「大人の名品図鑑」五輪映画編 #2
今年の7月26日からフランスのパリで第33回夏季オリンピック競技大会がスタートした。この大会ではブレイキンなどの新しい競技も加わり、32競技329種目が実施され、メダル獲得を目指した熱戦が繰り広げられている。今回は「オリンピックを題材した映画」に登場する名品にフォーカスを当てる。
ジェシー・オーエンスという選手をご存知だろうか。1984年に行われたロサンゼルス大会において米陸上選手のカール・ルイスが4冠を達成したときには「ジェシー・オーエンスの再来」という言葉でカール・ルイスの偉業を称賛されたので、このときにジェシー・オーエンスという名前を知ったという人も多いだろう。
ジェシー・オーエンスはカール・ルイスと同じくアメリカの黒人陸上選手で、ロス五輪の48年前、1936年に開催されたベルリン大会で、100m、200m、走幅跳、男子4×100mリレーの出場4種目でそれぞれ優勝し、初の4冠を達成した人物だ。その彼を主人公のした作品が『栄光のランナー/1936ベルリン』(16年)だ。
主役のジェシー・オーエンスを演じたのは、『グローリー 明日への行進』(2014年)や『21ブリッジ』に出演し、『ビール・ストリートの恋人』(19年)で主人公ファニーを好演したステファン・ジェームズ。彼のコーチ、ラリー・スナイダーには近年では『モンスター上司』(11年)や『ブックスマート 卒業前夜のパーティデビュー』(19年)などに出演しているジェイソン・サダイキス。ほかにもジェレミー・アイアンズやウィリアム・ハートなど、芸達者なオスカー俳優が脇を固めるという作品だ。
物語の中心となる36年の第11回ベルリンオリンピックは、第二次世界大戦を前にして混沌とした時代を背景にして行われた大会だ。ドイツを掌握したアドルフ・ヒトラーは、この大会をアーリア人の優越性とナチズムのプロバガンダに利用しようと考えていた。一方、アメリカで貧しい家庭に生まれながらも陸上選手として稀有な才能を発揮していたジェシーは、オハイオ州立大学で陸上の名コーチであるラリー・スナイダーに出会い、オリンピック出場を目指していた。
しかし、アメリカ国内ではユダヤ人を排斥するナチスの動きに反対して大会そのものをボイコットする動きが強まる。大学に入ってからも黒人差別を受けてきたジェシーにとっても、ナチスの人種差別政策は到底容認できるものではなかった。そんな世界状況のなか、ベルリンに向かったジェシーは大観客が集う競技場に立つ……。オリンピックの光と陰が描かれた良作だ。
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アメリカの老舗、サウスウィックがアラン ペインに別注
この作品からピックアップした名品が、アメリカの選手たちがユニフォームとして着用していたクリケットセーターだ。白をベースにして、Vネックや袖にストライプが入ったモデル。この種のセーターは前回紹介した『炎のランナー』でも登場するが、ジェシーのような選手が身に着けると精悍に見え、オリンピックのユニフォームとしての品格が増して見える。映画でのジェシーらの着こなしは、21年に発行された『BLACK IVY:A REVOLT IN STYLE』(JASON JULES著 REEL ART PRESS)に登場する黒人のアイビースタイルにつながるものがあるのではないか。
今回取り上げるクリケットセーターは、1929年にアメリカのマサチューセッツ州・ローレンスで創業された老舗、サウスウィックからリリースされたモデルだ。サウスウィックはアメリカの老舗テーラードウェアファクトリーで長くアメリカのメンズショップやブランドのスーツ、ジャケットを手掛けてきた。しかしアメリカで親会社が経営危機に陥り、20年にファクトリーは閉鎖される。
その後は、日本を代表するセレクトショップのシップスがブランドを継承するかたちで、アメリカやヨーロッパの老舗ファクトリーと組み、魅力的なコレクションを展開している。このクリケットセーターは、英国で1907年に創業されたアラン ペインに別注したモデルだ。アラン ペインは大学や所属クラブのネクタイカラーを取り入れたスポーツセーターで人気を得た老舗で、クリケットセーターは同ブランドの代名詞的存在で、まさに本物。着るだけで正統的なテイストを感じ取ることができる。ベルリン五輪に参加したジェシーもそんな緊張と高揚感のなか、このセーターを着たのではないだろうか。
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