3億7000万円のハイパーGT、ピニンファリーナ・バッティスタ降臨

  • 文:小川フミオ
  • 写真:Automobili Pininfarina
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アウトモビリ・ピニンファリーナが、バッテリー駆動のハイパーGT「バッティスタ」を、2024年5月に東京のイタリア大使館で公開。そのあと、限られたジャーナリストを招待して、静止から時速100kmまで1.86秒で加速するこのクルマの試乗会を開催した。 

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電動モーター4 基を搭載し、1400kWの最高出力と2340Nmの最大トルクを発生。(写真:筆者)

ピニンファリーナといえば、クルマ好きの読者のかたは先刻ご存知のとおり、カロッツェリアと呼ばれる車体製作会社。馬車の時代から続く職業だが、カロッツェリア・ピニンファリーナは自動車を対象に1930年に創業。50年代から80年代にかけて、フェラーリやランチアをはじめ世界中の自動車メーカーのために美しい車体をデザインしてきた。

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ピニンファリーナがフェラーリのためにデザインしたディーノ206(1967年)。(写真:Autopress)

北イタリアのトリノを本拠地とするピニンファリーナが評価されてきたのは、大胆ともいえるあたらしいデザイン提案や、それを可能にする技術をともに導入してきたから。スタイリングでなくデザイン(設計)まで踏み込むことで、自動車メーカーにとって重要なパートナーであり続けてきた。

ピニンファリーナは2018年に「アウトモビリ・ピニンファリーナ」を創業して、自動車メーカーの道をあらたに歩みはじめた。私は2019年のジュネーブ自動車ショーでバッティスタのプロトタイプを見て、かなり驚いたものだ。なんと、ピニンファリーナがクルマを手がけた!

「BEV(バッテリー駆動の電気自動車)の技術が進んだのが、私たちにとって福音でした。私たちが持ち続けているデザイン開発能力を活かして、あたらな業態へと乗りだすべきだと、当時グループの会長だったパオロ・ピニンファリーナ(2024年4月に逝去)と、(インドのコングロマリットである)マヒンドラとのあいだで話がまとまったのです」

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エンジニアとしてフェラーリやマセラティで経験を積んできたパオロ・デラッチャCEO。

アウトモービリ・ピニンファリーナのパオロ・デラッチャCEOは、在日イタリア大使館での発表会において、上記のように背景を語った。

ピニンファリーナSpAは従来どおりB2Bのビジネスを続け、アウトモービリ・ピニンファリーナは別会社としてB2Cの自動車メーカーとなる。かつてトリノのカロッツェリアはしのぎを削っていたけれど、自動車メーカーが社内のデザイン部を使うようになった1990年代から時流が変わり、いまでは、ピニンファリーナ1社が従来どおりのビジネスを続けるのみ。

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ジャガーランドローバーや中国の高級BEVブランドNIOなどでエクステリアデザイナーとして業績を積んできたアマンテア氏。

「バッティスタでもって、マーケットにおいて私たちのブランドが他に類のないようなユニーク性と、強さを持っていることを証明したいと考えています」。デザインを担当したチーフデザインオフィサーのダビデ・ロリス・アマンテア氏は言う。

「今回、日本でお見せしたのは、バッティスタ・チンクアンタチンクエ(55)と名付けたスペシャル。サブネームの由来は、創業者のバッティスタ・ファリーナ(ニックネームはピニン)が手がけた1955年のランチア・フロリダからです。エレガントでファンタスティックなモデルを、2020年代の審美眼で作ったら、というコンセプトです」

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エアロダイナミクスを突き詰めて高性能を追求したボディは審美性も高い。

前ヒンジで上に跳ね上がるディヒドラルドアをそなえたボディは、ブルー・サボイア・グロスとビアンコ・セストリエーレ・グロスのルーフという2トーンの塗り分け。インテリアはポルトローナ・フラウ社に特注した経年変化処理がされたマホガニーレザー。こういうカラーもフロリダへのオマージュなのだそう。

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あえて経年変化のような仕上げをしたポルトロナフラウ社の特別仕立てのレザーを使う。

シャシーを手がけるのは、電気で走るハイパー(超高性能)GTを手がけるクロアチアのリマック。シャシーがトリノのカンビアーノにあるピニンファリーナの工場に運びこまれると、足まわりなど細かなチューニングと、インテリアをはじめとするボディがそこで被せられる。

バティスタは、4つの車輪に1基ずつモーターを組み込んだ全輪駆動。最高出力1400kW、最大トルク2340Nm。なにかの間違いでしょ?と言いたくなる数字だ。コンピューターがドライバーのクセを把握し、4輪の駆動力をトルクとブレーキで制御。そのひとがコントロールできる範囲で、最大限速く走れるのだと説明された。

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クライアントはピニンファリーナのデザイナーと自分好みの仕様に仕立てられるので世界に1台と同じクルマはないとか。

じっさいに、箱根のワインディングロード(なんとこのとき貸し切り)を走ったとき、自分でめまいがするほどの加速力だった。同時に、よく曲がり、強力な制動力を発揮するので、すこし慣れると、自分の身体の延長のようになじんでくる。F1ドライバーが開発に携わっているというだけあって、速く、かつナチュラル。BEVの可能性をうんと押し拡げた感覚はすばらしい。

サーキットを試乗会の会場に選ぶべきだったのでは?と私が尋ねると、イタリアからやってきたピニンファリーナの広報担当者は「一般道での乗り心地のよさも体験してもらいたかったんで」と公道を選んだ理由を説明したのだった。

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在日イタリア大使館でのお披露目でB95のとなりにピニンファリーナの幹部が勢揃い。

バッティスタは限定150台のみ生産され、同時に東京にもちこまれたバルケッタ(オープン)ボディのB95は10台。さらに、24年8月に米西海岸ペブルビーチで開催されるコンコースデレガンスでは「(世界で1台のみの)ワンオフを公開します」とアマンテア氏。

「パワートレインはバッテリー駆動のモーターに限っていないし、価格帯もこれからもうすこし手の届きやすいモデルを開発することも考えています。fのロゴマークをフロントに掲げた私たちのプロダクトの今後に、おおいに期待していてください」デラッチャCEOは、抱負を語った。

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一般道での乗り心地のよさもバッティスタの特徴のひとつと公道での試乗会だった。

ちなみにバッティスタの価格は、220万ユーロ(1ユーロ=約170円として3億7200万円)からとなる。ほぼ完全に、1台ずつフルオーダーで仕上げるので、上記の価格は目安にすぎないそうだ。日本では、SKY GROUPが正規代理店を務める。