ダブレットの服に取り入れられた手仕事とは? 美しきエアブラシによるペインティング

  • 写真:竹之内祐幸

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日本のブランドが手掛ける洋服にも、さまざまな職人の技が取り入れられている。「板締め」「真綿の手引き」「エアブラシ」、それぞれの仕事が行われる現場を訪れ、職人たちの美しい手捌きを目撃した。本記事では、ダブレットの新作アイテムで用いられている染色道具「エアブラシ」を紹介。

Pen最新号は『テーラードで行こう』。第2特集『手仕事のある服』では、今季新作の中から手仕事が施された“いいもの”を厳選し、工芸品のような趣のアイテムや、海外や国内のアトリエで目にした職人技も公開。ものづくりの背景を知ることで、それがどれほどの価値を持っているのか実感するはず。

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「エアブラシ」

「エアブラシ」は、圧縮空気を送り出すコンプレッサで塗料を霧状に噴射する機器。レバーを押すことで圧縮空気が先端から噴射され、レバーを後方に引くことで中の針が動いて隙間が広がり、塗料を噴射する。レバーの押し引き加減で空気と塗料のバランスを調整。筆やハケでは得られないボカシやグラデーションを表現できる。ヴィンテージのアロハシャツやサイケデリックアートなどにも用いられてきた。

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「プシュー」という噴射音をたてながら、ジャケットにヒョウの顔を描いていく。描き終えたものから棚に移して乾燥させながら、1日に5着ほどを同時進行で作業するという。一発勝負でやり直しも利かないためか、描いている川井の背中は気迫に満ちている。

繊細かつ大胆、迫力あるペインティング

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レオパード柄にエアブラシでヒョウが描かれた「サマーファーハンドペイントジャケット」¥107,800/ダブレット(エンケル TEL:03-6812-9897)

斬新なアイデアとユーモアでファッションの固定観念を破り続けるダブレット。2020年にパリコレデビューを果たしたこのブランドも、実はデザインに手仕事の要素を取り入れている。今季登場した「サマーファー ハンドペイントジャケット」は、エアブラシ職人がペイントを施した一着。その現場である、京都・宇治の「創作工芸 kawai」へ向かった。

代表の川井修は、日本でも唯一、エアブラシでのペイントを専門とした職人だ。以前は着物の染色工房に勤めており、色みをぼかす補正技術としてエアブラシを用いていたという。のちにファッションアイテムへの依頼があり、独立後はその経験を活かして着物でなく洋服だけに描いている。

手にしたエアブラシで、レオパート柄のジャケットの背面にヒョウを描き始める。勢いよく作業は進み、あっという間に顔の輪郭が浮かび上がってきた。「僕は補助線を引かずフリーハンドで描くので一発勝負です。特に今回のジャケットは、表地が化学繊維のファーのようになっているのでやり直しが利かない」

一気に描いていく様子は非常に潔い。また、機器の中で空気と塗料の混ざる割合を決めるのは、レバーの押し引きの具合だけ。あとは「プシュー」という音の長さや、手に伝わる微かな振動が頼りだ。

1時間ほどで描き上げ、完成したジャケットの背中に、迫力あるヒョウの顔が現れた。エアブラシを長年使ってきた川井は、その魅力について次のように語る。「着物では色や柄をぼかすのに用いられてきたので、その特徴を活かしたグラデーション表現の美しさは、染色道具の中ではいちばんだと思っています」

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塗料やエアブラシが並ぶ川井のアトリエ。エアブラシの種類は噴射される線の太さの違いによるものだが、愛用しているものは最も細い線を描けるタイプ。1mmほどの細さまで表現できるという。
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横に置いた見本を見ながらフリーハンドで作業を進める川井。1日に描く数は5着ほどだという。
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左:染色工房に勤めていた頃に川井が手掛けた、マス見本(着物の色みなどを確認するためのサンプル布)。エアブラシが用いられた箇所のグラデーションが美しい。 右:化学繊維から成るファーの上に描かれたヒョウの顔。色の濃淡により、浮かび上がるような表情に仕上がっている。

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