緻密な構成と旋律美で描く、“劇場発”クラシカル・サウンド

  • 文:小室敬幸(音楽ライター)
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【Penが選んだ、今月の音楽】
『ウィキッド ふたりの魔女 ‒ オリジナル・サウンドトラック』

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エミー賞、グラミー賞、トニー賞受賞の実力派でアカデミー賞ノミネートの俳優シンシア・エリヴォ、グラミー賞受賞アーティストで世界的スーパースターのアリアナ・グランデが競演。映画の歌唱シーンでは、すべてライブで撮影された生歌が使用されている。

3月7日の公開以来、ランキングでも上位が続き、大きな話題を呼んでいるミュージカル映画『ウィキッド ふたりの魔女』の歴史的な系譜を紹介したい。話はミュージカルの金字塔であり、スピルバーグ版の映画も記憶に新しい『ウエスト・サイド・ストーリー』(1957)に遡る。原案者である振付家ジェローム・ロビンズは、作曲者のバーンスタインに「オペラにするな!」と求めていたが、出来上がった作品はクラシックの緻密な作曲技法と、ジャズやラテン音楽をミックスした傑作となった。

この作品後、ジャクリーン・ケネディからの依頼でバーンスタインは「ミサ曲」(71)を作曲するが、今度はロックを取り入れる。この際に作詞家として起用されたのが、後に『ウィキッド』を生み出すスティーヴン・シュワルツだった。彼は70年に、キリストの受難をロックで表現したミュージカル『ゴッドスペル』を大学で試演。傑作として有名になったロイド・ウェバーの『ジーザス・クライスト・スーパースター』(71)と同時代に似たような試みをしていたのだ。

シュワルツはその後、『ピピン』(72)と『ザ・マジックショウ』(74)で大成功を収めたがヒットは続かず……。90年代半ばには『ポカホンタス』『ノートルダムの鐘』とディズニーミュージカルの作詞を手掛け、これら2作でディズニーを蘇らせた作曲家アラン・メンケンと協働。その刺激を活かし久々に生まれた傑作が『ウィキッド』なのだ。

実際、このミュージカルにはバーンスタイン譲りのクラシック音楽の伝統と、メンケン譲りのキャッチーな音楽づくりが息づいている。その上、最新のアレンジを大編成のオーケストラで演奏しており、2020年代に見合ったサウンドとして蘇った。エンターテインメントであると同時に、芸術的な傑作なのだ。

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ウィキッド・ムービー・キャスト、シンシア・エリヴォ、アリアナ・グランデ ユニバーサル ミュージック UICU-1366 ¥3,300

※この記事はPen 2025年6月号より再編集した記事です。