手塚治虫の漫画『ミッドナイト』を全編iPhoneによる撮影で実写化した三池崇史監督。スマホや生成AI、最新テックを駆使したこれからの映画について話を聞いた。
Pen最新号は『いまここにある、SFが描いた未来』。SF作家たちは想像力の翼を広げ、夢のようなテクノロジーに囲まれた未来を思い描いてきた。突飛と思われたその発想も、気づけばいま次々に現実となりつつある。今特集では人類の夢を叶える最新テクノロジーにフォーカス。SFが夢見た世界が、ここにある。
『いまここにある、SFが描いた未来』
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いま最もテクノロジーに貪欲な映画監督は、三池崇史ではないだろうか。大作映画から低予算作品まで幅広い領域で活躍し、世界的な評価を獲得した巨匠の最新作は、全編をiPhone 15 Proで撮影した『ミッドナイト』だ。
三池監督は、「iPhoneで映画を撮る」という企画に対しても不安はなかったと話す。
「全然『行ける』と思いました。35mmじゃなく16mmフィルムでは映画を撮れないなんてことはないし、家電量販店で買ってきたビデオカメラで一本撮った経験もあります。そんな僕からすると、iPhoneのカメラは本当に魅力的なカメラです。我々が普段使っているカメラと似ているけど、全然違う機能をもっていて、新たな武器の選択肢が増えた印象です」
日本においては『シン・ゴジラ』や『シン・仮面ライダー』などの作品を手掛けてきた映画監督・庵野秀明が、iPhoneを撮影に多用することが知られている。三池監督も、撮影現場でiPhoneを使うのは今回が初めてではなかったという。
「僕以外はみんな韓国のスタッフという体制でドラマを撮ったんです。彼らは当たり前のようにiPhoneを使って撮影していました。僕自身も『iPhoneで撮ったほうがいいカットもあるはず』と思っていたので、それを今回思う存分やることができました」
具体的に、iPhoneを活用した撮影が適した場面とは?
「最先端のデジタル技術を搭載したiPhone 15 Proですが、いちばん大きな要素としてアナログな部分、つまりiPhoneが物理的に小さいという点です。ラージセンサーのカメラが入り込めない場所に設置して撮影できるほか、ロケ撮影でも役立ちます。今回は新宿の歌舞伎町で撮影したのですが、インバウンドの方々がiPhoneで撮影しながら観光している中、僕らも目立つことなく撮ることができた。もし大きなカメラを使っていたら、彼らのカメラが僕たちに向かってしまい、自然な雰囲気で撮影することはできなかったでしょうね」
さらに監督はiPhoneによって生まれる新しい映画に期待していると話す。
「いま若い人たちはTikTokなどで短い尺の映像における表現を高めていっている。彼らがどんどん面白いものをつくると、映画の人間たちも刺激を受ける。だからこの状況を楽しんでいます」
誰もが映像作品を撮影できる時代。映画監督として「映画という概念が壊れていく」といった不安はないのだろうか?
「もう『映画とは何か』みたいなことは、批評家や映画祭に任せておけばいいんじゃないでしょうか(笑)。カンヌだって昔は『ネトフリ作品は映画ではない』という態度でしたが、いつの間にか『映画』扱いになっています。観る側も『こっちのほうが面白い』って選んでいくだけですから」
テクノロジーとともに変化する「映画」像への対応。そんな三池監督の現在を象徴するもうひとつの動きが、生成AIを活用した映画制作プロジェクト「AIと共に最高の映画を創る会」だ。
「誰でも好きなものをつくれるようにしたいんです。いずれ誰もがAIとともに『自分にとって最高の映画』をつくれる時代が来るでしょう。生成AIは『使うべき/使わざるべき』と考えるものではなく『使うしかない』一択です」
だが、その一方で映画制作現場にあるAIへの忌避感は別物として扱わなければならないという。
「AIが浸透してくのはすごく楽しみですが、それとプロの人たちが仕事を失うかどうかという問題は別のことです。ハリウッドのストライキは非常によく理解できるものでした。いまを生きる業界の人間にとっては死活的な権利問題です。でも、これから業界に入ってくる人たちにはそのロジックは通用しない。難しいところです」
権利や心情など、生成AIと創作に関する問題は山積みだ。しかし、それでも三池監督はこの状況を楽しむしかないという姿勢だ。
「僕はSF映画『ブレードランナー』に強烈な刷り込みを受けているのですが、あの作品が描いたレプリカント(人造人間)たちの人間に対する反抗はもはや現実に近いところにあると思います。もう『どうする?』という戸惑いもありますが、もはや楽しまないと、乗り切れないですよ」
現代の混沌と格闘しながら楽しもうと活動を続ける三池監督。その姿勢の根底にあるものは?
「僕が映画を強く意識した作品は、中1で観た『燃えよドラゴン』。でも、その1年前に実はブルース・リーは亡くなっていたんですよ。『僕は、いまはもういない人に憧れているんだ』と思い、同時に『映画っていいな』と感動しました。僕にとっては映画、それ自体がSFなんです」
日本映画界の巨匠は、テクノロジーとともにいまも進化し続ける。
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