
ボルボのフラッグシップだった先代「XC90」に乗ったとき、「これなら10年は安泰だな」と思ったのを覚えている。それから9年。技術の進化は目を引くものの、ほぼキープコンセプトで新型が登場したことに、ある種の感慨を覚えた。

清廉なオープンポアウッドとナッパレザーを用いたインテリアは、まるで植物を強調した最近の大型ビルのエントランスのよう。都会の中にあって、静かに憩える空間に似ている。
そんなインテリアと自然との親和性の高さが、より大きな自然へと誘う仕掛けになっている。緑に囲まれた街や別荘地、あるいはキャンプへと出かけたくなる、気分を引き出すトリガーになっているのだ。
以前から軽井沢には「やたらとボルボが多いな」と思っていたんだけど、それが単なる偶然ではないと最近になって気づいた。ボルボは「街と自然をつなぐ存在」として選ばれているのだ。言うまでもなく先代「XC90」をきっかけに、ボルボのデザインは格段に洗練された。その進化は、まるで自然から都市へと感性が変容していくかのようだった。

「スカンジナビア・デザイン」という言葉は、いまや北欧のデザインという意味を超え、清潔感のある単一色によるモノトーンの世界観をも内包するようになった。そしてその佇まいは、モード系ファッションとの親和性も高めている。一方でボルボのインテリアは、異なる素材を巧みに組み合わせながら、統一感を保った繊細な仕立てに抜かりがない。
このインテリアは、単なるデザインではなく思想でもある。木材は自然の記憶であり、新調されたデジタルパネルは都市の知性を象徴している。その両者を調和させるボルボの美意識には、環境と対話しようとする意志が表れている。ウールブレンドや非動物由来のテキスタイルといった素材選びの姿勢もまた、都市に暮らしながら自然や地球という環境へアクションを起こす方法の一つと捉えられているのかもしれない。

新型「XC90」は、そうした思想がそのままクルマの“乗り味”になっている。モーター走行を中心としたPHEVによるハイブリッド走行は、伸びやかで滑らか。エンジンとの境目もほとんど感じさせることはない。路面からのノイズを遮断する静粛性も高まり、エアサスペンションはドライブモードに応じて車高を変えつつ、しなやかに足回りの性格を変化させる。
このPHEVは少しユニークで、フロントがエンジン出力、リアがモーター出力という構成。モーター走行ではリアアクスルを直接駆動させるため、トランスミッションを介さない。そのため、アクセルを強く踏み込むとエンジン始動のタイミングははっきりわかるが、基本的にはEV的なドライビングが中心となる。まるでインテリアのモノトーンのように、2つの動力の「トーン」が溶け合い、違和感なく同居している。

新型「XC90」において、都市と自然の境界は、にじむグラデーションのようにゆるやかに溶け合っている。クルマを自然のある目的地へ走らせていると、その曖昧で美しい、まるで夕暮れのような中間領域が確かに存在することがわかる。
エンジンとモーターは、明確な主従関係を持たずに協調しながら、シームレスに役割をまっとうする。そのドライバビリティはまるで、都市の整然とした幾何学の中に差し込まれた、揺れる木洩れ日のようだ。音楽でたとえるなら、アイスランドのポストロックバンド、シガー・ロスのように都市と自然が互いに作用し合い、共存することで、ひとつのタペストリーを紡いでいくかのような世界観。

新型「XC90」は、もはや単なる“移動の器”ではない。都市と自然を行き来する現代の家族の“生き方”を映す鏡になろうとしている。都市の論理に身を置きながら、それでもなお自然に還ろうとする衝動を常に意識させる。たとえばワインディングに出れば「ステアリングの設定をシャープに変えてみないか?」とクルマが誘ってくる。
ボルボが変わり始めた10年前に、スウェーデン代表のサッカー選手、ズラタン・イブラヒモビッチを起用したCMがあった。そこで語られていたテーマは厳寒のスウェーデンにおける命のせめぎあいであり、家族のもとに帰るように自然(野性)に還ること。それをより深く、リアルにかたちにしたもの。それこそが、このスカンジナビアのフラッグシップSUVなのだ。
ボルボ XC90 ウルトラ T8 AWD プラグイン ハイブリッド
全長×全幅×全高:4,955×1,960×1,775mm
排気量:1,968cc
エンジン:直列4気筒DOHCターボ+電気モーター
システム最高出力:462hp
システム最大トルク:709N・m
駆動方式:AWD(フロントエンジン四輪駆動)
車両価格:¥12,940,000
問い合わせ先/ボルボ・カー・ジャパン
www.volvocars.com