
パナマ島で、野生のサルが別の種類のサルの子どもを「誘拐」して連れ回す様子が撮影された。類を見ない行動に、研究者たちの間で衝撃が走っているという。
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研究者「動物界で見たことがない」
独マックス・プランク研究所と米スミソニアン熱帯研究所(本部はパナマ・バルボアに位置)の研究者たちが5月19日、共同署名で科学雑誌『Current Biology』に論文を発表した。
2022年から2023年にかけ、ヒカロン島に生息するノドジロオマキザルの「道具の使用」について調査するため、研究チームは森にカメラを設置。ある日、赤ちゃんを背中に乗せたオスのノドジロオマキザルの姿をとらえたが、よく見ると、それは別種であるホエザルの赤ちゃんだったという。
ほかの映像を調べたところ、 2022年から2023年にかけて、少なくとも11匹のホエザルの赤ちゃんをノドジロオマキザルが運んでいるのが確認できた。マックス・プランク研究所の行動生態学者、ゾーイ・ゴールズボロ氏は「非常に衝撃的な発見でした。このような行動を、動物界で見たことがありません」と語る。
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高知能の群れに生まれた「文化的流行」か
南アメリカと中央アメリカに分布するノドジロオマキザルは、比較的寿命が長く、霊長目でも知能が高いのが特徴。新しい行動を学び、仲間同士で教え合う。パナマにいるオマキザル群は、石を使って木の実や貝などを割ることを覚える。
誘拐の動機は判明していないが、チームはヒカロン島の群れ特有で発生した一種の「文化的流行」なのではと推測している。中でも「ジョーカー」と名付けられたオスのノドジロオマキザルは特別知能が高く、今回の誘拐もほとんどがジョーカーによるものだという。その後、4頭のオスがジョーカーの行動を模倣した。
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「退屈しのぎ」で誘拐を始めた?
なぜ、ジョーカーは誘拐を始めたのか。チームは、知能の高いオスたちが退屈して、遊び感覚で新たな行動に出たとみている。ノドジロオマキザルの中でも、道具を使うのは基本的にオスのみ。天敵がおらず、競争も少ない恵まれた島の環境下で、オスたちは時間を持て余していたと、論文の共著者で人類学者のマーガレット・クロフット氏は説明する。
ノドジロオマキザルのオスたちは、さらった赤ちゃんを攻撃したり、世話したり、捕食したりする様子もないという。悲しいことに、赤ちゃんは母乳を飲めずほとんどが死亡したとみられている。
「逃げ出して母親のもとに戻った子もいると信じたい気持ちもありますが……わかりません」と、クロフット氏は述ベた。
ゴールズボロ氏によると、人間とほかの霊長類との間には、道具を使える高い知能に加え “あまり好ましくない特徴” も共通点として挙げられる。
「私たち霊長類には、多くの動物と違う点があります。無作為かつ恣意的にほかの動物に危害を加えるという、文化的伝統を持っていることです」
調査期間は2023年までのため、現在も誘拐が流行しているかは不明だ。もしも模倣が拡大していた場合、ホエザルの生存に悪影響を及ぼす危険性も無視できない。研究者たちは、人間社会と同様、ノドジロオマキザルたちの誘拐ブームも廃れていくことを望んでいる。
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Scientists have captured rare footage of cross-species infant abduction. Capuchin monkeys are kidnapping baby howlers, and no one knows why.https://t.co/8xchytsmgU
— Science News (@ScienceNews) May 21, 2025