列車で暮らすこと1年半…ドイツの17歳がいまも続ける、地球12周分の旅物語

  • 文:青葉やまと
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ドイツの17歳青年が、列車を“家”として生活している。毎日列車から列車へと乗り継ぐこと1年半、旅した距離は地球10周分以上にもなった。

めずらしいライフスタイルを続けているのは、デジタル・ノマドとして働くラッセ・ストーリーさんだ。デジタル・ノマドは、各地を旅しながらネットやPC関連の仕事をこなす人々を指す。

ストーリーさんは2022年、リュックサック1つとノートパソコンを相棒に列車に飛び乗った。以来、日中は車内の座席やテーブル席でパソコンを広げ、ときおり車窓を楽しみながらプログラマーとしての仕事に没頭している。

これまでに旅した距離はおよそ30万マイル(約48万km)で、地球12周分に相当する。ベルリンやフランクフルト、ハンブルグにミュンヘンなど、ドイツ国内の都市は数え切れないほど訪問。網の目のように張り巡らされた鉄道網に、これでもかというほど何度も乗った。

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「驚くほど快適」シャワーも眠りも問題なし

仕事を終えると、列車が止まった街でシャワータイムだ。1日を過ごした座席を離れ、その街にあるスイミングプールへと向かう。シャワールームでリフレッシュすると駅へと戻り、再び別の長距離列車を探して乗車。列車の揺れに誘われるまま眠りに落ち、夢の中で一日の疲れを癒やす。

英メトロ紙は、少なくともイギリスでは電車が定刻に来ないため、列車旅が好きな人は少数派だと言及。そのうえでストーリーさんの変わった生活を取り上げ、「しかも驚くほど快適だ」と紹介している。

朝日が車内を照らすころには、ストーリーさんを乗せた列車は都市部の大型ターミナルに到着。主要駅に設けられた清潔な休憩コーナー「DBラウンジ」で無料ドリンクを流し込むと、朝食をほおばって今日1日に備える。こうして毎日の旅が続く。

国際列車に飛び乗り、国外にもしばしば足を延ばす。南はイタリア方面や、東ではオーストリアの首都ウィーン、西はベルギーの首都ブリュッセルなど、近隣の国々を制覇した。北はバルト海を越え、デンマークのコペンハーゲンを抜けてストックホルムへ。さらに北方も探訪している。

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旅の初期は失敗続き

とはいえ、初期は困難の連続だった。夜はほとんど眠れず、日中は睡魔に襲われる日々が続いたと。「想像とは何もかも違いました」とストーリーさんは語る。外国の駅で列車に乗り遅れ、暗闇の中で行き場を失ったこともあった。

だが、長い旅路に鍛えられた。今では綿密にスケジュールを組みつつ、刻々と変化する列車の運行状況に合わせ、即座にプランを組み替える能力が身についたという。

ストーリーさんにとって、列車での生活は夢そのものだ。ビジネス・インサイダー(ドイツ版)の取材に対し、「アルプスに向かおうか、それとも大都市や海に行くのか。毎日決めることができますし、とてもフレキシブルなんです」と目を輝かせる。

2022年の夏、予定していたプログラミング技術の習得コースがキャンセルされたのを契機に、自分らしい生き方ができないかと思案。列車好き・旅好きが高じ、変わったライフスタイルに行きついた。はじめは心配していた両親も、今では出会いと冒険に満ちた毎日をすっかり応援しているという。

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乗り放題パスが旅の味方に

特別なライフスタイルを支えているのが、ドイツ最大の鉄道会社である国営・ドイツ鉄道が発行する列車乗り放題の割引パス「バーン・カード」だ。

ストーリーさんは最上位の「バーン・カード 100 ファーストクラス」を、若者割引価格の5888ユーロ(約96万5000円)で購入した。カードは1年間有効だが、すでに1枚目をフルに活用し終え、現在は追加購入した2枚目を使用している。

カードは月額換算で約8万円だ。列車で暮らすストーリーさんの場合、バーン・カードに価格にすべての交通費が含まれるだけでなく、さらに家賃が不要という計算になる。比較として、ドイツの物件検索サイトWohnungsboerseによると、ミュンヘンでは一人暮らし用の30㎡のマンションの平均家賃が13万6000円ほどとなっている。

ストーリーさんは自宅の快適さをあきらめる代わりに、ミュンヘンの人が支払っている家賃の6割ほどの値段で、寝場所とドイツじゅうの旅を手に入れたことになる。プライバシーではきちんとした家に劣るが、1等車両に乗ることができるため座り心地は悪くないという。

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シンプルでミニマムな暮らし方

1年半以上も列車での生活を続けたストーリーさんは、すっかり旅慣れたものだ。速乾性のタオルや水分補給のためのウォーターボトルなど、限られたアイテムしか持たない。

衣類もミニマリストのスタイルを貫いており、Tシャツは4枚、ズボンは2枚にまでそぎ落とした。すべてまとめても、リュックサック1つに収まるほどシンプルだ。唯一の貴重品は、仕事に欠かせないノートパソコンくらいのものだ。

長く旅した経験を生かし、将来的には列車関連の仕事に就きたいと話すストーリーさん。乗り放題パスは、まだ4カ月分ほど残っている。今夏ついに列車生活を終え、地上での新生活となるだろうか。

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【動画】ストーリーさんの日常やコンパクトな荷物を垣間見る。