昨日までの自分を過去にするスポーツサルーン、 BMW新型「M5」に“モンク”ある!?【第220回 東京車日記】

  • 写真&文:青木雄介
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V8エンジンとモーターによりBMW M史上最強のパワーを叩きだす新型「M5」。

BMWの新型「M5」に乗った。マットブラックの大型ボディは完全な戦闘仕様。パワートレインはV8エンジンによるPHEV(プラグ・イン・ハイブリッド)で最大出力は727馬力、トルクは1,000ニュートンメートルと先代を大きく超えている。一方で重量は2.4トンと、これまた600kgも増えている。

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真骨頂はMダイナミック・モード。リア・アクスルへの駆動トルク配分が増加し、より自然なスポーツ走行を楽しむことが可能になる。

この事実は「M5」にターニングポイントが到来したことを意味する。重量だけ見れば大型セダンからサルーンへのジョブチェンジ。でも「M5」であるからして、ただのサルーンじゃない。新ジョブ“スポーツサルーン”の誕生であり、RPG風にいえば戦う修道士「モンク」の登場なのだ。

RPGにおいてモンクという職業は、たいがい「武闘家」と「僧侶」を合わせた職業なのね。肉体(エンジン)と精神力(ハイブリッド制御)という、相反するキャラクターを持ち合わせる上位職。自動車業界を見渡せば、スーパースポーツや高級車というジャンルはV12エンジンでもない限り、ハイブリッド制御なしの世界に戻ることは難しくなってきている。嗚呼、モンクだらけの高級車業界……。新型「M5」に乗れば、その誘惑がいかに強烈なのかがわかるはず。

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クリスタル風の立体的な造形が加えられたBMWインタラクション・バーが車内を取り巻き、走行モードに応じて明滅し刺激的な演出を加える。

まず新型「M5」は先代に引き続き4WDですよ。BMWらしさの象徴といえる後輪駆動モードもあるにはあるんだけど、4WDシステムであるM xDriveの進化の前には蛇足とさえ感じられたのね。DSC(横滑り防止機能)を切って4WDスポーツモードを選び、すべての設定をハードにすると、足かせを外した大型獣のようなキャラクターが解放される。もうね、後輪操舵もあいまってそもそも4WDなのかも疑わしいほど、自然な走りっぷりなんだ。

この大型獣というのは単なる比喩ではなくて、まるで四足歩行の獣が疾走しているかのような操縦性を実現している。つまり獣がカーブを曲がるのに「アンダーが出る」とか意識しないのと一緒で、思いのままに4輪駆動を使いこなす。もうこれが出来たら、重量増はゴージャスさとオーラの証みたいなもの(笑)

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特徴である多種多様な走行モードは、すべて物理スイッチで選択することが出来る。

その分、しっかり筋肉をつけブレーキを大型にして、車体を補強して、体幹を鍛えるみたいな「足しの美学」を極められる。面白いのは重量が増えただけ、アクセルのモーターアシストによって挙動を繊細に感じとることが出来る。言い換えると、ハイブリッドの上質さが際立つんだ。

アクセルを踏めば低音のV8サウンドの咆哮があり、離せばアフターファイヤ音がほぼ同じ音域(ちょっと高め)で速度を収束させる。加速と減速の音の帯域を近づけているのは、速度に対する前のめりなバイブスを維持させるためだろうし、それでいて騒々しさを抑えるBMWらしいクールな提案と言えるだろう。

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後部座席は余裕のスペースだが、座るとスポーツ走行に備えたタイトな印象だ。

攻めれば、『新世紀エヴァンゲリオン』の警報モードみたいに激しく車内のネオンが明滅する。その演出はSF的でありながら先鋭的なグラフィックアートでもあり、先代までのインテリアもエクステリアも、どこか牧歌的だった大型セダン時代を過去へと追いやってしまった。

むろん顔をしかめるBMWファンは多いだろう。たとえV8やV10といった大型エンジンを載せた後輪駆動でも、軽さを追求することはマナーだったはず。けれでも、それはもうひと昔前のBMWなのかも知れない。新しいBMWらしさを見出したからには、後戻りはしないのだ。

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理想的な50:50の前後重量配分であり、BMW「M5」初となる4輪操舵を可能とするインテグレーテッド・アクティブ・ステアリングを標準装備している。

BMW M5

全長×全幅×全高:5,096×1,970×1,510mm
排気量:4,395cc
エンジン:V型8気筒ガソリン+Mハイブリッド
システム・トータル最高出力:727PS
システム・トータル最大トルク:1,000Nm
駆動方式:4WD
車両価格:¥20,480,000
問い合わせ先/BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL:0120-269-437
www.bmw.co.jp