「骨のきしむ音が聞こえた」ピューマに襲われたサイクリング中の女性、見捨てない仲間が演じた45分間の死闘

  • 文:青葉やまと
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Evgeniyqw-Shuttertock ※画像はイメージです

仲の良い友人たちと出かけたサイクリングが、突如乱入したピューマのせいで血みどろの惨劇に。しかし、同行した仲間たちは決して彼女を見捨てなかった。奮闘の甲斐あって、襲われた女性は一命を取り留めている。

米西岸・ワシントン州出身で競技サイクリストのケリー・ベルジェールさんは、女性仲間5人でサイクリングに出発。同州の人口2000人ほどの小さな村落、フォールシティの近郊でマウンテンバイクを楽しんでいた。森林を抜ける砂利道が整備され、適度な起伏がサイクリストたちにも人気のコースになっている。

2頭のピューマが姿を現したのはそのときだ。1頭は森の木陰へと姿を消したが、1頭がベルジェールさんに飛びかかった。

気づけば道の反対側に飛ばされていた

居合わせた友人の1人は、米NBCニュースの取材に、「とにかく一瞬で攻撃が始まりました」と恐怖を語る。「私たちがピューマを目撃した瞬間から、奴がベルジェールを引き倒すまで、3秒といったところでしょうか。立ち向かって威嚇する余裕など、まるでありませんでした」

ベルジェールさん本人は、米公共ラジオ放送のNPRに、「自転車にタックルを受けました。気づくと、道路の反対側にあった側溝に倒れていたんです」と語る。

ピューマはベルジェールさんを組み敷き、想像を絶する強さで顔を押さえつけた。「地面に押さえつけられ、顔を押しつぶされました。歯が次第に抜けてくる感覚があり、歯を飲み込むかとも思いました。あちこちの骨がきしむのを感じました」

仲間は恐怖に足がすくんだことだろう。だが、ベルジェールさんの異変に気づいた友人4人全員が、今まさにピューマに襲われている彼女のもとへと戻ってきた。5年来の付き合いになる彼女を、決して見放しはしないとばかりに。

とはいえ相手は野生の猛獣だ。必死の反撃も分厚い筋肉に阻まれた、と仲間の1人が振り返る。「すぐにピューマの首を絞めようとしたんです。ですが、岩を握っているようなものでした」

ピューマの口に直に手を突っ込む

辺りの木の枝や岩を投げつけて撃退しようと試みるあいだに、ピューマの一撃がベルジェールさんを襲った。鋭い爪を見舞われ、ベルジェールさんの口から頬にかけてが大きく切り裂かれる。

見かねた仲間が自らの手をピューマの口に差し入れ、噛みつかれたケリーさんを解放しようとする。危険な賭けだったが、どちらかが生き延びればそれでいいとも思った。「次第に歯が動き、私の方を噛もうとしているような状況になりました。だからこう言ってやったんです。私たち両方を仕留めることなど、お前にはできないんだよ、って」

相手は予想以上に手強かった。10キロ以上もある岩でピューマを繰り返し殴るが、それでもベルジェールさんは解放されない。

15分ほど死闘を演じたころ訪れたかすかな勝機を、ベルジェールさんと仲間たちは見逃さなかった。ピューマの気が緩んだ一瞬を狙い、ベルジェールさんは這うようにして脱出。仲間たちは乗っていた自転車を盾のようにしてピューマに飛びかかると、2台の自転車で挟み込んだ。ピューマが側溝に倒れると、自転車を横にして上から押さえつけ、蓋のようにしてピューマを組み敷いた。

NBCが公開した動画には、信じられない写真が掲載されている。生きた野生のピューマが自転車の下に組み伏され、上にベルジェールさんと仲間たち5人が乗り、全体重で押さえ込む光景だ。ピューマの抵抗が弱まると3人ほどで押さえつけることができたようだが、用心深いベルジェールさんは手近にあった岩も乗せ、重石の足しにしている。

気丈なベルジェールさん「またいつか仲間とサイクリングへ」

別の仲間は後日になって、ベルジェールさんは顔に大けがを負いながらも、冷静さを欠かなかったと振り返っている。「私たちは『大丈夫?』と声をかけ続けました。彼女(ベルジェールさん)は大丈夫だよ、と親指を立てました」

「その指も血みどろでしたけれど」と加える仲間に、取材を受けているベルジェールさんから笑みが漏れる。

NPRによると、通報を受けた魚類野生生物局の職員が駆けつけるころには、襲撃から45分間ほどが経っていたという。ピューマは殺処分された。仲間は「心が張り裂けるようだった」としながらも、ベルジェールさんかピューマの命、どちらかを選ぶ必要があったと語る。

顔に大きな傷が残り、神経の一部にも回復不可能なダメージを受けたベルジェールさんだが、命だけは助かった。仲間への感謝は尽きない。「彼女たちが戻ってきてくれなければ、間違いなく私は死んでいたのですから」

命懸けでピューマに立ち向かった仲間の1人は、こう語る。「友情と愛情の本質は、行動することにあると思うのです」「やるべきことをしたまでです。本能の赴くままに。命を守るために」

5日間入院したベルジェールさんだが、情熱は衰えない。共にピューマと闘ってくれた4人の友人たちと、またサイクリングに出かけたいと話しているという。

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【動画】ベルジェールさんら3人が、ピューマに襲われた瞬間を振り返る。