いまF1がアツい! その背景を、 アストンマーティンの敏腕エンジニアに聞いた

  • 文:小川フミオ
  • 写真:Aston Martin Racing
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フォーミュラ1(F1)レースの人気が世界的に高まっているようだ。2025年4月の日本グランプリも入場者は例年超えだったとか。いま、どんなところに注目すればいいか、アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラワンチームを題材に紹介しよう。

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鈴鹿サーキットでの日本グランプリではAMR25を駆るアロンソが11位に入った。

F1マシンは“究極のプロダクト”と言われる。販売するためのマーケティングの必要がなく、目的は勝つことだけだ。

そんなF1をめぐる最近のニュースとしては、自動車メーカーに加え、異業種チームもひしめく中、改めて自動車ブランドが積極的に参入している。

まず最も長い歴史を持つのはフェラーリで、メルセデス・ベンツもF1に深く関わり、フェラーリ同様、複数のチームにエンジンを供給している。そしてこの先、アウディやキャデラックが参戦、そしてホンダとフォードがパワーユニットを供給する計画が進んでいるのだ。

なぜいま、F1に多くの自動車メーカーが関わるようになっているのか。米国を中心に、Netflix制作の『Formula 1: Drive To Survive』(日本題『Formula 1: 栄光のグランプリ』)の高い人気が背景にあるとも説明される。観ると、F1への興味が募る上手なつくりとなっていた。

つまり、ブランドをアピールする場として最高の技術を競い合うF1グランプリは恰好の場と捉えられているのだ。実際に近頃、「F1で開発された技術を応用」と謳い文句が付いたスポーツカーを目にする。

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サウジアラビアGPでは16位とふるわなかったがポイント数では10位のランス・ストロール。

美しく輝くグリーンのマシンを走らせる、アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラワンチーム(以下、アストンマーティンF1)も例外でない。

アストンマーティンF1チームのオーナーであるカナダ人のローレンス・ストロールは、乗用車のアストンマーティン・ラゴンダのトップであるエグゼクティブチェアマンも兼ねており、積極的に市販車とレースのイメージを結びつけている。

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メルセデスF1ではエンジンのディレクターだったがアストンマーティンF1ではプリンパルとして全体を統括する重責を負うカウウェル。

このチームをめぐる話題は実に豊富だ。

まず、メルセデスF1の常勝の立役者だったエンジニアのアンディ・カウウェルと、マシン設計の第一線で活躍してきたエイドリアン・ニューウェイをチームに迎え、2026年にはホンダレーシング(HRC)からエンジン提供を受けることが決まっている。

グループCEO兼チーム代表を務めるのが、カウウェル。前職のメルセデスF1(正式にはメルセデスAMGハイパフォーマンス・パワートレインズ)時代にパワーユニット開発の責任者を務め、8年連続でコンストラクターズ選手権を獲得するという実績を残した人物である。

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F1マシンの天才的設計者と呼ばれてきたエイドリアン・ニューウェイ(左)と話すカウウェル。

ニューウェイはテクニカルマネージングパートナーの立場で関わっている。空力や独創的なアイデアのシャシー設計で知られ、数多くのチームのために仕事を続け程る。直近では2000年代のレッドブルのために戦闘力の高いマシンを設計し、再び名声を得ていた。

カウウェルは鈴鹿での日本グランプリの際にインタビューに応じ、「私たちはいま、2026年シーズンに向けて速いマシンを開発すべく、大いに努力しています」と状況を説明。「ご存知のとおり2026年からF1はエンジンにおいて大きなレギュレーション変更を受けることになります」と続ける。

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鈴鹿サーキットで多忙な時間を割いてインタビューに応じてくれたカウウェル。写真=筆者

「いま26年シーズンに向けて、マシンを鋭意開発中です。(シーズンがスタートする3月まで)11カ月のあいだに、あらゆることを試さなくてはなりません。パワーユニットを供給してくれるHRC(ホンダ・レーシング)とは大変よい関係を保っていると思いますが、密に連絡をとる必要があり、今回もグランプリのタイミングで数回(栃木県さくら市にある研究開発拠点である)HRC Sakuraにも行きました」

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アストンマーティンF1のオーナーでもあるローレンス・ストロール(左)とHRCの渡辺康治代表取締役社長。

カウウェルは、自分のチームの状況をこう話す。

「アストンマーティンは比較的若いチームなので、すべてのインフラストラクチャーを構築するには時間も必要です。ファクトリー、風洞、シミュレーションシステムなどに時間がかかりますし、それを正しく使って成果を引き出せる人材を探したり育成したりするのにも時間がかかるものです」

その成果がわかるのはーーと言葉を続ける。

「サーキットを走らせたときです。シミュレーターも大事ですが、それだけではすべてがわかりません。サーキットこそがリアルワールドであり、そこで成果を出さなくては意味がないですから。2026年に向けていまはさまざまなことを試みている状況です。サーキットを走り出すとき、私たちのニューマシンは高い戦闘力を身につけているはずだって、強く信じています」

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研究開発センターに設置されたF1用のフルスケール風洞実験室。

 2026年シーズンは大幅にマシンのレギュレーションが変更される。パワーユニットのパワーは下げられるが、一方でモーター出力は大きく上がり、“先進型持続可能型燃料”(都市ゴミや非食品バイオマスからつくられるもの)を使うことが義務づけられる。車体は小型かつ軽量化され、ボディ形状が変更になる。

これまでと大きく変わるF1。そこにあって、多くの経験と実績を誇る人たちが、どんな働きを見せてくれるか。そこがF1グランプリの見どころであり、その背後にいるカウウェルやニューウェイといったエクスパートの存在を意識することで、レースの面白さが増すだろう。

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英シルバーストンにあるアストンマーティン・アラムコF1レーシングの本拠。

2025年シーズンは始まったばかり。記事を書いている現時点では第5戦のサウジアラビア・グランプリが終わったところだ。コンストラクターズポイントは、1位マクラーレン、2位メルセデス、3位レッドブル、4位フェラーリ、5位ウイリアムズとなっていて、アストンマーティンは7位。その下には3チームしかいない。

ただしレースは12月のアブダビまで24戦もあるので、上記の順位で決まったわけではない。この先どうなっていくか、楽しみにレースを追っていこう。

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記者会見にのぞむカウウェル(中央)、ドライバーのストロール(手前)とアロンソ(奥)。

アストンマーティン 2025 フォーミュラワンカー

www.astonmartin.com/ja/models/amr25