超絶技巧の手づくりパペットで子育て、 NYの動物園で30年ぶりに孵化したコンドルのヒナの驚きの育児法とは

  • 文:大村朱里
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Shutterstock-Dado Photos ※写真はイメージです 

ニューヨークのブロンクス動物園で、ちょっとユニークな育児風景が話題になっている。主役は、今年2月に生まれたばかりの“キングハゲワシ”のヒナ。そのヒナに餌を与えるため、飼育員たちは、ハゲワシそっくりの「ハンドパペット」を使い、顔を完全に隠して登場しているというのだ。

話題になったのはニューヨーク・ブロンクス動物園。希少なキングハゲワシのヒナに対してユニークかつ本格的な方法で授乳を行っている。動物園の発表によると、この方法は「ヒナが人間を親だと思い込まないようにする」ための大切な工夫。人に慣れてしまうと、将来的に他のハゲワシと正常な関係を築けなくなるおそれがあるため、“人間っぽさ”をできるだけ排除するのが目的だという。

そのため、ヒナが将来、他のハゲワシと自然な社会的関係を築けるよう、人間との接触を最小限に抑える必要があるという。

このパペットは、ブロンクス動物園の展示アート部門が製作した特注品で、本物のキングハゲワシの頭部を忠実に再現。飼育員は黒い衣装を着て顔を隠し、このパペットを使って“ハゲワシになりきり”、ヒナのそばで授乳や世話を行っている。

実際に餌をあげている様子の写真には、手にクオリティが高いパペットとピンセットを持った女性がヒナに餌を与えている様子が見られる。

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制作は専属アーティスト、精巧な「親鳥」パペット

この授乳用のパペットは、同園の展示・グラフィックアート部門によって設計・制作されたもの。実際のキングハゲワシの成鳥の頭部を忠実に模しており、黒い首元を再現したスリーブを装着した手の上に装着される。

さらに飼育員は顔を覆う衣装を着用し、人間の特徴が見えないよう配慮。ヒナは巣箱内でこのパペットから餌を与えられ、人間と接触することなく自然な育成環境が保たれている。

キングハゲワシのヒナが特に重要視されている背景には、遺伝的な希少性が関係しているという。野生動物保護協会によると、このヒナの父親は55歳の高齢個体であり、現在生きている子孫はたった1羽のみ。そのため、今回生まれたヒナの健康な成長と遺伝子の継承は、種の保存にとって非常に重要だという。なお、ヒナの性別は現時点ではまだ不明とのこと。

40年以上続く手法、種の未来を支える飼育技術

意外にも、この“変装&パペット飼育”は突拍子もない思いつきではないそうだ。ブロンクス動物園では1981年から同様の技法を使い、アンデスコンドルの育成に成功してきたという。

「この技術は、飼育スタッフ、獣医、アーティストなど、様々な分野のプロが協力して作り上げたものです」と話すのは、同園の鳥類学学芸員チャック・セルビーニ氏。

「これは、私たちが動物の健康と未来のためにできることのひとつなんです。この技術は、飼育スタッフ、獣医、アーティストなど、様々な分野のプロが協力して作り上げたもので、私たちが動物の健康と未来のためにできることのひとつなんです」と語った。

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【画像】精巧な「親鳥」パペットを使って育児をする様子。