メンズブランドM A S U、東京都の支援でパリコレデビューした実力派を知っているか?【着る/知る Vol.174】

  • 写真・文:一史

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メンズブランドM A S U(エムエーエスユー)の後藤愼平(ごとう・しんぺい)デザイナーが、2023年に東京都主催の年間ファッション賞「FASHION PRIZE OF TOKYO 2024」を獲得した。世界を目指す日本の若手がいまもっとも狙っている賞である。都がパリファッションウィークでのランウェイショー(通称パリコレ)参加をサポートする、“クールジャパン”ならぬ“クールトウキョウ”。第1回目の17年の受賞者はマメ クロゴウチの黒河内真衣子(くろごうち・まいこ)、第2回目の18年はオーラリーの岩井良太(いわい・りょうた)だった。ともに賞の特典を活用して世界に進出している。

ここではM A S Uの今季24年春夏アイテムと、パリと東京で発表された次回の24-25年秋冬コレクションを掲載。後藤デザイナーへの単独インタビューも交え、“若い”だけじゃないM A S Uの素晴らしきクリエーションの世界へご案内しよう。

第1章 2024年春夏アイテム

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ファンシーツイードを使ったウエストバランスの短丈ブルゾンと、M A S Uが毎シーズン作るデニムの今季バージョン。シルエットも生地感にもウィメンズウェアの発想が息づく。ブルゾン ¥89,100(税込)、パンツ ¥52,800(税込)。

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たんぽぽの風景を全面にプリントしたシルクシャツ。幸福感とグラフィックのおもしろさが入り交じる美しい一着。¥52,800(税込)。

M A S Uのコレクションを初めてトータルで眺めたとき、「着たい!」と激しく心がざわついた。普段の服装とはまったく違うこのブランドに袖を通し、コンサバな自分のワードローブを入れ替えたくなった。「M A S Uが似合う人になりたい」とまで思った刺激的な体験である。約1年前の23-24年秋冬コレクション展示会での出来事だ。
会場にずらりと並んでいたのは、「パーティピープル向けかな?」と勝手に思い込んでいた印象を打ち砕く軽妙な服の数々。1着1着に深いアイディアがあり、知的なバランスで仕上げられている。メンズとウィメンズ、ストリートとトラッド、モードと古着、ハイとロー、昼と夜、大人と子供(!?)といった相反する要素を一着に融合させた作風。ファッションの歴史に根ざすディテールもちりばめられ、服好きをうならせる。

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人形やぬいぐるみの風合いを本物の服にしたようなフロッキープリントのアイテム。左のブルゾンはフロントの左右がすっと合わさるマグネット留め。イーグルブローチつきジャケット ¥69,300(税込)、バッグ ¥37,400(税込)、イーグルブローチ ¥11,000(税込)。
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1990〜2000年代の流行を彷彿させるチビTと、古着をラインストーンでリメークしたデニム。着る人の気分をアゲるキラキラした輝きもM A S Uの持ち味だ。Tシャツ ¥17,600(税込)、デニム ¥198,000(税込)。

マニアックに凝った服づくりの一方で、若いセレブや芸能人が好みそうな華やかさ、派手さもしっかり持ち合わせる。ユーモアも満載で、眺めるほどに笑顔がこぼれる。近頃のモードシーンでよく語られるベーシックな「クワイエットラグジュアリー」が退屈に思えてしまうパワー。生真面目な姿勢が通底する日本メンズモードの文脈に属さない、新しい世界基準のデザイナーズがここにある。

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人形の後ろ姿だけでプリント柄をつくったシルクシャツ。抽象化されたおもちゃの世界が大人心も惹きつける。シャツの上の2体の人形衣裳は、アトリエスタッフが手づくりしたもの。半袖シャツ ¥46,200(税込)、人形衣裳 参考アイテム。

後藤デザイナーは「男性の色は青で、女性の色は赤」といったセグメントから外れ、「子供はカワイイものが好き、大人はカッコイイものが好き」といった通念にも縛られない。ただしM A S Uは男性体型を基準にしたパターンで間違いなくメンズウェアだ。一見すると女性用に思える服でも、フィッティングが計算されているから安心して袖を通そう。

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第2章 後藤愼平デザイナー

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普段からM A S Uを着ている後藤デザイナー。手に持つのはバービー人形のケン。24年春夏コレクションをミニチュア化した人形衣裳を着せつけた。

日本のメンズブランドの多くには属するジャンルがある。例えば伝統的なアメカジ、裏原宿が原点のストリート、アメリカ的ヒップホップ、モノトーンのダークなモード、東京的大人ベーシックといった具合に。M A S Uの服にもこうした“記号”は組み込まれている。ただしその記号を意図的に壊そうとする破壊的な狙いはあまり感じられない。つくり手の自己主張を押し付けないからこそ、大人も親しみやすい服に仕上がっている。その点を後藤デザイナーに尋ねてみた。彼の答えは以下の通り。
「確かに記号は入れています。ただし社会の流れに逆らったり、戦う精神とは違う気がします。デザイナーとして物事にムカつく思いはあるのですが、それに対する答えは皮肉やユーモアで返したいんです。ミーハーなんですよね。僕の服を見て笑ってほしいんです(笑)」
子供の頃に夢中だったおもちゃが現在も好きで、その気持ちを素直にアウトプットする。社会通念に縛られる世の中に居心地の悪さを感じつつ。
「女性ならOKでも、男性が着ることが許されない服や素材があることにもずっと疑問を感じてきました。M A S Uは遊び心でルール破りしています」

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「ジェンダーレス」「ポリコレ」、いま国際社会が注目する概念とM A S Uはリンクしている。このたびのパリコレ参加も絶好のタイミングだろう。ただここであえて言及するが、後藤デザイナーのセクシャリティはストレートである。話し方やアティテュードも男性的に感じる。M A S Uが女性になりたい憧れを叶える“女装服”ではないことは重要な観点だろう。ただ後藤デザイナーが独自に生み出したこのスタイルは、世界に通底するファッション感と幾らかのズレがあるようだ。
「初めてのパリで印象深かったのが、展示会に来た世界のバイヤーが意外とコンサバに思えたこと。『M A S Uはメンズ?ウィメンズ?』と皆が聞いてきますし、僕がストレートなことにも不思議な様子でした。パリの気風はもっとオープンだと思っていたから意外な発見です。日本で育った僕らのファッション感覚は、彼らより自由なのかもしれません。その気づきを得られたのがパリコレ参加の一番の収穫かも。M A S Uという新しいスタンダードを世界で確立させる目標が生まれました。M A S Uを見てモヤモヤする人たちの気持ちをすっきりさせたくなりましたね」
スタンダードになればブランド周辺のコミュニティも広がっていく。声高に叫ばないソフトな反骨精神が彼のクリエーションを突き動かす。

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第3章 2024-25年秋冬東京コレクション+パリコレクション 

東京ファッションウィークでの映像上映とインスタレーション

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東京ファッションウィーク(楽天ファッション・ウィーク東京)の公式会場になった渋谷ヒカリエで開催されたパリ凱旋インスタレーション。席に座ってモニタを見つめるのは最新コレクションを着たマネキン。
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よりマスキュリンな印象が増した秋冬のルック。メンズトラッドのアイコンが現代のジェンダーレスな世界に落とし込まれた。

FASHION PRIZE OF TOKYO 2024の受賞における活動条件のひとつが、パリに加え東京でもコレクション発表すること。そこで後藤デザイナーが考えた演出が、ショールックを着せたマネキンを席に座らせ、合間に座る観客が一緒にパリのショー映像を観るプレゼンテーション。やってきた客と、発表される服が対等に存在する異空間。服を撮りまくる人、服をじっくり眺める人、すぐ席につき映像スタートを待つ人、服を背景にした自撮りに夢中な人など客も思い思いに楽しんでいた。観客の自由も尊重する見事なプレゼンテーションだった。

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英国トラッド柄のアウターにレイヤードしたラメのフーディ。マットとシャイニー、伝統と現代、保守と革新のユニークなコントラスト。
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逆ハートのグラフィックはグラフィックデザイナーのVERDYとのコラボ図案。同柄のスリッポンはSUBUとのコラボシューズ。
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穴開き加工のレザージャケットに英国柄ワイドパンツの組み合わせ。スパイダー柄のフロッキープリントバッグはフェミニンなミニサイズで、足元も女性的なバレエシューズ。

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パリファッションウィークでのランウェイショー

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片側の身頃がベスト(ジレ)になったアシンメトリーなテーラードスーツ。袖口のボタンつけ位置もユニーク。photo©M A S U
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パッと見は男性的でもよく見るとカーディガンは女性服のよう。胸にはM A S Uのアイコニックなエンジェルのシルエット。ボトムはスカート調で脚にはタイツ。 男性のワードローブをアップデートするルックだ。photo©M A S U

黒を基調にしてスパンコールのキラキラを加えた夜の世界。初参加したパリファッションウィークで24年1月に発表したルックは、会場演出も含め優しい心を持ったダークヒーローが描かれた。世界発表にあたり後藤デザイナーが意識したのは「全身コーディネートのバランス」。服を単体としても見てもらえる日本でのショーとはやや発想を変え、全体像の表現により力を入れたようだ。
映画『バービー』にも通じるパステルカラーを打ち出した24年春夏と比べると、重厚になりメンズ感も増したように思える。それだけに1着1着の凝ったつくり込みがショー写真からもよく伝わる。デザインにフェミニティが息づく点もやはりM A S U。ただし着る人物像のイメージを女性的にすることは避けたようだ。今回のショーにより、若い世代に限らず大人も自身の姿と重ね合わせやすいはず。日本のファン層も広げる巧みな演出だ。

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ラメのセットアップのアウターに羽織ったのは、マットなバーシティジャケット(スタジャン)。強烈なコントラストに違和感を感じさせないコーディネートが冴える。 photo©M A S U

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撮影のとき「この人形を手に持つのはどう?」と提案したら、「いいですよ、持ちましょう!」と笑顔で応じてくれた後藤デザイナー。つくり手の飾らない人柄もM A S Uがファンを増やす理由のひとつかもしれない。

どんな人にM A S Uを着てほしいか後藤デザイナーに尋ねたら、
「優しい人」
と答えが返ってきた。その意味は彼いわく、
「映画『トイ・ストーリー』を見て感動できるような心の持ち主のことです。細かいことに気づける人のことでもあります。M A S Uはわかりずらい仕事をしてるブランドですから」
着て自分自身の一部になる服は、自身のスタイルを確立させ他者にアピールするのに役立つ道具である。その逆に着たことのない服を選べば、凝り固まった頭を解きせる有効な手段でもある。後藤デザイナーの服はその両方に当てはまる。まずはM A S Uを近くの取扱店などで1着でも手に取ってみよう。ポップでキャッチーなルックスの奥に潜む仕掛けにきっと気づくはずだ。

M A S U オンラインストア

https://masu-onlinestore.com

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【画像】メンズブランドM A S U、東京都の支援でパリコレデビューした実力派を知っているか?【着る/知る Vol.174】

第1章 2024年春夏アイテム

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ファンシーツイードを使ったウエストバランスの短丈ブルゾンと、M A S Uが毎シーズン作るデニムの今季バージョン。シルエットも生地感にもウィメンズウェアの発想が息づく。ブルゾン ¥89,100(税込)、パンツ ¥52,800(税込)。

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たんぽぽの風景を全面にプリントしたシルクシャツ。幸福感とグラフィックのおもしろさが入り交じる美しい一着。¥52,800(税込)。

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人形やぬいぐるみの風合いを本物の服にしたようなフロッキープリントのアイテム。左のブルゾンはフロントの左右がすっと合わさるマグネット留め。イーグルブローチつきジャケット ¥69,300(税込)、バッグ ¥37,400(税込)、イーグルブローチ ¥11,000(税込)。
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1990〜2000年代の流行を彷彿させるチビTと、古着をラインストーンでリメークしたデニム。着る人の気分をアゲるキラキラした輝きもM A S Uの持ち味だ。Tシャツ ¥17,600(税込)、デニム ¥198,000(税込)。

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人形の後ろ姿だけでプリント柄をつくったシルクシャツ。抽象化されたおもちゃの世界が大人心も惹きつける。シャツの上の2体の人形衣裳は、アトリエスタッフが手づくりしたもの。半袖シャツ ¥46,200(税込)、人形衣裳 参考アイテム。

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第2章 後藤愼平デザイナー

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普段からM A S Uを着ている後藤デザイナー。手に持つのはバービー人形のケン。24年春夏コレクションをミニチュア化した人形衣裳を着せつけた。

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第3章 2024-25年秋冬東京コレクション+パリコレクション 

東京ファッションウィークでの映像上映とインスタレーション

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東京ファッションウィーク(楽天ファッション・ウィーク東京)の公式会場になった渋谷ヒカリエで開催されたパリ凱旋インスタレーション。席に座ってモニタを見つめるのは最新コレクションを着たマネキン。
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よりマスキュリンな印象が増した秋冬のルック。メンズトラッドのアイコンが現代のジェンダーレスな世界に落とし込まれた。

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英国トラッド柄のアウターにレイヤードしたラメのフーディ。マットとシャイニー、伝統と現代、保守と革新のユニークなコントラスト。
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逆ハートのグラフィックはグラフィックデザイナーのVERDYとのコラボ図案。同柄のスリッポンはSUBUとのコラボシューズ。
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穴開き加工のレザージャケットに英国柄ワイドパンツの組み合わせ。スパイダー柄のフロッキープリントバッグはフェミニンなミニサイズで、足元も女性的なバレエシューズ。

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パリファッションウィークでのランウェイショー

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片側の身頃がベスト(ジレ)になったアシンメトリーなテーラードスーツ。袖口のボタンつけ位置もユニーク。photo©M A S U
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パッと見は男性的でもよく見るとカーディガンは女性服のよう。胸にはM A S Uのアイコニックなエンジェルのシルエット。ボトムはスカート調で脚にはタイツ。 男性のワードローブをアップデートするルックだ。photo©M A S U

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ラメのセットアップのアウターに羽織ったのは、マットなバーシティジャケット(スタジャン)。強烈なコントラストに違和感を感じさせないコーディネートが冴える。 photo©M A S U

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撮影のとき「この人形を手に持つのはどう?」と提案したら、「いいですよ、持ちましょう!」と笑顔で応じてくれた後藤デザイナー。つくり手の飾らない人柄もM A S Uがファンを増やす理由のひとつかもしれない。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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