社外秘のデサント研究施設に潜入!プロが求める2024年最新スポーツウェアの快適さとは?

  • 写真・文:一史

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デサントの研究開発施設「DISC OSAKA」内にある、汗と温度の測定部屋。写真はプレスツアーでのデモンストレーション風景。

日本の総合スポーツメーカー界で大手3社とされるのが、アシックス、ミズノ、デサントである。ゴールドウイン、釣具のダイワのグローブライドがそれに続く。このうちデサントは2019年に経営体制が変わり、新たな未来への歩みが各方面から注目されているメーカーだ。
そのデサントがこのたび、大阪・茨木市にある研究開発の拠点である「DISC(DESCENTE INNOVATION STUDIO COMPLEX) OSAKA」を一部のメディア関係者に限定公開した。社内スタッフによるツアー形式での施設体験。通常は社外秘である開発現場を目にできるチャンスを逃すまいと喜び勇んで参加してきた。

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DISC OSAKAで開発されたデサントのハイエンドなスポーツウェア。3月より発売された新製品。

ファッション好きにとってデサントは、世界中のスポーツメーカーのなかでも特に気になる存在である。かの有名な「水沢ダウン」はデサントアパレルが運営する岩手県・水沢工場で製造される高級ダウンジャケットだが、糸で縫い合わせないハイテク縫製や、身体の熱や汗を逃がす巧みなベンチレーションなどスポーツウェアの技術がふんだんに織り込まれている。
さらにその技術をスタイリッシュに美しく仕上げるセンスもデサントの卓越したところ。派手さを抑えたシックな服だからこそ、「着たい」と思わせる魅力がある。その“機能美”を生み出す社内には一体なにがあるのだろうか?興味津々でDISC OSAKAに足を踏み入れた。

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涼しく走れる最新Tシャツ

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マネキンが着ているのはランニング用のセットアップ。ゆとりのある現代的なシルエットの服で、そのゆとりを涼しさに結びつけている。半袖Tシャツ ¥26,400(税込)、パンツ ¥22,000(税込)、長袖Tシャツ ¥30,800(税込)。

DISC OSAKAは広い敷地に佇むモダンなミュージアムのような建物だ。視察したのは、「蒸れ、汗の計測」「放熱の計測」「遮熱効果の計測」「接着縫製」「身体の動きの計測」。それぞれの研究成果がミックスされて一着の服になっていく。
代表的な一例が記事上下の写真で掲載している半袖Tシャツ「Schematech AERO」だ。「PRO」ラインと位置づけられた新カテゴリーの服で、「まだ世の中にないスポーツウェアの開発」とアナウンスされている。屋外を走るランナー向けのTシャツで、特徴的なディテールが背中と脇下の被せ(ヨーク)。走ると布がはためき、内部の空気を外に逃がす。外部の涼しい空気も取り込み、汗の蒸れもスポーディに解放する。

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コートのアンブレラヨーク(雨を流す被せ)のように背についたパーツは、温度が上がった背中の空気を外に逃がすパーツ。
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脇下にもベンチレーションがあり、本体生地は汗を掻きやすい箇所に通気孔が開けられた特殊なもの。
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生地を「超音波接着縫製」で接着し、シームテープ加工して縫い目のゴロつきをなくした。

さらに生地はデサント独自開発の「スキーマテック(SCHEMATECH)」技術によるもの。スキーマテックとは一枚の生地のなかに様々な組成を配置した織り(編み)のこと。部位によりストレッチ性や通気性を変化させた生地だ。
一般的な生地づくりは、タテ糸とヨコ糸を直線的に交差させて織っていく。途中で別の組成に切り替えることはできない。様々な組成生地を混ぜた服をつくるなら、パーツごとに生地を裁断して縫い合わせる必要がある。そのやり方だと縫い目がゴロつき、引張り強度の耐久性にも不安が残る。ハードユースに着るアスリートにふさわしい服でなくなってしまう。この製造問題をクリアして、部位の変化により身体の動きやすさを高めた画期的な技術がスキーマテックである。

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1枚の生地のなかに様々な編み、織りの部位が混在する「スキーマテック」はデサントが開発した特殊な生地。

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汗と体表温度の計測ルーム

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人の身体にセンサーをつけ、運動時の汗や温度を測る。
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このデモンストレーションでモデル男性が着用したTシャツは、記事の前ブロックに掲載した「Schematech AERO」の同型色違い。

施設内で案内された一部屋が、室内の温度調整、湿度調整を行うメタリックな空間。開発中のウェアを着た人がランニングマシンで走ることで、汗蒸れや熱籠もりを計測する人工気象室だ。暑い真夏の屋外でランナーが走るときのリアルな環境をシュミレーションできる。

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SF映画さながらのロボットのようなマネキン。人体と同様の発汗テストができる特殊な人体模型だ。
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マネキンの頭部と水(汗)を供給するマシンとがつながる未来的な光景。

さらにユニークなのが、真っ黒な全身マネキン。SF映画に登場するバッテリーにつながれたロボットのようだが、人間の汗腺を再現した人体模型である。マネキンに服を着せ腕振り運動などを行い発汗させ、服内部の温度を測定。発汗で服が濡れた状態までよくわかり、製品の比較テストも容易にするマシンである。

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屋外の太陽光の再現ルーム

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太陽光の光と熱で上昇する服の温度をシュミレーション。
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サーモカメラで撮影して表面温度を視覚化する。

DISC OSAKAの別部屋に設置されたのが、太陽光を再現するシステム。強いライトで服を着たマネキンを照らし温度を上げ、服の遮熱性や紫外線カット機能などを測る。サーモセンサーにより温度変化が見えやすく、実証データとして数値化もできる。開発した服の効果をテストするのにも活用される。
このテストを経て開発された、マイナス3℃差(※カケン法に基づく遮熱性試験における、デサントの従来品とサンスクリーンの温度差)を体感する新Tシャツ「Schematech SOLAR BLOCK」が2024年に新製品で登場した。

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超音波接着縫製でゴロつきをなくす

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超音波接着縫製で2枚の生地を1枚につなげ、さらに黒シームテープで補強した縫製見本。

アスリートにとって、運動中に服で肌が擦られ続けるストレスは大きな問題だ。肌に負担がかかる縫い目のゴロつきはパフォーマンスを左右してしまう。デサントはハイエンドなラインに「超音波接着縫製」を採用。糸で縫うと浮き出てしまう凹凸をなくすため生地を溶かして接着し、限りなくフラットな表面にしたハイテク技術だ。

DSC05073.jpg超音波振動で円状のパーツを動かし、生地をカットして接着する縫製マシンでのデモンストレーション。
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超音波接着縫製でつなげられた生地。

ミシンでいう縫い針に相当するのが円状の金属パーツ。これを超音波振動させ、生地のカットと同時に接着していく。高いストレッチ性が求められるスポーツ競技用の服でこそ真価を発揮する特殊な縫製技術だ。

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スタッフが手に持つロールが、熱圧着する補強用のシームテープ。
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生地の接着部分にシームテープを取り付ける工程。生地の状態を確かめつつ行う職人技の手仕事だ。

超音波接着縫製の耐久性を上げるため、その上にシームテープを施す。このように補強すれば、ハードユースに耐えるスポーツウェアになる。
DISC OSAKAが導入している縫製マシンは、デサント自社工場での使用品と同じもの。製品もこのように人の手仕事でつくられている。デサントに限らず機械が自動でつくれる服は、「無縫製の一体成型編みニット」のように特殊なマシンを使ったごく一部の製品しか世の中にない。製品一着一着に人の手がかかる以上、コストダウンにも限界があるのが服の世界だ。

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写真の服「Schematech SOLAR BLOCK」の中央部分も、左右の生地を超音波接着縫製してシームテープ処理されたもの。

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運動の動作のデータ化

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DISC OSAKA内に設置された陸上競技の走路。シャッターを開けば屋外まで長く続くトラックになる。
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人体にセンサーをつけ、トラック周辺を取り囲むように設置された多数のカメラで3Dで動きを計測。

屋内から屋外へと続くトラックは、直線距離で100m、屋外を含めると一周250mの本格的な設備。レーンのなかには、オリンピックで使用されたものと同じトラック表面もある。プロアスリートが望む高い要求に答えられる環境を整備している。ここでは全身運動をスキャンしてマッピングすることで、上下左右のあらゆる方向から見た人体の動きを計測する。

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視察を終えて

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スキーマテックの生地を使い、汗をかきやすい箇所に通気孔を開け蒸れを軽減したニットフーディ「TEC JACQUARD」。¥27,500(税込)。

DISC OSAKAでは入れる場所も撮影も制約の多い取材だったが、モノづくり好きがワクワクする最高のひとときだった。内部は驚くほど広くモダンで清潔で、空間の使い方も美しい。あたかも海外の大きな建築事務所のように洗練された佇まいだ。ガラス貼りのメインオフィスは天井高が9.2mもあり開放感がある。働く人には理想的なオフィス環境ではないだろうか。外観、内観と施設概要はデサント公式サイト該当ページをご覧いただこう。
デサントは大阪市に本社があり、2018年にDISC OSAKAをベッドタウンの茨木市につくった。地方の工場近くに設けるやり方も考えられただろうが、プロアスリートが立ち寄りやすい立地に優位性があったようだ。施設内で製品サンプルまで一貫してつくり、得たデータを各工場がシェアして服が生産されていく。経営体制が変わってからも、デサントは日本を象徴するモノづくりメーカーであり続けている。デサントファンとして嬉しい気づきを得られた視察になった。

DESCENTE

www.descente.co.jp

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【画像】社外秘のデサント研究施設に潜入!プロが求める2024年最新スポーツウェアの快適さとは?

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DISC OSAKAで開発されたデサントのハイエンドなスポーツウェア。3月より発売された新製品。

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涼しく走れる最新Tシャツ

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マネキンが着ているのはランニング用のセットアップ。ゆとりのある現代的なシルエットの服で、そのゆとりを涼しさに結びつけている。半袖Tシャツ ¥26,400(税込)、パンツ ¥22,000(税込)、長袖Tシャツ ¥30,800(税込)。

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コートのアンブレラヨーク(雨を流す被せ)のように背についたパーツは、温度が上がった背中の空気を外に逃がすパーツ。
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脇下にもベンチレーションがあり、本体生地は汗を掻きやすい箇所に通気孔が開けられた特殊なもの。
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生地を「超音波接着縫製」で接着し、シームテープ加工して縫い目のゴロつきをなくした。

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1枚の生地のなかに様々な編み、織りの部位が混在する「スキーマテック」はデサントが開発した特殊な生地。

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汗と体表温度の計測ルーム

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人の身体にセンサーをつけ、運動時の汗や温度を測る。
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このデモンストレーションでモデル男性が着用したTシャツは、記事の前ブロックに掲載した「Schematech AERO」の同型色違い。

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SF映画さながらのロボットのようなマネキン。人体と同様の発汗テストができる特殊な人体模型だ。
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マネキンの頭部と水(汗)を供給するマシンとがつながる未来的な光景。

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屋外の太陽光の再現ルーム

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太陽光の光と熱で上昇する服の温度をシュミレーション。
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サーモカメラで撮影して表面温度を視覚化する。

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超音波接着縫製でゴロつきをなくす

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超音波接着縫製で2枚の生地を1枚につなげ、さらに黒シームテープで補強した縫製見本。

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DSC05073.jpg超音波振動で円状のパーツを動かし、生地をカットして接着する縫製マシンでのデモンストレーション。
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超音波接着縫製でつなげられた生地。

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スタッフが手に持つロールが、熱圧着する補強用のシームテープ。
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生地の接着部分にシームテープを取り付ける工程。生地の状態を確かめつつ行う職人技の手仕事だ。

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写真の服「Schematech SOLAR BLOCK」の中央部分も、左右の生地を超音波接着縫製してシームテープ処理されたもの。

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運動の動作のデータ化

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DISC OSAKA内に設置された陸上競技の走路。シャッターを開けば屋外まで長く続くトラックになる。
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人体にセンサーをつけ、トラック周辺を取り囲むように設置された多数のカメラで3Dで動きを計測。

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視察を終えて

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スキーマテックの生地を使い、汗をかきやすい箇所に通気孔を開け蒸れを軽減したニットフーディ「TEC JACQUARD」。¥27,500(税込)。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。