「プロダクトの進化は“螺旋”である」という意見を聞いたことはないだろうか。螺旋を描くように上(先)へと上がっていき、大きく変化することはあまりないとされる。マセラティが今年発売した「グランカブリオ」でも、そのことを連想させた。
「マセラティ・グランカブリオ」は、4人乗りのフルオープン。一般的な自動車カテゴリーだとGTに含まれる。長距離移動が快適、機能性が高い、スタイルが美しい、それなりの高性能、となかなか難しい条件を併せもったクルマがGTと呼ばれる。
イタリアはボローニャで設立されたマセラティは、第二次大戦前はレースで名声を確立したメーカーで、戦後は、GTづくりで世界的な名声を得てきた。特に米国では、同社のGTは富裕層に大いに愛された。最近は、スポーツカーやモータースポーツ(電気で走るフォーミュラE)にまた力を入れるようなってきていて、ファンを喜ばせている。
つまりマセラティにとって、スポーツGTづくりは自家薬籠中のものなのだ。今回の「グランカブリオ」はまさしく好例といっていいだろう。眺めても乗っても、もちろん操縦しても、心躍る出来映えだ。そのことが、今年11月に日本で行われたテストドライブでよくわかった気がした。---fadeinPager---
いまのマセラティの特徴はなにか。すぐに思いつくのが、エンジンだ。特に、F1由来の燃焼技術を採用した3L V型6気筒エンジンの出来映えは、さすが、と言いたくなるもの。
マセラティが「ネットゥーノ」と名付けたV6は、効率よくハイパワーを引き出す設計と、2基のターボチャージャー装着が特徴。市街地でのゆっくりした走行だろうと、高速だろうと、山道だろうと、サーキットだろうと、実にそつなくこなす。不得意な領域がみあたらない。
なにより、高回転までさっと回り、回転が上がっていくに連れ、どこまでも力を出していくフィーリングがすばらしい。430kWの最高出力は6,500rpmで、650Nmの最大トルクは6,000rpmで発生。優雅なスタイルでありながら、レーシングカーに近いようなキャラクターだ。
先に“螺旋的進化”について触れたように、マセラティは、F1の技術でスーパースポーツカー専門メーカーになるのではない。エンジンをうまくチューニングして、運転するときのわくわく感なる、クルマの根源的な楽しみを追求している。
最新の技術でどんどん遠くへと離れていってしまうのでなく、一般消費者の楽しみへと還元する。「グランカブリオ」を操縦して、クルマってつまらなくなっちゃったなあ、なんてつぶやきを発するひとは皆無のはず。
エモーションを大事にしている点では、デザインにも注目だ。外観は、5m近い全長を活かして、伸びやかなウェッジ(クサビ)型。先端のノーズは(マセラティ車の常として)とても低く、ちょっとした段差を超えるたびに、車内のボタン操作で車高を上げる必要があるほど。見返りは、スタイルのよさと、空力性能の追求による加速性として得られる。---fadeinPager---
内装もマセラティの得意とする領域だ。ダッシュボード、ドアの内張りに、アイボリーとか赤とかはっとするビビッドな色が用意されている。幌を開けたときの視覚的効果を考えてのことだろう。
欧米でこういうクルマに乗るユーザーは、言ってみれば四六時中オープンで走るのだ。車体色と内装色の組合せを同時に見せられるのが、フルオープンモデルの特長なのだ。そこがちゃんとわかっている。
ダッシュボードの操作類の多くは、液晶モニター内に入れられた。オーディオやナビゲーションなどは言うに及ばず、幌の開閉もスワイプで行うのがユニークだ。
難点は、走行中の操作。低い位置にあるモニターへの視線移動が出来ないため、せっかく時速50kmまでなら走りながらでも幌の開け閉めが出来るのだけれど、操作はがまんする必要がある。
欧米人にならって、多少の霧雨ぐらいなら濡れていこうか、なんていう気持ちでドライブするのも一興かもしれない。まあ、ここだけだけは、螺旋をもう一回りして、前を見たまま、ブラインド操作できるようになってほしい気がする。
操縦感覚は、ひとことでいって快適。4人乗りの優雅なカブリオレへの期待を裏切らない。先述のとおり、エンジンは低回転域からトルクがたっぷりあるうえに加速はスムーズ。はっと速度計を見ると速度が思っていたより上がっていた、ということだけには気をつけたほうがいいでしょうが。
ハンドル操作に対する車体の動きはすばやく、ドライバーとの一体感が強い。そのため、街中でももたもたせず、自分の感覚どおりにクルマを走らせられて、安心感も高い。これは一般的にスポーツカーの美点で、マセラティだけに、「グランカブリオ」にも、その長所がしっかり感じられるのだ。
マセラティ グランカブリオ トロフェオ
全長×全幅×全高:4,960×1,950×1,380mm
2992ccV型6気筒 後輪駆動
最高出力:404kW(550ps)@6,500rpm
最大トルク:650Nm@6000rpm
8段オートマチック変速機
車両価格:¥31,200,000
問い合わせ先/マセラティ・ジャパン
www.maserati.com