2025年から東京芸術祭のアーティスティックディレクターに、そして翌26年からは東京芸術劇場の芸術監督に就任することが発表された演劇作家・演出家の岡田利規。彼が率いる演劇カンパニー・チェルフィッチュと芸術家・金氏徹平による演劇作品『消しゴム山』が、6月7日~9日に東京・世田谷パブリックシアターにて上演される。
チェルフィッチュは、演劇作家であり小説家としての顔も持つ岡田利規率いる演劇カンパニー。1997年に旗揚げし、2005年に上演した『三月の5日間』で演劇界の芥川賞とも言われる岸田國士戯曲賞を受賞し注目を集めた。07年にベルギーで初の海外公演を果たして以来、フェスティバル・ドートンヌ・パリやウィーン芸術週間など世界有数のフェスティバルにも参画し、世界90都市以上で上演を行ってきた。
東日本大震災をきっかけに、チェルフィッチュの作品の方向性は大きく変化を遂げる。岡田は「現在の僕にとって、芸術が社会に必要であること、演劇が社会に必要であることは、明白な確信になった」といい、震災をテーマにした『現在地』(2012年)、『地面と床』(13年)、『部屋に流れる時間の旅』(16年)など一連の演劇作品を発表してきた。
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2019年に京都で初演された『消しゴム山』も震災が大きな影響を及ぼしている。創作のきっかけになったのは、岡田が岩手県陸前高田市で目にした、津波被害を防ぐための高台の造成工事だ。もとの地面から10メートル以上の嵩上げを行うため、原型をとどめないほどに切り崩された周囲の山々。驚異的な速度で人工的な風景に作り替えられていくさまを目の当たりにし、人とモノとの関係性や「人間的尺度」を疑う作品の構想へと繋がった。
「人とモノと空間と時間の新しい関係性」を舞台上で表現するために迎えられたのが、2011年の作品『家電のように解り合えない』などで岡田との制作を重ねてきた、芸術家の金氏徹平だ。身近な日用品や雑貨をモチーフに、立体作品やインスタレーションなどを制作する金氏によって生み出された舞台芸術に囲まれ、俳優はモノとの関係を結び直していく。
同作品はコロナ禍によるさまざまな困難を乗り越え、20年にニューヨーク、21年には東京、ウィーン、パリで上演を行ってきた。それだけでなく20年に金沢21世紀美術館で行われた『消しゴム森』、オンラインで配信された『消しゴム畑』など異なる領域でシリーズ化が試みられている。
実に3年ぶりとなる上演は、世田谷パブリックシアターにて幕が開く。今回は初めてクラウドファンディングを実施。支援金は鑑賞サポートやスペシャルイベントにも充てられる。チェルフィッチュはこれまでにもワークショップや映像配信を通じてさまざまな人へ広く作品を届けてきたが、今回は視覚障碍者やこどもたちに向け、耳元で舞台を解説しながら観劇できる「ウィスパリング」歓迎の上演回を企画。その公演時には駅からの送迎や、視覚障碍者に向けて、開演前に舞台美術を体感できる「タッチツアー」が催される予定だ。
世界的なパンデミック、自然災害、戦争…初演時から我々を取り巻く環境が急速に変化する2024年の東京に、『消しゴム山』は何を問いかけるのか。バリアフリーにも注力し、より多くの観客に向けて表現を続けるチェルフィッチュの作品を、ぜひ体感してほしい。
『消しゴム山』
公演日:6月7日~ 9日
会場:世田谷パブリックシアター
TEL:03-6825-1223
www.keshigomu.online