。そして書店は、単なる販売の場ではなく、人と人をつなぐ都市のハブなのだ。

高雄というこの陽光と港の風、そしてアートと文化の熱気をまとった都市は、独自の方法で未来に向けて語りかけている。

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高雄大立店は、3万冊以上の書籍と雑誌を取り揃え、さらに茶屋やカフェ、眼鏡、高級文房具などのブランドを導入。文房具やアロマ、ライフスタイル雑貨も取り扱い、読書と日常生活が完璧に融合した空間を提供する。
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TSUTAYA BOOKSTORE高雄大立店 TSUTAYA BOOKSTORE 高雄大立店は、南台灣初の店舗として、2020年に高雄大立百貨A館の1階と2階にオープンし、広さは約340坪。空間設計は、赤レンガの壁と木材を融合させ、港町の特徴を反映。さらに、8メートルに及ぶ壮大な書棚を設置し、温かみのある質感豊かな読書の空間を創り上げている。

住所:高雄市前金区五福三路57号1、2階(A館)
TEL:07-215-9016
営業時間:11時~22時

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