離婚や炎上の痛みを経た、自己肯定感に満ちた爽快さ【Penが選んだ、今月の音楽】 アリアナ・グランデ『エターナル・サンシャイン』

  • 文:山澤健治(エディター)
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【Penが選んだ、今月の音楽】
『エターナル・サンシャイン』

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1993年、アメリカ・フロリダ州生まれ。15歳でブロードウェイ『13』に出演、その後TVドラマ『ビクトリアス』で人気者に。圧倒的な4オクターブの歌声を武器に、2013年『ユアーズ・トゥルーリー』でデビュー。21年時点で最もストリーミングされた女性アーティストの座に輝いたポップ・アイコン。 photo: Katia Temkin

女性優位の状態が続く欧米の音楽シーンだが、出る杭は打たれるとばかりに、SNS上で女性アーティストへのバッシングが続いている。最近ではリゾやミーガン・ザ・スタリオンが元スタッフへのハラスメント疑惑で炎上騒ぎを起こしたばかりだ。

Spotifyで10億回再生を突破した楽曲を最も多く持つ女性アーティストに認定されたアリアナ・グランデも例外ではない。昨秋、離婚を発表した彼女だが、ほぼ同時に新しい恋人の存在が浮上。その相手、映画『ウィキッド』で共演した俳優イーサン・スレーターが幼い子どものいる妻帯者であったことからSNS上で略奪愛だと叩かれたのだ。離婚を経験し、心に傷を負った状態での今回の不倫疑惑。大目に見てやりたいところだが、世間は厳しい目を彼女に向け続けた。

そんな状況下で発表されたのが、新作からの先行シングル「yes,and?」だった。マドンナの「ヴォーグ」を彷彿させるハウスビートにのせて「私らしい生き方を変えないの」「炎上する道を歩いていこう」と歌い、「そうだけど、何か?」と挑発する彼女の歌いっぷりに胸のすく思いを抱いたのは筆者だけではないはず。童顔で華奢なルックスとは裏腹に、強くしたたかな女性へ成長した彼女は実に輝いていた。

実際、3年半ぶりの7作目『エターナル・サンシャイン』は「別れ」をテーマとしたコンセプト・アルバムなのだが、アリアナ自身が手掛けた歌詞は自らの離婚や恋愛を率直に綴り、その多くは痛みを含むものばかり。それでも聴き心地が爽快なのは、敏腕マックス・マーティンをメイン・プロデューサーに迎え、Y2KテイストのR&Bに北欧ポップ色を加えた華のあるサウンドあればこそだろう。離婚や炎上の痛みを経由した、爽やかな自己肯定感。このギャップに萌える、現行ポップスの金字塔だ。

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アリアナ・グランデ ユニバーサル ミュージック UICU-1364 ¥2,750

※この記事はPen 2024年7月号より再編集した記事です。