生きた何百万匹ものダニを使ってつくる、ドイツ伝統のチーズが復活

  • 文:山川真智子

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Sebastian Kaulitzki-Shutterstock ※画像はイメージです

ドイツのある地方には、少なくとも500年以上前から、生きたダニを使ってチーズを作る伝統がある。旧東ドイツで嫌悪されほとんど姿を消していたが、元生物の教師と神学者が協力し、幻のレシピを再現。製造所を構え、伝統の特産品を再び普及させることに取り組んでいる。

ダニの酵素で熟成 食べる時はダニごと

世界の不思議なニュースを紹介するサイト、オディティ・セントラルによれば、このチーズは『ミルベンケーゼ』と呼ばれるヤギのチーズだ。ドイツのザクセン=アンハルト州とチューリンゲン州を起源に、中世から生産されてきた。

ミルベンケーゼには特別な作り方がある。まず、クワルクというフレッシュチーズに塩やスパイスで味付けする。その後大きな木箱にチーズを入れ、生きた何百万匹ものダニを厚い層にしたもので覆い、3か月から1年間熟成させる。ダニが出す消化液に含まれる酵素でチーズが熟成し、強烈で不快なアンモニア臭を放つが、同時にナッツのような風味とピリッとした後味が加わるという。ダニがついているチーズの表皮も一緒に食すということだ。

オンラインマガジン、アトラス・オブスキュラによれば、愛好家の間では、通常は薄く輪切りしてバターを塗ったライ麦パンに載せて食べられるという。ワイン、ビール、またはココアなどと相性がいいそうだ。

旧東独で禁止…あわや幻のチーズに

アトラス・オブスキュラによれば、ミルベンケーゼは第二次世界大戦を生き延びたが、生きたダニを含む食品の生産と流通を禁止した旧東ドイツのもとで、ほとんど姿を消してしまったという。

オディティ・セントラルによれば、1970年には、ミルベンケーゼのレシピは永遠に失われそうになっており、ある村の老女が、作り方を知る唯一の人物だった。その知識を受け継いだのが、元生物の教師だったヘルムート・ペッシェルさんだ。ペッシェルさんは、祖先から受け継いだ伝統的なチーズをもっと普及させようと、神学者のクリスチャン・シュメルツァーさんと会社を設立。ミルベンケーゼの製造を復活させ、現在では世界で唯一の製造所となっている。

伝統復活! ただし普及に法律の壁 

シュメルツァーさんは、ダニのチーズ作りは趣味と称している。しかし、唯一の生産者として年間1000件ほどにもなる注文をさばくため、家族に手伝いを頼むこともあるとアトラス・オブスキュラに話している。商売はもっと繁盛しそうだが、EU、イギリス、スイス以外への出荷は許可されていない。

オディティ・セントラルによれば、EU法では、生きている動物を含む食品の販売は、「人間の消費用に市場に出すために準備されたもの」であれば、許可されているという。しかしチーズ・ダニやその消化液は原材料として明確に許可されていないため、ミルベンケーゼはドイツ国内でもある種のグレーゾーンに置かれているそうだ。いまのところ、地元の食品安全局の許可のもとでしか製造はできない。

ペッシェルさんは、地元の村の緑地にミルベンケーゼの記念碑を建てた。今では毎年6月にダニ・チーズ・フェスティバルが開催され、1000人ほどの観光客でにぎわうという。古い伝統を守る役割を果たしたペッシェルさんは、「伝統は私たちよりも長生きすると思うと、誇らしい気持ちだ」と、アトラス・オブスキュラに語っている。

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無数のダニが周りを覆ったチーズ。

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ダニを使ってチーズをつくる様子。

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ダニのチーズの記念碑。上に載っているのがダニらしい。