連載「大人の名品図鑑」の井藤成一が語る、2024年のお薦めアイテム

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
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Pen Onlineで2018年から続く連載「大人の名品図鑑」。300を超える名品を紹介してきた出演者の小暮と井藤が、連載を振り返りながら、今シーズンの“推し”を選んだ。今回は、井藤の話を掲載したい。

Pen最新号は『2024年の名品を探せ!』。人気ブランドによる秋冬の新作から、国内外のデザイナーが提案するアイテムまで広範にリサーチし、“名品”と呼ぶにふさわしい服・小物を探し出して紹介する。さらに、上質な素材を世界に供する国内メーカーを訪ね、あらゆる名品を知る目利きたちにも話を聞いた。心動かされる服や小物が、ここからきっと見つかるはずだ。

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古いものや高価なものだけが、名品というわけではない

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井藤成一●スタイリスト。1978年、山口県生まれ。ファッション誌を中心に、メンズ、レディスを問わずスタイリングを手掛ける。2021年、山口市に自身のディレクションによるセレクトショップ「リトロップ」を開く。

今年の“推し”として、僕のほうではポーターを代表する名品「タンカー」を選びました。

実はタンカーは、僕のファッションの原点でもあります。1990年代の初頭にこのブランドと初めて出合いました。当時、このブランドのチーフデザイナーを務めていた方とお会いした時に「こんなカッコいい人がデザインしているんだ」と心から感激したのを覚えています。デザイナーに惚れてしまった、そんな感じです。

タンカーに代表されるポーターのバッグはメイド・イン・ジャパンならではの細やかなつくりが特徴です。ステッチワークも綺麗で、機能も充実しています。なによりフライトジャケットのMA-1をモチーフにしてバッグをつくり出したという革新性が素晴らしいではありませんか。

タンカーの誕生は1983年。それから40年が経って、今年、完全にリニューアルを果たしました。キャッチフレーズがいいんですよ。「何も変わらず、何もかもが変わる」。素材に100%植物由来の原料を用いたナイロンを開発して、パーツも一新しました。見た目が変わらないけれど、よく見ると全部新しくなっている。こういうのって名品らしい進化だと断言できます。

「大人の名品図鑑」をずっとやってきて感じるのですが、古いものをそのままつくり続ける──それはそれで素晴らしいことだと思いますが、それだけではアンティーク、あるいはヴィンテージ礼賛の企画になってしまいます。名品であっても、時代に合わせて変わっていく宿命を持っています。あるいはアップデートさせることで別の輝きを持つことも多々あります。今季の名品として推薦する新しいタンカーは、その典型的な例だと確信しています。さらに今回紹介したモデルは、定番のセージグリーンに続く新色アイアンブルーのウエストバッグです。名前の由来になったのは、日本古来の鉄紺で、少し赤みを加えた独特のネイビーブルーは、僕の大好きな色でもあります。

過去に紹介した「大人の名品図鑑」の中で、2018年公開の「アンディ・ウォーホル編」で取り上げたボーダーTシャツはタンカーと同じ、僕の原点に等しいアイテムです。スタイリストのアシスタント時代、名前を覚えてもらうために365日、ボーダーTシャツを毎日着ていましたから(笑)

音楽が好きなもので、ミュージシャンがテーマに採用されると熱くなってモノ集めをしてしまいます。今年の春に公開した「ボブ・マーリー編」でぜひ取り上げたいと思ったのが、彼が被っていたタム帽。スーベニア的な帽子でもよかったのですが、いろいろと探して大阪にたどり着き、手編みで綺麗な糸で編んだニット帽を探し当てました。メジャーなブランドの製品ではありませんが、そういうアイテムを紹介できるのもこの連載ならではの試みだと思います。

22年9月に公開したバスキア編で取り上げた「コンポジションブック」は、この連載の中で最も安価で、大量生産されている名品かもしれません。アメリカに行けば、どこでも買えるようなノートにバスキアが絵や詩を走り書きすると何億ドルもの価値を持つアートになる。なんとも痛快なストーリーです。名品は決して高価なものだけでなく、日用品として使え、すぐに手に入り、役に立つものの中にもある。それはいつも感じていることです。しかしこのノートは意外に探すのが大変でした。昔は「ソニープラザ(現在のプラザ)」に行けば、いつでも買えたのです。ところが、いろいろと聞いてまわりましたが一冊もありません。最後に福岡のセレクトショップが並行輸入していたものをお借りしましたが、名品でも一度なくなると容易には手に入らない。そんな場合もあると感じています。

最近の「大人の名品図鑑」では、ただランダムに紹介するのではなく、1回目に紹介した名品から最後の名品まで総観してもらうと、テーマがつながるように工夫しています。さらにPodcastで本編では書かれなかった話を楽しんでもらう。今後はそれをさらに進化させたいと思っています。

ポーターのウエストバッグ

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ポーターの代表シリーズ、タンカーの新作は全40型があるが、井藤が推薦するのは、いわゆるウエストバッグで、モデル名は「ヒップバッグ」。世界で初めて量産化に成功した、トウモロコシとヒマを原料とする100%植物由来のナイロンを採用。本体にマチを十分に設けることで収納力の高さを実現。フロントポケット以外にハーネス部分にもポケットを設け、細かく荷物が仕分けできる。8月から展開されている新色のアイアンブルーを井藤は選んだ。「素材だけでなく、パーツなどの細部も進化している。ボディバッグ風に斜め掛けするのもカッコいいと思います」と井藤は話す。(H16×W27×D12.5㎝)¥46,200/ポーター

ポーター 表参道

TEL:03-5464-1766
https://www.yoshidakaban.com/shopinfo/porter/omotesando/

 

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自身のファッション人生を投影する、井藤が選んだアーカイブ3選

 

サヨヨン ギャラリーのタム帽

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2024年5月に公開された「ボブ・マーリー編」で紹介したタム帽。デザイナーはアパレル会社で長くニットのデザインを担当し、独立後に棒針などの手編み技術を学んだ人。¥4,500(サヨヨン ギャラリー eメール:sayoyon.gallery@gmail.com

オックスフォードのコンポジションブック

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2022年9月公開の「バスキア編」で紹介したノートで、表紙のマーブル模様に特徴がある。アメリカでは多くの学生たちが使うメジャーなノートだが、日本で購入するのは意外に難しい名品だ。¥1,650(ファット ポケット TEL:092-791-3949)

セント ジェームス/ボーダーTシャツ

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2018年12月に公開した「アンディ・ウォーホル編」ではフランスのセント ジェームスを紹介。ウォーホルだけでなく、多くの画家、ミュージシャン、デザイナーが愛用した逸品。¥14,300〜(セント ジェームス代官山 TEL:03-3464-7123)

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