文化遺産に対する侮辱! ミケランジェロのダビデ像の卑猥な商品化に法的措置

  • 文:山川真智子

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ミケランジェロのダビデ像は、フィレンツェに来たらぜひ見ておきたい芸術作品の筆頭だが、実は観光客を当て込んで、街には像をモチーフにした卑猥な商品があふれているという。そこで作品の威厳を守るため、所蔵する美術館の館長が法的措置に乗り出した。芸術的価値の保護か表現の自由か?ルネサンス期の彫刻の傑作が、意外なトラブルに巻き込まれている。

あまりに不適切…下品なグッズの数々

AP通信は、ミケランジェロのダビデ像は、1504年の完成以来、イタリア文化の中にそびえ立つ存在だと説明。しかし、その宗教的、政治的意義が、性的部分に焦点を当てた何千もの土産物によって損なわれているのではないかと、学芸員たちが危惧していると述べる。

実際に、フィレンツェの土産物店には、ダビデ像のエプロン、Tシャツ、冷蔵庫用マグネット、置物など、実物の崇高さとはかけ離れた商品がたくさん並んでいるという。

ユーロニュースは、ダビデ像がより性的なディテールを持つことで騒ぎになったのは今回が初めてではないと述べる。昨年、米フロリダ州で、ダビデ像は子供たちが学習するにはポルノ的過ぎると、親からクレームが出るという事件もあった。

法的措置で対抗! 損害賠償を勝ち取る

ダビデ像を守るため立ち上がったのが、像を所蔵するアカデミア美術館のセシリエ・ホルバーグ館長だ。2015年に着任して以来、ダビデ像の尊厳をめぐる戦いの先頭に立っており、露天商で見られる露骨な商品の数々が、像の品位を落としていると述べている。

APによれば、イタリアには芸術の至宝を侮辱的で無許可の商業利用から守ると言う画期的な文化遺産法典がある。ホルバーグ館長の要請により、フィレンツェの州検察庁はこの法典を発動させ、一連の裁判を開始した。結果としてアカデミア美術館は、2017年以来、数十万ユーロの損害賠償を勝ち取っている。

ホルバーグ館長によれば、法的措置に関して、世界各地から戦い方やアドバイスを求める問い合わせがあったという。APによれば、ダ・ヴィンチの『ウィトルウィウス的人体図』、ドナテッロの『ダビデ像』、ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』など、他の美術館でも名作保護のための法的措置が続いている。

著作権の慣行に逆行?表現の自由侵害も

ミケランジェロのダビデ像をめぐる問題は、美術館側がセンスや審美眼についての裁定者になるべきかどうか、表現の自由がどの程度制限されるのかといった問題を提起することとなった。

ユーロニュースは、美術館側の勝利は、知的財産権はパブリックドメイン(知的財産権が発生していない、または消滅した状態のこと)になる前の一定期間しか保護されないという、広く知られた慣行に逆行するものだと述べる。イタリアを含む180か国以上が署名しているベルヌ条約では、この期間は著作者の生存期間及び死後70年となっている。EUでも、イタリアの文化遺産法典が、「著作権で保護されなくなった芸術作品はパブリックドメインに属する」というEU指令に違反していないかどうかチェック中だという。

APによれば、美術市場弁護士、トーマス・C・ダンツィガー氏は、アンディ・ウォーホールの作品などを例に、芸術家が二次著作物を創作する権利の阻止にもつながりかねないと主張。イタリアの裁判所の決定に疑問を呈している。さらに、イタリアの文化大使としての役割を果たす、芸術作品の複製を制限することにもなりかねないと、逆効果を指摘する人もいる。

ユーロニュースによれば、ホルバーグ館長の法的努力にもかかわらず、街の土産物屋はいまだに卑猥なダビデ像グッズで溢れかえっているそうだ。問題解決への道のりはまだまだ長いと言える。

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赤裸々なミケランジェロのダビデ像と卑猥なグッズの数々。

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ダビデ像のお尻をかたどったマグネット。

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ダビデ像の着せ替えセットも。

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 ドナテッロのダビデ像も、法的措置の対象に。