「大人の名品図鑑」五輪映画編 #3
今年の7月26日からフランスのパリで第33回夏季オリンピック競技大会がスタートする。この大会ではブレイキンなどの新しい競技も加わり、32競技329種目が実施され、メダル獲得を目指した熱戦が繰り広げられるだろう。今回は「オリンピックを題材した映画」に登場する名品にフォーカスを当てる。
2014年に公開された映画『フォックスキャッチャー』は、オリンピック大会そのものの様子を描いた作品ではない。主な登場人物は3人で、うち2人がオリンピックの金メダリスト。そのひとり、マーク・シュルツは1984年のロサンゼルス大会で、フリースタイルのミドル級で金メダルを獲得したレスリング選手。兄のデイヴ・シュルツもレスリング選手で、同じ大会でフリースタイルのウェルター級で金メダルに輝いている。メダリストの2人に絡むのは、アメリカ3大財閥のひとつ、デュポン財閥の御曹司のジョン・デュポン。ジョンはレスリング好きが高じて自ら監督を務めるプライベートチーム、フォックスキャッチャーを結成し、デュポン家の広大な敷地にトレーニング施設や選手たちが住む家などを建設。オリンピックでメダルを目指す選手たちのリクルートを始める。
この誘いに乗ったのが次のソウルオリンピックで金メダルを目指していたマーク。マークはメダリストでありながら練習環境にも恵まれず、苦しい生活を送っていた。しばらくして選手引退後、ほかのチームでコーチをやっていた兄デイヴもフォックスキャッチャーに参加することになる。デイヴの指導を受け、マークは好成績を収めるが、次第に3人の関係に不穏な空気が漂うようになり、やがて悲劇的な結末を迎えことになる。本連載で取り上げるほかの作品同様、この作品も事実に基づいたものであるが、Netflixでは『フォックスキャッチャー事件の裏側』(16年)というドキュメンタリー作品も製作されている。裏側をもっと覗いてみたいという方にはこちらの作品もお薦めだ。
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映画から想起される、オニツカタイガーの新作シューズ
『フォックスキャッチャー』の監督を務めたのはベネット・ミラー。ブラット・ピットとジョナ・ヒルが共演した『マネーボール』(2011年)やフィリップ・シーモア・ホフマンが作家トルーマン・カポーティを演じた『カポーティ』(05年)などで知られる監督だ。財閥の御曹司ジョン・デュポンを演じたスティーヴ・カレルは、毎回2時間かけて特殊メイクを施してジョンを演じているが、風貌は本人にそっくりだという人も多い。兄弟のひとり、マークを演じるのは『G.I.ジョー』シリーズや『ホワイトハウス・ダウン』(13年)などで知られるチャニング・テイタム。兄のデイヴには『哀れなるものたち』(23年)や『スポットライト 世紀のスクープ』(15年)などの話題作に次々と出演するマーク・ラファロ。この作品が公開された14年には第67回のカンヌ映画祭のコンペティション部門に出品され、ベネット・ミラーが監督賞を獲得している。
この作品にはレスリングの練習や試合の場面が登場するが、多くの選手たちが履いていたのがアシックスのレスリングシューズだ。同ブランドは1949年に創業されたオニツカタイガーがもとになった日本を代表するスポーツブランドで、77年に総合スポーツブランドを目指して友好関係にあった2社と合併し、社名をアシックスと改めたため、オニツカタイガーというブランドは一時消滅するが、復活を求める世界からの声に応えて2002年にリブートする。新生オニツカタイガーがテーマにしたのはファッションで、毎シーズン多彩なコレクションを展開、世界中に多くのファンを持つブランドへと成長を遂げている。
偶然にもこの秋冬のコレクションで、レスリングシューズに似た「WRESTLIA」というモデルが発見した。聞けばこのモデルはローラースケートからインスピレーションを得たものだが、シャープでクラシックなフォルムは当時のスポーツシューズの多くに見られた共通のデザインと言えるのではないだろうか。同ブランドが数々のスポーツで培ったデザインや技術、アイデアを見事にファッションに落とし込んだ注目すべきモデルだ。
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