マクラーレンが目論む、スポーツカーにおける斬新なデザイン方法とは?

  • 文:小川フミオ
  • 写真:マクラーレン・オートモーティブ
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スポーツカーのデザインが、クルマのなかでもっとも魅力的に見えるのは、スピードと官能性の追求を第一の目的としているからだろうか。英国のマクラーレンはなかでも、他とは一線を画すデザインで強い存在感を誇ってきた。

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23年9月からマクラーレンのデザインを統括しているトビアス・シュールマン氏。

2024年5月に、マクラーレン・オートモーティブの新しい最高デザイン責任者、トビアス・シュールマン氏が東京にやってきた。ドイツ出身のシュールマン氏は、これまで、ブガッティのエクステリアデザイン責任者、アストンマーティンのエクステリアデザイン責任者、ベントレーのデザインディレクターを務めてきた。

「マクラーレンのスポーツカーにとって重要なことは、歴史の検証にあります。ルーツはレースと高性能にあるので、それをブランドのDNAととらえ、そこに製品のDNAとデザインのDNAを合わせていこうと考えています」

インタビュー会場となった東京アメリカンクラブの一室で、シュールマン氏は、マクラーレン車に憧れた自分の少年時代の思いについても語る。

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ミドシップの3座スポーツカー、F1をベースにルマン24時間レースのために開発されたF1 LM

「私が10代のとき(F1マシンの設計者だったゴードン・マレイが1992年に手がけた)マクラーレンF1を見て、並外れていて、ものすごく新しくて、なににも似ていないデザインに興奮しました。そのあと、95年のF1 LMもすばらしかったです」

マクラーレンといえば、1966年から参戦したF1グランプリでの好成績ぶりが知られている。日本では、90年代前半のホンダエンジンを得て、アイルトン・セナのドライブによる破竹の進撃でいちやく名を知られたのだった。直近では、2024年のモナコGPで1位を獲得したのが記憶に新しい。

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CAN-AMシリーズを走ったM8A(1968年)はボディ全体がダウンフォースを生み出すデザイン。

66年にはF1と同時に、この年から立ち上がったカンナム(Can-AM=カナディアン-アメリカン・チャレンジカップ)シリーズにも参戦。そこでも創業者のニュージーランド人ブルース・マクラーレンみずから操縦するなどして優秀な成績をおさめた。カンナムのM1AからM8Dにいたるレーサーもまた、シュールマン氏にとってのインスピレーションの源泉になっているのだそう。

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最新の750Sもパフォーマンスラインが意識されている。

「パフォーマンスを追求した設計と究極のドライビングポジション、優れた視認性といったマクラーレンのレーサーの要素はいまも重要です。テクニカルな要素を前面に押し出し、デザインとエンジニアリングの融合を実現してきたのがマクラーレンです。(カンナム・レーサーのように)必要な要素のみでデザインした真空成型のボディには、究極のパフォーマンスの追求とともに審美性を感じます」

シュールマン氏はそこで5つのデザイン理念を発表。

並外れたを意味する「エピック」、さきの真空成型のレースカーボディに見られるような「アスレチック」、デザインとエンジニアリングを融合させた「ファンクショナル」、レースカーのようにパフォーマンスを追求する「フォーカスド」、それに新素材の追求などによる「インテリジェント」だ。

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マクラーレンのデザインヘリテージはパフォーマンスにあると、F!ととに写るシュールマン氏。

「私たちのデザインDNAは、マクラーレンの60年にわたるモータースポーツのヘリテージをベースに、革新的かつ超軽量スーパーカーへと昇華させ」るもの、とシュールマン氏。

「私が23年9月に就任したとき、マクラーレンのデザインDNAを検証。すばらしい要素がフロント、側面、リアに見つかって、この3つを将来へと発展させていこうと考えています」

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パフォーマンスライン(中央)をはじめ、エアインレットの大きさなど、モデルの目的に合わせて調節していく。

具体的には、フロントの2つのエアインレット、フロントフェンダーを強調しコクピットの背後で跳ね上がっていくパフォーマンスライン、大きな開口部から空気を吸い出すオープンリアエンドが、カンナム・レーサーの時代から最新の750Sにいたるまで、マクラーレン車を特徴づけてきたという。それをこれからも意識するという。

インテリアについても同様。コクピット感を意識させ、スペースは確保し、乗員を取り囲むようなラップアラウンドデザインを継承するんだそう。「究極のドライビングポジション、優れた視認性。アナログとデジタルが完璧に融合したインフォテインメントシステム。触れるもの、見るもの、感じるもののすべてがドライビング・エクスペリエンスに直結」することをめざすそう。

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インテリアは役割を明確にし、階層が深いようなタッチスクリーン操作は排除する意向。

さらに、ユニークな試みを実行します、とシュールマン氏。「新車の開発において最初のスケッチの段階から、エンジニアリングとエアロダイナミクス、各部署が参加するのです」という。

「形態は機能に従う、などと言われますが、それを信じていません。マクラーレンでは、エンジニアリングが優先で、あとでデザイナーが外皮をかぶせるとか、あるいはデザインが優先とか、そういうやりかたは排除して、ひとつのチームとして開発に当たります。週ペースでミーティングを開き、課題の解決に当たるし、ときとしては、F1のエンジニアから薄いカーボンファイバーなど、新しい技術の提案を受けることもあります」

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マクラーレン・スピードテイルに見られるボディの一部がめくれてスポイラーの役目を果たす機能と美の融合は大事だという。

スポーツカーとは往々にしてエモーションがもっとも重要と言われるけれど、マクラーレンにおいては、また別の次元のデザインが目指されているようだ。シュールマン氏による新しいマクラーレンがどうなるか。「アウトプットはまだです」とのことだけれど、それを楽しみにしよう。