クラシックな革靴の立ち位置はこの10年ほどで、「必須のワードローブ」から、「趣味のワードローブ」へと大きく変化したようだ。仕事着がスポーティになった現代社会では、社交の場も軽快なスニーカーで許されてしまう。流行中のカジュアルな服装と、昔ながらの革靴との相性がしっくりこないケースも多い。「革靴の人気が復活」などとメディアが提唱しても、その声は宙に消えがちなのが現状だ。
だがそれならば、革靴をクラシックという保守的な枠組から外してしまえばどうだろう?スニーカーに近い気軽さで履ける革靴。ただし革靴ならではのラグジュアリー感、高品位な佇まいは望みたいところ。装いを知る大人のマインドにフィットする品であってほしい。
ここではそんな現代の革靴シーンに一石を投じる次世代モデルをピックアップ。スペインの気鋭のデザイナーズであるへリュー(HEREU)、フランスの高級老舗のジェイエムウエストン(J.M WESTON)、日本のリーガルの1ブランドであるリーガル シュー&カンパニー(REGAL Shoe & Co.)の3者だ。まずはデザイナーデュオが来日して話を聞いたへリューからご覧いただこう。
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モード顔の裏にスペインの伝統が息づくへリュー
日本でもセレクトショップや百貨店を中心にファン層が広がるスペインのへリュー。6月には東京・伊勢丹新宿店でポップアップストアも開催されたほどの人気ぶりだ。モードな着こなしに合うデザインで女性を中心にブレイク。創業者でデザインも手掛けるホセ・ルイス・バルトロメ(José Luis Bartolomé)とアルベルト・エスクリバーノ(Albert Escribano)によると、ヨーロッパでは男性にも人気が高いそうだ。
「革靴そのものを履く人が増えましたね。ヨーロッパに加えアメリカのNYでも。バギーショーツを穿きナイキのソックスを履き、足元はへリューのスリッポン。スニーカーの世界トレンドが20年近く続いてきたことへの反動のようです。ネクストスニーカーを探すなかで、スポーツウェアにも合うへリューが好まれているのでしょう」
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ホセとアルベルトのデザインには軽快感がある。アイコンシューズであるローファーに代表されるように気楽に足入れでき、編み革の技法でさらにライトなムードを付け足す。主な素材は厚手の革で、スニーカー世代の心にもしっくりと馴染む。ただしへリューは決してトレンドを追ったデザインではないようだ。
「わたしたちがブランドを立ち上げた目的のひとつに、スペインの伝統産業を継承していくことがあります。素材も製造も主にスペインのもの。へリューにローファーが多いのは、スニーカーがなかった時代に多くの人が素足でローファーを履いていた伝統の再現です。スペイン産の牛革は肉厚で耐久性があり、裏貼りなしでシューズに仕立てることができます。この素材を使おうとするとローファーが最適。自分たちが履きたくなるモダンさを加味して仕上げています」
ふたりともパリやロンドンのファッション業界で働いてきたキャリアを持つ。へリューは伝統の落ち着きと、彼らのエッジーなセンスとが融合したコレクションだ。
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スペインはイタリアと並び世界最高級の革を供給する国。ホセとアルベルトによると、シューズの製造レベルも世界屈指だという。それではなぜスペインのブランドが日本暮らしの我々の耳にあまり入ってこないのだろうか。
「スペインではブランド化することが難しい現状があります。イタリアには有名なファッションブランドが多いですよね。服と一緒にブランド化できるから強いんです。スペインにもロエベのような高級メゾンはあるものの、世界的に知られるものは少ないです。へリューはそんな現状を打破したいと考え、ビジュアル表現にも力を注ぎブランド力を高めようとしています」
公式サイトに掲載するルックなどのディレクションも彼らふたりが手掛けている。商品にもイメージにもモダンなスタイルが貫かれている。
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「今回の来日で空港からショールームまでのわずかな移動時間に、へリューを履いている人を3人見かけました!」
嬉しそうにそう話す彼らは東京の服装について、
「マッチ・モア・ファッショナブル。どんな格好をしていても変に見えないのがいいですね」と言う。
それではスペインの人々はどうなのだろうか。
「僕らの暮らす地域では、山に登る服をそのまま着て歩いてます(笑)。競技用のトラックスーツで生活してたり、東京とはだいぶ違いますよ」
その日本でも、いま履きたい革靴ブランドの数は限られるだろう。へリューはミニマルでストイックで、とても軽やか。スニーカーに飽き気味の人の選択肢として、待望の存在なのは間違いない。
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革靴の品格そのもののスニーカー、ジェイエムウエストン
佇まいは革靴そのもので、よく見るとソールはスニーカータイプ。この手のハイブリッド仕様のシューズのなかでも、革靴の品格を最大限に引き出した完成度で群を抜く1足だ。2024年秋モデルのオールブラック新色である。同モデルは以前にもあったが、ソールがホワイトでカジュアルな印象が強かった。今回のブラックは、クラシックスーツに合わせても違和感ない精悍な顔つき。表革とスエード革とのコンビは色気さえ漂わせ、新しいドレスシューズを感じさせる仕上がりだ。
ジェイエムウエストンを象徴するUチップアッパーの「ハントダービー」をアレンジしてスニーカー化。ハントダービーは登山靴の縫製であるノルウィージャンウェルト製法によるワーク系の仕様である。厳密にはフォーマル用でないからこそ、表情がスニーカーと馴染むのかもしれない。
美しく高級な革靴と、歩きやすいスニーカーとで足元選びに迷っていた人の救世主になるハイブリッドな傑作である。
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ゴアテックス+ビブラムソール、機能するリーガル シュー&カンパニー
日本の国民的シューズブランド、リーガル。日本人の足型や歩きグセを知り尽くす彼らが手掛ける、次世代を狙った挑戦的なブランドがリーガル シュー&カンパニー(REGAL Shoe & Co.)である。実店舗は東京・渋谷に一軒だけの、コアな靴好き向けブランドだ。同ブランドから6月に発売されたばかりの新作が面白い。スニーカー市場で人気の機能を取り入れた、雨濡れに強く歩きやすい靴。革靴を気兼ねなく履きたい人も、スニーカーから履き替えたい人にもぴったりだろう。
アッパーの革は姫路の山陽レザーが鞣したもの。ゴアテックスを仕込み、雨の日に履きにくい革靴の欠点を克服。ソールはアウトドアシューズで実績のあるヴィブラム社のものだ。
製法はリーガル伝統のグッドイヤーウェルト式だが、通常は内部にコルクを詰めるところをスニーカーインソールに使われる「オーソライト」に変更。クッション性が高く軽量にもなり、見た目からは想像もつかないほど現代的な靴に仕上がっている。
さらに見逃せないのが、木型のベースがリーガルの歴史的なアイコンであるサドルシューズなこと。アイビーブーム時代のサドルシューズを知る人の精神ともリンクする、まさしく温故知新の1足だ。
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今回紹介した革靴はどれも、合わせる服装を限定しないシンプルなものばかり。カジュアルとフォーマルにまたがる中間的なこれらの靴で、快適な気分のままラフな服装を格上げしてはいかがだろうか。
ファッションレポーター/フォトグラファー
明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。
明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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