役とのギャップに戸惑いの連続? 映画『劇場版 それでも俺は、妻としたい』で風間俊介が感じた、自身の新たな一面 とは

  • 写真:河内 彩
  • 文:小松香里
  • スタイリング:手塚陽介
  • ヘア&メイク:清家いずみ
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風間俊介(かざま・しゅんすけ)●1983年、東京都生まれ。98年にドラマ初出演を果たし、翌年には「3年B組金八先生」(99/TBS)で第3回日刊スポーツ・ドラマグランプリ最優秀新人賞を受賞。2011年には「それでも、生きてゆく」(CX)で第66回日本放送映画藝術大賞優秀助演男優賞、第70回ザテレビジョンドラマアカデミー賞助演男優賞を受賞。俳優としての活動に加え、近年朝の情報番組「ZIP!」(NTV)の月曜パーソナリティやパラリンピック番組解説(NHK)を務めるなど、さまざまなフィールドで頭角を現している。

42歳の売れない脚本家・柳田豪太と、そんな収入のない夫にかわって家計を支える妻・チカ。豪太は風俗に行くお金もなければ、浮気するような勇気もないので、性欲を処理するためには妻とするしかない。しかしチカは豪太に辛辣な言葉を浴びせ、拒絶し続ける──。セックスレス夫婦のリアルを描き、TVerで記録的な再生回数を記録したドラマ『それでも俺は、妻としたい』がディレクターズカット版の『劇場版 それでも俺は、妻としたい』として帰ってきた。

連続テレビ小説『ブギウギ』の脚本等を手がけた足立 紳の実体験が書かれた同名小説を原作に、足立自身がドラマに続き、脚本と監督を手がける。キャストも引き続き、夫の豪太を演じるのは風間俊介、妻のチカを演じるのはMEGUMIだ。とことん情けない夫は知恵を絞り、あの手この手で妻としようとするが、すべてが裏目に出てしまい、妻からとことん罵倒される。それでも夫婦であり続けるふたりの姿からは、ひとつの結婚の形が見えてくるのだ。風間にインタビューした。

フィクションとノンフィクションの狭間という新たな感覚の作品

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©「それでも俺は、妻としたい」製作委員会

――『それでも俺は、妻としたい』が映画化されると聞いてどう思いましたか?

驚きました。「大スクリーンであの喧嘩が?」と思いました(笑)。

――(笑)ドラマは辛辣な夫婦喧嘩のリアリティに対して大きな反響がありました。風間さんはその反響をどう受け止めていましたか?

とてもチャレンジングな作品なのでオンエアされる前は結構ドキドキしていました。通常のドラマのようにわかりやすい起承転結があるわけではなく、ドキュメンタリーのような手法でつくられたドラマです。その中でチカの豪太に向けた辛辣な言葉があり、その言葉の裏になにかがあるわけではなく、チカはただただ豪太にイラついているんですよね。視聴者の方からどういう反応があるのかとても気になっていたのですが、たくさんの方にご覧いただけた上に「面白い」と言ってくださったので、まずはほっとしました。たまに飲食店などで、 カップルや夫婦が食事をしていてピリッとした空気が流れているんだけど、外出先だからそのままなにも起こらない。でも、もしかしたら帰った後、喧嘩が始まるのかな?っていう空気感が流れていることってありますよね(笑)。『それでも俺は、妻としたい』ではその家に帰った後のことが描かれているので、他の家の中を覗いてみたい人は多いんだなって思いました。

――劇場版はディレクターズカット版ということもあり、ドラマ版を凝縮した内容になっていますね。

そうですね。足立監督のほぼ実話が映像化されているわけですけど、ドラマは日々のワンシーンをフィーチャーし、それを積み重ねていくような内容で、それが10話分ありました。「他のドラマも日々の積み重ねの抜粋によって構成されているんだな」って改めて感じたんですよね。今作の劇場版はその日常の積み重ねを編集して1本にした作品です。それで元の素材がドラマ版という新しい感覚でした。 

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©「それでも俺は、妻としたい」製作委員会

――豪太はチカが生活費を稼いでいるという弱みがあり、だからこそチカは豪太にとても辛辣なことを言いますが、なんだかんだ二人は深い絆で結ばれているように思います。風間さんは豪太とチカの夫婦関係をどう捉えていますか?

お互いになんの不満もない夫婦が幸せな夫婦像として描かれることが多いですが、そういう夫婦は実際にはほぼいなくて、お互いに不満がある夫婦がスタンダードなのかもしれないと思いました。不満はあるけれど、歩み寄って一緒にいるのが夫婦っていうものなのかなと。

――豪太はかなりの情けないキャラクターですが、どんなところに魅力を感じていますか?

豪太は監督の化身みたいなものなのであまり悪く言えないんですけど(笑)。この情けない豪太がのちのち朝ドラの脚本を手掛けたり、本がドラマ化されてさらに映画にもなるっていう流れがあって本当に良かったなと思います。豪太が活躍する未来がなかったらなかなか辛いものがあると思います。フィクションとノンフィクションの狭間みたいな作品ですが、そういう未来があることで希望が感じられるなと思います。取材をしていただく中で豪太と自分の共通点について聞かれることが多いんですが、これまでの作品と違ってその質問に答える難易度がとても高いんです。警察の厄介になる役とかでも自分との共通点は話していたんですが、豪太は僕からしたら「なんでそういう答えに達した?」って思うことが連続するトリッキーなキャラクターです。 

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ポジティブな拗らせ系? リトマス試験紙みたいな存在でありたい

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――ご自身とは全く違うパーソナリティの持ち主ということですか?

そうですね。でも豪太がダメで僕がそうじゃないということではなく、僕には違うダメさが あるんですよね。朝の番組のパーソナリティをやっているとまっすぐな人だと思われることが多いんですが、僕はかなり捻くれているので(笑)。ひねくれているが故にポジティブな性格なんですよね。

――ネガティブに捻くれているこじらせ系とは真逆ということですか?

ポジティブなこじらせ系ですね(笑)。あまり大物感みたいなものを持ちたくなくて、小物感を持っていたいんです。どちらかというとなめられるようなタイプでいたいと思っていて、そんな僕に対して軽視するような態度を取ってきたり、辛辣なことを言ってきたりする人もいるわけですが、すごくちゃんとした対応をしてくれる人もいます。自分がリトマス試験紙みたいな存在になることで、誰に対しても敬う人っていうのがわかるんです。どちらの態度を取られても面白いなと思っているので、捻くれているなって思います(笑)。

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やりたいことよりも求められること、流されながらその時の景色を楽しむ

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――俳優業に加えて、朝の情報番組の「ZIP!」のパーソナリティなど、長年マルチな活躍をされていますが、いまのお仕事への原動力とはどんなものなのでしょうか?

自分がやりたいことをやるということはあまり大事にしていなくて、求められることにしっかり応えるということを大事にしています。お仕事をいただけるということは、誰かが僕になにかを託してくださるということだと思うので、頼っていただけることが嬉しいですね。

──独立したことで、よりダイレクトに求められていることが伝わるようになっていたりするんでしょうか?

プレイヤーとしての作品への向き合い方は変わってないですね。それがちょっと面白かったです(笑)。少し変化が生まれるかと思っていましたが、心根が変わらないので自分の頑固さを感じたというか。でも、税金のことを自分で考えなければいけなくなったりとか、そういう変化はありました。面白いですね。大人のキッザニアみたいな感覚なんです(笑)。「次は代表取締役っていうのをやってみたよ」とか「ここはハンコを押してみよう」みたいなことが次々やってくるので。

――独立後も同じ事務所にいた方たちの活動へのコメントなどから、繋がりを大事にしていらっしゃる印象があります。同じ事務所にいた方たちは風間さんにとってどんな存在なのでしょうか?

友人っていう言い方も違うし、知り合いでもないし、同級生でもない。同じ時代を駆け抜けた戦友だと思っています。一般的な物差しでいうと、僕は結構薄情で、めったに連絡を取らないんですよね。僕の美学からすると、連絡を取っていたり頻繁に会っているから仲が良いわけじゃなくて。でも、近い存在だと感じていますし、とても大切に思っています。しかもみんなもういい大人ですから1〜2 年空くのは誤差の範疇です(笑)。1年前なんてついこの前くらいの感覚ですから。

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――40代になってから2年弱が経ちました。なにか心境の変化っていうのはありますか?

あまりないですね。ただ体力はどんどん落ちているので、「これが40代か」と思っています。でも、ダイエットは明日から方式と一緒で、「運動しないとな」って思いながらもやってないですね(笑)。世の中の40代の人たちもそうなのかもしれませんが、荷物を持つと「重いな」と感じるようになりました。昔は両手でひょいひょい同時に抱えられていた感覚だったのが、荷物1個に対する責任の重みをどんどん感じるようになっていたりして…複数の重い荷物を持てるような筋力を身に付けていくのか、それとも1個を大事にしていくのか。でも僕は水の中に打ち込まれた杭のように「俺はここにいるぞ!」っていうタイプではなく、水が流れているのだったら流されながら景色を楽しみたいと思うタイプなので、ある種他人事のように流れに身を任せてどうなっていくのかを楽しみにしています。

 ──いつ頃からそういうメンタリティになったんでしょう?

高校生ぐらいの頃からあまり考え方は変わってないんですよね。 

──いつどこからお仕事が来るかわからない世界ではありますよね。

そうですね。20 代の時にマネージャーさんに突然、「明日記者会見だから」って言われたことがあります(笑)。それは舞台の『WEST SIDE STORY』の時だったんですが。記者会見で「初めて話を聞いた時はどう思いましたか?」って聞かれたので、「すごくびっくりしました!」と答えました。嘘は言っていないなと(笑)。多分マネージャーが僕に伝えるのを忘れていたんだと思いますが、ちょっとイラっとはしましたけど(笑)。「別になんとかするし」という心境ではありました。いまも同じでその時々の自分がきっとなんとかすると思っていますね。

──それは自信なのでしょうか?

自信もあるんだと思います。これまで自分がやってきたことへの信頼があるから、「きっと未来の自分がなんとかしてくれるでしょ」って思うんですよね。いままで辛いことは山ほどあって、いろいろなものに勇気や元気をもらってきましたが、最後に支えてくれるのは過去に頑張った自分だと思っています。それはこれからも変わらなくて、「あの時に頑張れた自分を信用できれば今回もできる」って思います。「いまの自分が頑張ろうって思えてるなら未来の自分もきっと頑張ってくれるでしょう。だから大丈夫だ」って。 

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 ──最後に、いまの日々の楽しみを教えてください。

いま舞台をやっているんですが、上演中の数時間、放置しているとやたら強くなっている携帯ゲームですね(笑)。舞台が終わったらやらなくなると思うので、いましかやらないだろうなって思うからまた楽しくて。あと漫画を読むことと……暗いですかね(笑)。

『劇場版 それでも俺は、妻としたい』

脚本・監督/足立 紳
出演/風間俊介、MEGUMI、嶋田鉄太、吉本実憂、熊谷真実、近藤芳正ほか
https://www.tv-osaka.co.jp/ip4/soretsuma
5月30日(金)より、全国公開