映画音楽の巨匠ジョン・ウィリアムズが見せる、ライブでの秘められた顔

  • 文:小室敬幸(音楽ライター)
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【Penが選んだ、今月の音楽】
『ジョン・ウィリアムズ イン トウキョウ』

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コープランドやバーンスタインらアメリカ音楽の伝統に連なる作曲家・指揮者・ピアニスト。50年以上にわたりハリウッド映画音楽のトップとして君臨。アカデミー賞受賞5回、グラミー賞受賞26回、ゴールデン・グローブ賞受賞4回。今回録音された来日公演は昨年実現したもの。 © Michiharu Okubo

大袈裟ではなく、これは歴史的コンサートの記録だ! 『スター・ウォーズ』『ジョーズ』『ハリー・ポッター』……と代表作を挙げ出せばキリがない、映画音楽の世界における最大の巨匠ジョン・ウィリアムズ、当時91歳。30年ぶりに実現した来日公演のライブ録音である。今年2月に亡くなった指揮者・小澤征爾を慕う一流の演奏家が世界中から集まったサイトウ・キネン・オーケストラを「ジョンに体験してほしい」という小澤の願いを叶え、久々の再会を果たすためにアメリカからはるばるやってきたのだ。サイトウ・キネンの本拠地である長野県松本の公演では舞台上で小澤とジョンの感動的な対面もあった。

今回発売されたのは東京公演の録音。前半は別の指揮者が振っており、通常盤のCDではその中から小澤のためにジョンが作曲した「Tributes!( for Seiji)」だけがボーナストラックのように置かれている。コンサート後半にジョン・ウィリアムズ本人が指揮した演奏は、アンコールまですべて収録。私は会場で聴いていたのだが、ジョンが最初に「スーパーマン・マーチ」を振り出した瞬間、前半と同じオーケストラであるにもかかわらず、はっきりと音が変わったのはいまも忘れられない。終演後のオーケストラの奏者たちによるSNSの投稿にもそうした驚きとともに、このコンサートが彼らにとっても特別な体験であったことがつぶやかれていた。アンコール前に演奏された「王座の間とエンドタイトル」では、これ以上ないほど喜びに満ちた音が飛び交っているのが録音からもだだ漏れだ。映画のおかげで生まれた音楽であるのだが、映画という枷(かせ)から解き放たれて秘められた可能性がフルスロットルで発揮されると、これほどまでに輝きを増すのかと、聴けば必ずや驚いていただけるはず。

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ジョン・ウィリアムズ、ステファン・ドゥネーヴ ユニバーサル ミュージック UCCG-45092 ¥3,080

※この記事はPen 2024年8月号より再編集した記事です。