ボブ・マーリーが愛用したジーンズは、70年代に世界中を席巻したベルボトムタイプ

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
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ラングラーを代表する素材である「ブロークンデニム」を使ったベルボトムジーンズ。綾目を一定間隔で反対方向に織り変えているので、デニム特有のねじれがない。素材も柔らかく、馴染みやすい着心地に仕上げている。シルエットは70〜80年代を思わせる裾広がりの「ベルボトム」。¥16,940/ラングラー

「大人の名品図鑑」ボブ・マーリー編 #4

伝説のレゲエミュージシャン、ボブ・マーリーの生涯を映画化した映画が公開される。『ボブ・マーリー:ONE LOVE』だ。すでに公開された全米などでの興行収入は初登場No.1を記録、日本でも話題になることは必至。今回はこの映画にも登場する、ボブ・マーリーが愛用した名品について解説する。

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ボブ・マーリーの生誕70周年を記念して、2015年に出版された『ボブ・マーリー よみがえるレゲエ・レジェンド』(菅原光博、藤田正著 Pヴァイン)という本がある。未発表作品を含むボブ・マーリーを撮った写真と彼の評伝がカップリングされたファン垂涎の一冊だ。その本のなかで評伝の著者、藤田正はボブのスタイルについて「彼が国際的なスターとなったあとも豪奢に着飾ることなく、高価とも見えないジーンズを履き、自宅の庭先で仲間や近くの子どもたちに囲まれてギターを弾いている」と書いている。ボブが履いたジーンズが高価であったか否かはわかってはいないが、ボブは自分の分身のようにいつもジーンズを履いたたのだろう。

実はボブが愛用していたジーンズには特徴がある。いつも裾が広がったフレアタイプのジーンズを履いているのだ。映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』でボブを演じたキングズリー・ベン=アディルが履いていたジーンズもすべてフレアタイプ。作品の舞台が70年代後半ということから考えると、これはフレアのジーンズの一種で、当時は「ベルボトム」と呼ばれていたジーンズではないだろうか。

「ベルボトム」とはその言葉通り、釣鐘のようなシルエットを特徴とするジーンズだ。膝まではストレートタイプと同じ仕様でつくられているが、膝から裾にかけてなだらかに広がっていくデザインが特徴だ。このシルエットのパンツはアメリカ海軍の制服が発祥で、これがジーンズのデザインに採用されるようになり、1960年代以降ヒッピー文化を象徴するアイテムとして人気を博したモデルだ。その流行はモードの都、パリまで飛び火し、60年代末期にはイヴ・サンローランがパリコレクションで同様のシルエットのパンツを使ったスタイルを「パンタロンスーツ」として発表し、大きな話題となった。

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当時革新的だった、ラングラーの「ブロークンデニム」

『日本現代服飾文化史』(公益財団法人日本服飾文化振興財団 講談社エディトリアル)で、イラストレーターの小林泰彦はベルボトムのジーンズが時代の顔だったと以下のように書いている。

「パンツの裾が何時から広がったのかは、知らない。憶測としては、1966年ごろではないかと思う。(中略)1968年のロンドンでは圧倒的多数派であり、これは実際に現地で見た。それを受けて1969年には北米でベルボトム化が進み、1970年には世界中に及んだ。ロンドンで起こったものが米国で爆発したあと世界に拡散するという流行パターンだ」

ボブがアーティストとして世界的に活躍するのはまさにこの時代だ。しかも彼は当時ジャマイカからロンドンに渡っている。ボブが普段でもステージでもベルボトムジーンズを選んだことは当然の成り行きだったのではないだろうか。

今回紹介するのは、アメリカ3大ジーンズブランドのひとつ、ラングラーのベルボトムだ。素材に採用されているのが、ラングラーを代表する「ブロークンデニム」。デニムは綾織の素材で、右綾と左綾の2種類があるが、いずれも生地がねじれてしまうというのが欠点だった。「ブロークンデニム」は綾目を一定の間隔で反対方向に織り変えることで生地のねじれを解消した革新的な素材で、ラングラーが70年代に開発したものと言われている。

「WM1865」は、ベルボトムが流行した70〜80年代をイメージしたシルエットで仕立てられている。素材からシルエットまで、ボブが活躍した時代が満喫できるジーンズではないか。しかもこのモデルは、ブーツを合わせたときのたるみが出るように裾の開き具合が考えられている。そういえば、ボブもステージなどではこのジーンズに少しヒールが高くなった革のブーツをよく履いていた。ボブを気取るならば、絶対にジーンズはベルボトムを選ぶべきだ。

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ラングラーのジーンズらしいポケットの意匠。ヒップポケットにはラングラーの象徴である「サイレントW」と呼ばれるステッチが入っている。

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ラングラーが開発したデニムのねじれが生じない「ブロークンデニム」を採用。はき込んだようなウォッシュ仕上げも美しい。

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モデル名は「ランチャーワイドパンツ」。映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』ではヨーロッパツアーでのパーティの場面でボブ以外の人が同じような素材のパンツを履いている。今回紹介するパンツはラングラーが、1960年代にカウボーイのドレスアップ用にデザインしたモデル。センタープレスが施され、裾に向かって緩やかにフレアになったシルエットが特徴。素材はポリエステル100%。各¥9,900/ラングラー

エドウイン・カスタマーサービス

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