全米がテイラー・スウィフトの政治的発言に注目するも、本人はダンマリ…その訳は?

  • 文:中川真知子
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テイラー・スウィフト(ShutterStock)

大統領選を控えるアメリカが、米人気歌手テイラー・スウィフトの発言に注目している。インスタグラムのフォロワーが世界で2.8億人いるテイラー・スウィフトがどちらの大統領候補を支持するか表明することで、結果に影響が出ると考えられているからだ。

2020年の大統領選で「バイデンに投票する」と発言したテイラーだが、今回の大統領選では沈黙を貫いている。そんなテイラーに対して、ファンから「カマラ・ハリスに投票すると表明して」という声が高まっている。

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テイラー・スウィフトと政治的発言

テイラー・スウィフトが政治に強い関心を持っており、2018年から精力的に若者に向けて投票を呼びかけているのは有名な話だ。

これには明確な理由がある。彼女はその1年前に公の場で元ラジオDJのデヴィッド・ミューラーにセクハラ被害を受け、裁判を起こしたのだ。テイラーは勝訴したが、目撃者もおり証拠の写真もあったにもかかわらず、信じてもらうのに苦労した。その経験を通して、同様の被害を受けても信じてもらえない人々がいることに心を痛めている。この経験が社会を変えたいと願う原動力となり、政治的発言へとつながった。

テイラー・スウィフトのインスタグラムより

テイラーは女性のリーダーが必要だと考える一方で、テネシー州の保守派マーシャ・ブラックホーンは女性の権利を脅かすと強く批判した。

この発言は瞬く間に広がり、その日のうちに若者を中心に有権者登録数が急増した。選挙はテイラーが願う結果にはならずブラックホーンが勝利を収めた。悔しさからより強い影響力を欲するようになり、若者を選挙へと駆り立てるプロパガンダの曲も手がけるようになった。

彼女が政治への影響力を高めたいと願う様子は、Netflixドキュメンタリー『ミス・アメリカーナ』で見ることができる。悔しさを滲ませ、社会を変えたいと力説しているのだ。

『ミス・アメリカーナ』予告編 - Netflix

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団結する“スウィフティーズ”と、一喜一憂するハリス支持者

そんなテイラーの姿を見て、“スウィフティーズ”と呼ばれるテイラーのファンたちは団結した。2020年の大統領選では少なからずスウィフティーズの投票が影響したと言われているし、2024年の大統領選では民主党のカマラ・ハリス候補を応援している。

前述の通り、テイラーは今回の大統領選に対しては沈黙を貫いているが、スウィフティーズはSNSで「@Swifties4Kamala」というアカウントをつくり、カマラ・ハリスへの投票を呼びかけている。

また、テイラーに向けて「あなたのコンサートにやってくるファンのためにも民主党支持を表明してほしい」と呼びかける人もいる。

そんな中、8月上旬に更新されたテイラーのインスタグラムに意味深な写真が含まれていたことが大きな話題となった。ギターを抱えたテイラーの背後に、スーツを着用したカマラ・ハリスらしき女性の後ろ姿が映り込んでいるのだ。

7枚目の投稿写真に写り込む女性の後ろ姿…。

この写真を見た人々は、「テイラーがカマラ・ハリスを支持すると暗示した」と大騒ぎし、米国メディアもこぞって報じた。だが、実際はスーツ姿のダンサーであり、カマラ・ハリスではないことが確認されている。つまり、テイラーは今でも沈黙したままなのだ。

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強まる影響力、カルト化する一部ファン

テイラーは若者の声の代弁者のような存在となった一方で、その影響力の強さ故、ファンの中からも困惑の声が聞こえる。

RedditをはじめとするSNSには、テイラーのファンによる「一部のファンがカルト的に崇拝しており、テイラーの全てを肯定しなければバッシングを受ける状況になっている」といった書き込みが散見されるのだ。

それに、テイラーが精力的に政治的発言をしてきたにもかかわらず、イスラエルとパレスチナ問題には言及しないことが批判され、デジタルギロチン(SNSのフォローをやめること)も増えているという。ファンの中には「パレスチナを支持すると表明して」といったプラカードを持ってテイラーの前にやってくるものもおり、テイラーの影響力を自分の思想のために利用しようとする行動も見受けられる。

そういった一部ファンの暴走についていけず「長年のファンをやめた」「単純に彼女の音楽が好きな人はファンではないのか」といった人の声もあった。

2018年の中間選挙で悔しさを滲ませ、影響力を望んだテイラー・スウィフトだが、果たしてここまでの存在になりたいと考えていたのだろうか。国の方針を大きく変える大統領選を前に、世界中が彼女の動向を見守っている。