フルオープンの新型マセラティ「グランカブリオ」で体験できる、クラシックとモダンの融合とは?

  • 文:小川フミオ
  • 写真:マセラティジャパン
Share:
Medium-23997-10MaseratiGranCabrioTrofeo.jpg
低く尖ったようなノーズとそれに独立したフェンダーを組み合わせたような造型で古典的な美も追究。

「プロダクトの進化は“螺旋”である」という意見を聞いたことはないだろうか。螺旋を描くように上(先)へと上がっていき、大きく変化することはあまりないとされる。マセラティが今年発売した「グランカブリオ」でも、そのことを連想させた。

Medium-25126-03-maserati-ghibli-spyder-grancabrio-trofeo-at-automotoepoca-2024.jpg
手前が「マセラティ・グランカブリオ」。奥は60年代の「ギブリ・コンバーチブル」。

「マセラティ・グランカブリオ」は、4人乗りのフルオープン。一般的な自動車カテゴリーだとGTに含まれる。長距離移動が快適、機能性が高い、スタイルが美しい、それなりの高性能、となかなか難しい条件を併せもったクルマがGTと呼ばれる。

イタリアはボローニャで設立されたマセラティは、第二次大戦前はレースで名声を確立したメーカーで、戦後は、GTづくりで世界的な名声を得てきた。特に米国では、同社のGTは富裕層に大いに愛された。最近は、スポーツカーやモータースポーツ(電気で走るフォーミュラE)にまた力を入れるようなってきていて、ファンを喜ばせている。

つまりマセラティにとって、スポーツGTづくりは自家薬籠中のものなのだ。今回の「グランカブリオ」はまさしく好例といっていいだろう。眺めても乗っても、もちろん操縦しても、心躍る出来映えだ。そのことが、今年11月に日本で行われたテストドライブでよくわかった気がした。---fadeinPager---

Original-24000-07MaseratiGranCabrioTrofeo.jpg
風の巻き込みは少なくオープン走行も快適。

いまのマセラティの特徴はなにか。すぐに思いつくのが、エンジンだ。特に、F1由来の燃焼技術を採用した3L V型6気筒エンジンの出来映えは、さすが、と言いたくなるもの。

マセラティが「ネットゥーノ」と名付けたV6は、効率よくハイパワーを引き出す設計と、2基のターボチャージャー装着が特徴。市街地でのゆっくりした走行だろうと、高速だろうと、山道だろうと、サーキットだろうと、実にそつなくこなす。不得意な領域がみあたらない。

なにより、高回転までさっと回り、回転が上がっていくに連れ、どこまでも力を出していくフィーリングがすばらしい。430kWの最高出力は6,500rpmで、650Nmの最大トルクは6,000rpmで発生。優雅なスタイルでありながら、レーシングカーに近いようなキャラクターだ。

Medium-23348-04MaseratiGranCabrioTrofeo.jpg
物理的な操作を極力減らした新世代の内装。

先に“螺旋的進化”について触れたように、マセラティは、F1の技術でスーパースポーツカー専門メーカーになるのではない。エンジンをうまくチューニングして、運転するときのわくわく感なる、クルマの根源的な楽しみを追求している。

最新の技術でどんどん遠くへと離れていってしまうのでなく、一般消費者の楽しみへと還元する。「グランカブリオ」を操縦して、クルマってつまらなくなっちゃったなあ、なんてつぶやきを発するひとは皆無のはず。

エモーションを大事にしている点では、デザインにも注目だ。外観は、5m近い全長を活かして、伸びやかなウェッジ(クサビ)型。先端のノーズは(マセラティ車の常として)とても低く、ちょっとした段差を超えるたびに、車内のボタン操作で車高を上げる必要があるほど。見返りは、スタイルのよさと、空力性能の追求による加速性として得られる。---fadeinPager---

Medium-23358-MaseratiGranCabrioTrofeo.jpg
かつて英国の高級車では「オックスブラッドレッド」などと呼ばれた官能的な赤色の内装もある。

内装もマセラティの得意とする領域だ。ダッシュボード、ドアの内張りに、アイボリーとか赤とかはっとするビビッドな色が用意されている。幌を開けたときの視覚的効果を考えてのことだろう。

欧米でこういうクルマに乗るユーザーは、言ってみれば四六時中オープンで走るのだ。車体色と内装色の組合せを同時に見せられるのが、フルオープンモデルの特長なのだ。そこがちゃんとわかっている。

ダッシュボードの操作類の多くは、液晶モニター内に入れられた。オーディオやナビゲーションなどは言うに及ばず、幌の開閉もスワイプで行うのがユニークだ。

Medium-23996-11MaseratiGranCabrioTrofeo.jpg
ソフトトップはモニターのスワイプ操作により14秒で開閉可能。

難点は、走行中の操作。低い位置にあるモニターへの視線移動が出来ないため、せっかく時速50kmまでなら走りながらでも幌の開け閉めが出来るのだけれど、操作はがまんする必要がある。

欧米人にならって、多少の霧雨ぐらいなら濡れていこうか、なんていう気持ちでドライブするのも一興かもしれない。まあ、ここだけだけは、螺旋をもう一回りして、前を見たまま、ブラインド操作できるようになってほしい気がする。

Medium-23344-08MaseratiGranCabrioTrofeo.jpg
路面との段差があるところでボタンで車高を上げる必要があるほど、ノーズは低い(そこがカッコよい)。

操縦感覚は、ひとことでいって快適。4人乗りの優雅なカブリオレへの期待を裏切らない。先述のとおり、エンジンは低回転域からトルクがたっぷりあるうえに加速はスムーズ。はっと速度計を見ると速度が思っていたより上がっていた、ということだけには気をつけたほうがいいでしょうが。

ハンドル操作に対する車体の動きはすばやく、ドライバーとの一体感が強い。そのため、街中でももたもたせず、自分の感覚どおりにクルマを走らせられて、安心感も高い。これは一般的にスポーツカーの美点で、マセラティだけに、「グランカブリオ」にも、その長所がしっかり感じられるのだ。

マセラティ グランカブリオ トロフェオ

全長×全幅×全高:4,960×1,950×1,380mm
2992ccV型6気筒 後輪駆動
最高出力:404kW(550ps)@6,500rpm
最大トルク:650Nm@6000rpm
8段オートマチック変速機
車両価格:¥31,200,000
問い合わせ先/マセラティ・ジャパン
www.maserati.com