【インタビュー】ヴァレクストラ×アーティスト・fumiko imanoによる新作が公開。21_21 DESIGN SIGHTで展覧会が開催中

  • 写真:溝口 拓
  • 文:小松香里
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左:グザヴィエ・ルゥジョー●ヴァレクストラCEO。2021年より現職。過去スマイソンCEOやロロ・ピアーナ、セルジオ・ロッシなど上級職を歴任し、グローバルに20年以上業界を牽引。 右:fumiko imano●アーティスト。1974年生まれ。セントラル・セント・マーチンズ美術デザイン大学でファインアートを専攻し、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションでファッション・スタイリング、写真を学ぶ。LOEWEのイメージブック『Publication』やVANSなどファッションブランドとのコラボで注目を浴びる。

セルフポートレートをコラージュすることで自らを双子に見立てた『Twins』シリーズで知られるアーティスト、fumiko imanoと、1937年にイタリア・ミラノで創業し、流行を超越した本質的で汎用性の高い革小物を展開するラグジュアリーブランド、ヴァレクストラ(Valextra)がコラボレーションした展覧会『Inside of the Edges and Lines_fumiko imanoの双子が覗いたヴァレクストラのアトリエ』が、21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3(東京・六本木)で開催されている。展示について、ヴァレクストラCEOのグザヴィエ・ルゥジョーとfumiko imanoに話を訊いた。

fumiko imanoの表現によって、ヴァレクストラに新たな魅力が加わる

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fumiko imanoの代表作『Twins』シリーズの手法が今回のコラボレーションにも用いられ、ヴァレクストラの製品づくりの瞬間が切り取られている。

ギャラリーには、ふたりのfumiko imanoがヴァレクストラの工房で職人がハンドバッグを制作していく様を目撃する瞬間を捉えた写真が展示。各写真はそれぞれ、その工程における一番大事なポイントを切り取っている。型紙を切り取ってバッグの形に組み合わせていく瞬間、職人がレザーの厚さをチェックしている瞬間、製品に何か問題が起きた時のためだけではなく、職人のプライドを刻む目的のために職人のコードをバッグに刻印する瞬間、バッグを丈夫にするために皮を1枚1枚手作業で装着する瞬間──ヴァレクストラのものづくりのドキュメンタリーであると同時に、写真をカットしてコラージュするというエッジによってヴァレクストラのハンドバックに新たな魅力を付加している。

ヴァレクストラCEO、グザヴィエ・ルゥジョーは「ヴァレクストラの工房に訪れたfumiko imanoが、どのように職人が仕事をしているか、どのような価値が手づくりにあるのか、どのように職人が仕事をしているかということと向き合うプロセスを収めた写真が展示されている」と本展について説明する。

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「アーティストからの視点でお見せすることで、ブランドの新たな面を提示することができる」と、コラボレーションの意図を語ってくれた。

コラボレーションの発端は、現代アートを愛するルゥジョーがfumiko imanoの存在を知り、夕飯を共にしたことだという。

「fumikoと東京で夕飯をご一緒した時にいろいろな話をしました。そこで出たアイデアがとても面白く、ヴァレクストラとコラボレーションする話が持ち上がりました。ヴァレクストラはこれまでも写真家のピーター・フィンチなどといったアーティストとコラボレーションをしてきました。コラボレーションは毎回、アーティストと対話をする中でどうすればヴァレクストラに新たな魅力を付加できるかということを一緒に考えながら進めています。アーティストからの視点でブランドを見せることで、ブランドの新たな次元を提示することができる。fumikoの『Twins』シリーズは自身の内面をアウトプットするという面でヴァレクストラのコンセプトとリンクすると感じました。ヴァレクストラは職人が手作業で製品をつくります。fumikoはデジタル写真を使いながら、手作業で写真をカットしコラージュするというアナログな手法を取り入れているところにも惹かれました。手作業でつくる工程のキーとなる瞬間を切り取ってコラージュすることで、ヴァレクストラが創業以来大切にしているコンセプトをみなさんに体感していただけるような展覧会になっています」と、ルゥジョーは言う。

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今回展示された写真は、世界初公開の新作で構成。

展覧会を訪れたfumiko imanoは「実際に製品をつくらせてもらうアプローチも考えたのですが、職人の方たちは入り込む隙がないほどずっと作業をしているので、それをのぞき込んでいる双子の画になりました。とても自由にやらせていただきました」と口にした。

展覧会にはヴァレクストラの職人が使っている道具も展示されている。ヴァレクストラのものづくりを特徴づける工程「コスタ」(革の断面に黒インクを塗る職人の手仕事)に使うペンや、ハンドバッグに手縫いでハンドルを付ける道具、繊細な針と糸からはヴァレクストラの丁寧で真摯なものづくりの精神が伝わってくる。

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革製品の縁に黒インクが塗られる「コスタ」は、職人の手仕事によるもの。90年近く受け継がれたブランドの職人技が光る。

「コバ塗り(専用の薬品や道具を使ってコバを保護する加工のこと)は他のブランドでも行われていますが、表現がマットな製品が多い。なぜなら少し傷がついても目立たないからです。しかし、ヴァレクストラの創業者であるジョヴァンニ・フォンタナは完璧な製品を目指したため、ヴァレクストラのコバ塗りは少しでも傷があると目立つシャイニーな質感です。職人には高い要求を課すことになります。職人はそれぞれが自分の道具を持って、職人としてのプライドの下、完璧な製品づくりを目指しています」

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展示の写真とともに、職人が実際に使っている道具を見せることで、ヴァレクストラのクラフトマンシップをより近くで感じ取ることができる。

ひときわ目を引くのが、インク入れとして使われる空き瓶とコスタを塗った皮を浮かし乾燥させるために使うペットボトルのキャップだ。

「イタリアにはエフォートレス(気取らない、気楽といった意味)という考え方が根付いています。ヴァレクストラはラグジュアリーブランドですが、製品をつくる際にジャムやピスタチオクリームの空き瓶を使ったり、ペットボトルのキャップを再利用したりしています。伝統は大事にしながらも、職人一人ひとりのアイディアや人となりが盛り込まれているのもヴァレクストラの特性のひとつです」

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ヴァレクストラ 東京ミッドタウン店にも、fumiko imanoによるインスタレーションが展開 

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ヴァレクストラ 東京ミッドタウン店にも展開されるインスタレーション。工房からアイテムが盗まれた様をイメージ。

21_21 DESIGN SIGHTから歩いてすぐの東京ミッドタウンにあるヴァレクストラの店舗には、床にヴァレクストラの革製品が等間隔で並べられた、fumiko imanoによるインスタレーションが展示されている。

fumiko imanoは「21_21 DESIGN SIGHTで展示している作品には製品をつくる工程が収められているので、工房からたくさんの製品を盗んだという設定でインスタレーションを制作しました」と、ニュース番組でよく流れるブランドの偽物の押収品の映像からインスピレーションを受けたそうだ。

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押収物のように番号が付けられたカラフルな小物やバッグが、所狭しと並べられた。

なお、こちらの店舗では、fumiko imanoの作品にキツネのぬいぐるみが登場することから、本展が開催されている7月15日(月)まで、アイテムにキツネのモチーフが刻印できるサービスが行われている。

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その場で真鍮製の刻印を施してくれる。期間限定の特別なワンポイントに。

87年もの間、革小物を展開するラグジュアリーブランドとして愛され続けているヴァレクストラ。伝統を守りながらも、新たな才能とコラボレーションすることでブランドのコンセプトのひとつである“イノベーティブ”を実現してきた。

ルゥジョーは最後にこう語った。「ジョヴァンニ・フォンタナは常に特別なものを提供するラグジュアリー・ブランドを目指してヴァレクストラを創業しました。その思いには時代に即したものをつくり続けるということも含まれています。機能的な美しさを保ち続けながら、常に革新的なブランドであり続けること。今回の展覧会は、伝統的な作品への敬意を払うと同時に、いまの時代のライフスタイルに合わせたらどういった化学反応が起こるのかということをお見せする機会でもあります。革新性を意識しているからといって決して突拍子のないものである必要はなく、その製品がつくられた当時のモダンさを時代と共に刷新していくのがヴァレストラのスピリットです」

ヴァレクストラとfumiko imanoによるコラボレーションを、ぜひ間近で鑑賞してみてほしい。

『Inside of the Edges and Lines_fumiko imanoの双子が覗いたヴァレクストラのアトリエ』

開催場所:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3
東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン
開催期間:開催中〜2024年7月15日(月)
https://www.2121designsight.jp/gallery3/Inside_Edges_Lines