1968年に創業したフランスのシャツブランド「フィガレ・パリ」をご存じだろうか。卓越した仕立ての技術を守りながら、映画や文学といった文化的領域にインスピレーションを得て、オリジナリティあふれるシャツを提案し続けているブランドだ。このユニークかつ稀有なブランドの歴史、そして魅力について紹介しよう。

控えめなエレガンスを宿す正確なカッティングと、高品質な素材選びで名を馳せる「フィガレ・パリ」は、創業者アラン・フィガレの強いこだわりによって築かれた。彼は最高級のコットンを求めてエジプトまで赴き、「綿のカシミア」とも称されるシーアイランドコットンをいち早く採用したことでも知られている。
大西洋に面した南仏のリゾート地、ビアリッツで誕生したフィガレは、1976年にパリでシャツ専門店をオープン。保守的な着こなしが一般的だった当時、ピンクやイエロー、ブルーといった鮮やかな色のシャツを提案するなど、大胆な試みに挑戦した。また、長年にわたりル・マン24時間レースの公式パートナーを務めるなど、自動車界とも関係を築いている。
2010年には、ナント近郊のアトリエで仕立てるオーダーメイドシャツのサービスをスタート。高密度な双糸コットンを用いた生地を、500種類以上に及ぶなかから選ぶことができ、パールボタンやスワローテイルカット、1cmあたり7.5針ときわめて繊細な縫製など、テーラー仕立てのディテールが魅力で、そのシャツは国境を越えて愛され、日本や香港にもファンが多いという。

代表的なデザインとしては、短めのオープンカラーの「フィガレカラー」のシャツや、パリのラ・ペ通りの顧客たちから着想した「カール」シャツが挙げられる。3.5cm幅のオープンカラーは細すぎず広すぎず、ポプリンやオックスフォード、リネン、さらにはデニムの生地にも合わせやすい汎用性を持っている。
---fadeinPager---
創造性を開花させ、進化する新生「フィガレ・パリ」
2017年、約半世紀にわたり夫婦でブランドを率いてきた創業者が経営を退き、「フィガレ・パリ」として新たな歩みを始めた。現CEOのエレオノール・ボードリーのもと、ブランドはフォーマルの枠を越えた創造性を開花させている。

その象徴ともいえるのが、「Je t’aime(愛してる)」の文字を前立ての裏、心臓に近い場所に刺繍したユニセックス向けのシャツだ。着ることはもちろん、大切な人から借りて身につけることも想定したこの一着は、クロード・ソーテ監督の映画『すべての些細な事柄』に捧げるオマージュでもある。ロミー・シュナイダー演じる女性が、ミシェル・ピッコリのシャツをまとい、タイプライターに向かう場面を思わせるように、愛の言葉を秘めたこのシャツは、日常のなかに詩的な情景を呼び起こす。

また、文学との親和性も高く、フランスの老舗出版社ガリマールと提携し、アルチュール・ランボーや『星の王子さま』で知られるアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの言葉を刺繍した限定シャツも発表してきた。偉大な作家の言葉を肌にまとう――これほど洗練されたスタイルは他にないだろう。

こうしたコラボレーションは、フィガレ・パリのブランドDNAの一部でもある。今年は映画の世界に改めて光を当て、「コレクション・スタジオ」と題した新作を発表。アニエス・ヴァルダ、グレタ・ガーウィグ、ジェーン・カンピオン、ソフィア・コッポラなど、名だたる女性監督たちの名前を冠したシャツは、現代的なシルエットと個性を備え、同ブランドのウィメンズライン強化の一環となっている。
さらにフィガレ・パリは、国際的な展開も本格化。2023年にはブリュッセルに初の海外店舗をオープン。日本では伊勢丹とのコラボにより、クリエイティブスタジオ「MM PARIS」との限定モデルを展開し、バーニーズニューヨークでは他のモデルも取り扱っている。
シャツという一着に、物語と美意識を織り込む。そんなフィガレ・パリの挑戦は、これからも続いていく。

