細野晴臣が手掛けた『万引き家族』の音楽。是枝裕和監督が語る細野音楽の”大人な感じ”とは?

  • 写真:後藤武浩
  • 文:加藤一陽
  • 編集:久保寺潤子
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第71回カンヌ国際映画祭でパルム・ドール受賞、第42回日本アカデミー賞では最優秀作品賞、最優秀音楽賞を含む13冠など、細野晴臣とタッグを組んだ2018年公開の映画『万引き家族』で、映画史の新たなページを更新した是枝裕和。映画監督として、音楽家である細野に感じるものとは?

音楽の地平を切り拓いてきた細野晴臣は、2024年に活動55周年を迎えた。ミュージシャンやクリエイターとの共作、共演、プロデュースといったこれまでの細野晴臣のコラボレーションに着目。さらに細野自身の独占インタビュー、菅田将暉とのスペシャル対談も収録。本人、そして影響を与え合った人々によって紡がれる言葉から、音楽の巨人の足跡をたどり、常に時代を刺激するクリエイションの核心に迫ろう。

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是枝裕和(これえだ・ひろかず)●映画監督 1962年、東京都生まれ。映画監督、脚本家、ドキュメンタリー作家。カンヌやヴェネチアなどの国際映画祭で数々の受賞を果たし各国で高い評価を受ける。最新作のNetflixシリーズ『阿修羅のごとく』が2025年1月9日、世界配信スタート。

映像に合わせてその場で弾いた曲が、のちに映画音楽になった

もともと細野が手掛けた映画音楽が好きだったという是枝は、自身の作風と細野の音楽に、共通するものを感じていたそうだ。

「『銀河鉄道の夜』(1985年)や『メゾン・ド・ヒミコ』(2005年)の音楽が好きでした。どちらも映画の内容とともに、音楽を強烈に思い出す。でも、決して高揚するサウンドではありません。非日常ではなく、日常に寄り添う音というか。それが僕のつくる映画にすごく合うと思ったのです。『万引き家族』のイメージが固まった時も、『メゾン・ド・ヒミコ』の音楽の雰囲気がいちばん合うと感じて、仮の音として使っていました。リリー・フランキーさんと少年が駐車場で追いかけっこする場面には、『銀河鉄道の夜』の音楽を使ったりしていて」

細野と映画を共作する構想は、『万引き家族』が初めてではなかったという。

「これまでも、ご一緒したいと思った映画はいくつかあったんです。オファーをしたものの、制作自体が頓挫した作品もある。なので実際にお願いできるとわかった時は、念願が叶った気持ちでした」

秘密を抱えた人生の緊張感と、その中で育まれる絆の温かさ。『万引き家族』の音楽は、その両面がアコースティックギターやマンドリンなど生楽器中心のサウンドで優しく、穏やかに表現される。

「細野さんと細かいやり取りはなく、ぼくからは『このシーンのイメージは〝海の底〞なんです』とキーワードを伝えるレベル。すると、素晴らしい音を入れてくださる。オープニングで少年が万引きするシーンの音楽は、フレンチノワール風というか、犯罪映画の雰囲気があります。映像と歩調を合わせた音楽がカッコいいんです。思い返すと、初めて事務所にうかがった際に、『万引き家族』の映像を観た細野さんは『イタリアのネオレアリズモみたいな匂いがする。ピエトロ・ジェルミの作品みたいだから、音楽はこんな感じ?』とその場ですぐにギターを弾いてくれて……。強烈な体験です。もうパニックですよ(笑)。その曲はほぼそのまま、『Shota & Yuri』になりました」

最後に、細野のパーソナリティの魅力についてたずねてみた。「軽やかで、余裕があって、しかもそれが心地よさを感じさせる。ライブでも無理にテンションを上げたりしない。そういう姿勢が〝大人〞な感じで、いいんですよ。ぼくにとって細野さんは数少ない〝ひと世代上のカッコいい大人〞なんです」

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家族ぐるみで軽犯罪を重ねる一家の姿を通して、人と人とのつながりを描いた映画『万引き家族』。リリー・フランキー演じる父親が城桧吏演じる息子とともにスーパーで万引きを繰り返すシーンでは、手に汗握る音楽が流れ、観客を物語へ引き込む。『万引き家族』監督・脚本:是枝裕和 © 2018 フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

 

Column:是枝裕和が選ぶ、細野晴臣の3songs

「ケンタウルスの星祭り」(収録:『「銀河鉄道の夜」オリジナル・サウンドトラック』)
聴けば画が思い出せるほど印象的。本人に伝えたら、あれはもうつくれないと  

「母の写真」(収録:『メゾン・ド・ヒミコ』)
シーンを支配するのとは違って、画面の内側から聴こえてくる。細野さんの映画音楽はどれもそう

「Shota & Yuri」(収録:『万引き家族 オリジナル・サウンドトラック』)
事務所に行った時にギターで弾いてくださって。感動で記憶が消えてしまいました

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