劇団「柿喰う客」の中心メンバーであり、数々の舞台に立ってきた俳優、玉置玲央。近年は映像の世界での活躍も目立ち、昨年のNHK大河ドラマ『光る君へ』で演じた藤原道兼役は多くの人の心をつかんだ。現在はTBS日曜劇場『キャスター』に出演中。自身を取り巻く環境の変化について、「街で声をかけていただく機会が増えたくらいで、感覚的にはなにも変わっていないです。お店の方に気づかれると、おいしいパン屋さんに行きづらくなるなとは思いますけどね(笑)」と穏やかに語る。
5月から幕を開ける『Take Me Out』は、2016年、18年と上演されたメジャーリーグを題材とした舞台。同性愛者であることを告白した選手とチームの者たちとの関係を通して、「性的マイノリティや人種差別、野球界という男性社会における〝男らしさ〞とは?」という問題に踏み込んでいく作品だ。18年に続いての出演となる玉置は、物語の語り部である会計士のメイソンを演じる。
「この作品は、全員が選手でもいいのに、そこに完全なる外部の人間である会計士を入れているところが肝になっていると思うんです。メイソンのポジションは、お客様と舞台をつなぐ役割であり、選手たちとは違う価値観を持っている人間なんですよね。それ故の感度の高さがあり、初めての経験に直面した時の表現の仕方がすごく魅力的で、かわいらしい人だなと思います」
自身の役について、愛情を込めて「居心地のいい役」だと表現する玉置。
「俳優にはいろいろなタイプがいるじゃないですか。僕は憑依型ではないので、どうしても役と日常をちゃんと切り分けるところがあって。自分とは切り離して存在しているものだけど、横には置いておく感覚というのかな。要するにメイソンは、一緒にいると居心地がよくて好きになることができた役だったということなんです。7年が経って俳優としての姿勢や価値観も変化しているので、今回はどんなメイソンに会えるのか、自分でも楽しみです」
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つくり手の目線を持ちながら、新しいものを生み出していく

この日の撮影ではエレベーターのボタンを率先して押し、路上ではさりげなく歩道の端にスタッフを誘導する玉置の姿があった。その目線と心配りは、舞台の裏方を経験しているというキャリアから生まれるものなのかもしれない。
「裏方の人たちと共通の話題が多いので、現場で仲よくなることも多いんです。できることがあるとつい手伝ってしまって。感謝されることもあれば、やりすぎと怒られることもある。それぞれ役割があることはわかっているのですが、できる人が気づいた時にやれたらいいよね、と考えています」
作品が観客に届くまでに、どれほどの時間と多くの人の労力が使われているのか。「それを知っているからこそ、俳優として表に出ることのありがたみがわかる。これは自分の強みだと思っています」と言葉をつなげた。
今年3月に40歳の誕生日を迎えた玉置。その節目となる年を記念し、フォトエッセイ『では、後ほど』を発売。紙媒体をこよなく愛し、書籍を出すことがひとつの目標だったという。40編のエッセイを綴り、趣味であるカメラの経験を活かし、自身で撮影を手掛けた。
「これまで劇団のパンフレットもみんなでつくってきたので、『いままで培ってきたものを、この一冊にすべて注ぎ込もう』という気持ちで」とデザインや用紙選びにまで本格的に関わったという。
「俳優という職業に就いて、たまたま表に出させてもらっていますが、そこだけにこだわりすぎずに仕事をしたいという思いがあります。フォトエッセイもですが、できることにはなんでも挑戦していきたい。挑戦といっても40歳になったからといって急になにかが格段に変わるわけではないので、気負わず、あるがままに。若い頃のような“がむしゃらさ”ではなく“豊かさ”で、これからもなにかをつくったり、生み出していけたらいいなと思います」
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WORKS
舞台『Take Me Out』
メジャーリーグのスター選手のカミングアウトをきっかけに、さまざまな問題が巻き起こる。トニー賞演劇作品賞受賞作が、3度目の日本上演へ。玉置は2度目の出演となる。5月17日より有楽町よみうりホールにて開幕。
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玉置玲央フォトエッセイ『では、後ほど』

書き下ろしのエッセイと自身が撮影した写真、思い出の地で撮り下ろしたグラビア、対談、未公開戯曲などを収録。玉置のこれまでの人生と、役者という仕事との向き合い方を紐解くような一作。
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ドラマ『キャスター』
テレビの報道番組『ニュースゲート』を舞台に、型破りなキャスター(阿部寛)が真実を追求していくオリジナルの社会派エンターテインメント。玉置はディレクターの梶原広大を演じている。TBSにて毎週日曜夜9時放送中。
※この記事はPen 2025年6月号より再編集した記事です。