ヘリで携帯の電波をたどる「ライフシーカー」で山岳救助が変わる? 遭難者を最短3分で発見

  • 文:青葉やまと
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Crazy nook-Shutterstock

山岳救助の新技術「ライフシーカー」が注目を集めている。捜索救助用のヘリやドローンに、携帯電話用の可搬基地局に似た装置を搭載。遭難者の携帯電話が発する電波を検出し、その位置を特定する。

ライフシーカーは、搭載するヘリやドローンから最大20マイル(約32km)以内の携帯電話を検出することができる。ヘリやドローンが捜索対象者の3マイル(約5km)以内に入れば、位置をピンポイントで特定可能だ。すでに採用しているドイツ当局は、「10〜20mの正確性で」位置を特定可能だとしている。

狭いエリアで正確に位置を絞り込めることから、地上チームやヘリコプターによる迅速な救難活動の展開に役立つと期待される。

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救難者との交信も可能

開発元でありスペインに本社を置くセンタム・リサーチ&テクノロジー社によると、ライフシーカーは位置を絞り込むだけでなく、行方不明者と交信することもできる。ライフシーカーが小型の携帯電話用基地局に似た役割を果たし、携帯電話との通信を確立する。

対象地域が圏外の場合、一般の通信網には接続できないが、搭載のヘリと遭難者の携帯電話のあいだで交信が可能となる。捜索救助隊が遭難者の健康状態や医療ニーズなどを迅速に把握でき、救助活動の迅速化と効率化に役立つと同社は強調する。

実際の捜索救助ミッションでは、ライフシーカーが携帯電話の信号を捕捉し次第、そのおおよその位置が地図上に表示される。捜索隊が上空を飛行し続けることで、信号の位置が徐々に絞り込まれ、最終的に行方不明者の正確な居場所が特定される。

機動性の高さもポイントだ。米コロラド・ハイランド・ヘリコプターズの捜索救助プログラムコーディネーターであるティム・ダーキン氏は、米インタレスティング・エンジニアリング誌に対し、必要時には3分程度でヘリに搭載可能だと述べている。

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実地テストでは3分以内に発見

センタム社によると、実際の救助活動では、最短5分以内に遭難者の位置の特定に成功しているという。インタレスティング・エンジニアリング誌は、ある程度地域を絞り込んだうえで位置を1点に特定する場合であれば、「およそ1分」で完了すると報じている。

アメリカでは、実際の遭難シーンを想定したテストが行われた。結果、3分未満で位置の特定に成功している。

テストが行われたのは、多くの遭難者が発生しているコロラド州ラプラタ・キャニオンだ。人里離れた山岳地帯であり、3000〜4000m級の山々に両脇を囲まれている。過去には捜索隊が遭難者の発見に失敗し、地上での捜索ミッションが中止されたこともあった。

これに対し、ライフシーカーを用いた模擬捜索ミッションでは、装置の起動後わずか2分14秒で“遭難者”の発見に成功した。峡谷など複雑な地形においても、効果的に機能することが証明された形だ。

救助活動専門サイトの英エアー・メッド&レスキューは、過去12カ月間の運用データをもとに、平均5分で居場所が特定されており、平均誤差30メートル未満の精度であったと報じている。

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10カ国以上で導入、すでに成功事例も続々

エアー・メッド&レスキューによると、ライフシーカーは現在、北米、ヨーロッパ、アジア、オセアニアの捜索救助事業者が導入している。カナダ空軍、スイス航空救助隊、スイス空軍、イタリア国家消防隊などがこのシステムを使用しており、ノルウェーの司法・公安省も最近採用した。

センタム社によると、すでに10カ国以上の35以上の事業者に導入され、200件以上の成功事例があるという。同社は携帯の電波を「命のビーコン」として活用する試みであり、「山岳地帯や森林などの複雑な地形の捜索にも有効で、従来の捜索では困難だった地域でも成果を挙げている」と説明している。

ライフシーカーによる捜索は、携帯電話が機能していることが前提となる。海外の導入対象地域で万一遭難した場合、携帯電話のバッテリー残量を温存しておき、ヘリやドローンが近づいたら電源を入れることも、早期に発見される一助となりそうだ。