蚕の繭を一つひとつほぐす伝統技法“真綿の手引き”を用いた、ビズビムの「キヤリ ジャケット」

  • 写真:竹之内祐幸

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日本のブランドが手掛ける洋服にも、さまざまな職人の技が取り入れられている。「板締め」「真綿の手引き」「エアブラシ」、それぞれの仕事が行われる現場を訪れ、職人たちの美しい手捌きを目撃した。本記事では、ビズビムのアイテムに用いられている、福島の伝統技法「真綿の手引き」を紹介。

Pen最新号は『テーラードで行こう』。第2特集『手仕事のある服』では、今季新作の中から手仕事が施された“いいもの”を厳選し、工芸品のような趣のアイテムや、海外や国内のアトリエで目にした職人技も公開。ものづくりの背景を知ることで、それがどれほどの価値を持っているのか実感するはず。

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「真綿の手引き」

「真綿」とは、蚕の繭をほぐし、平面状にして50枚ほど積層したもの(シルクは繭から紡いだ生糸による織物)。高価な着物や布団の中綿として用いられてきた。福島・保原(ほばら)でつくられた袋状のものは「入金真綿」と呼ばれ、江戸時代・慶長年間からの歴史を持つ。この名称は一説によると、慶長大判を包むのに用いられていたことや、買い手が競って前金を出して真綿を取引していたことなどに由来する。

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福島・保原は、奈良・平安時代より養蚕業が始まったといわれ、この地では農家の女性が兼業として真綿の手引きを行ってきた。写真は1粒の繭をぬるま湯に浸して広げ、袋状にする様子。朝から晩まで作業し、2日間で約650もの袋をつくるというから驚きだ。

いまや生産も数少ない、長い工程を経てできる真綿

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軽く、保温性が高く、しなやかなドレープが特徴。手仕事による真綿を中に詰めた「キヤリ ジャケット」¥374,000/エフ アイ エル インディゴキャンピングトレイラー(ビズビム ジェネラル ストア TEL:03-6452-4772)

泥染めを施したジャケットや西陣織を応用した生地を用いたコートなど、ビズビムは伝統的な職人技を取り入れた洋服を展開する特異なブランドだ。定番の「キヤリ ジャケット」は、中綿として真綿を用いている。真綿は繭を煮た上で引き伸ばし、重ねて層にしたもの。強くて軽く、保温性を備えるので昔から防寒具に用いられてきた。

真綿生産の工程は次の通り。煮た繭を1粒ずつ、ぬるま湯に浸して中に入っているサナギを取り、手作業で広げる(この作業を「真綿の手引き」と呼ぶ)。広げた繭の上に、また次に広げた繭をかぶせる作業を5 ~6粒ほど繰り返し、一定の厚さで袋状にする。袋状の繭を数日間陰干しで乾燥させた後、ふたりがかりで薄く均一に引き伸ばして平面状に。これらを層状に重ね合わせ、洋服のかたちに合わせて裁断する。

真綿づくりは「繭むき3年、仕上げ7年」と言われるほど習得に時間がかかる。取材時に話を聞いた女性は70年以上この作業を続けており、淡々と繭を同じ厚さや大きさで袋状にしていく。傍目からは簡単に見えるが、実際は思うように繭を伸ばすのは難しい。熟練の技術による作業を繰り返し、ようやく数着分の真綿ができる。

「歴史の中で育まれた技術とそれを受け継ぐ職人の方々が日本には存在します。文化として保存するのでなく、現代のライフスタイルに合うプロダクトを生み出したい」

デザイナーの中村ヒロキはこのような思いで洋服に手仕事を落とし込む。しかし、今回のような真綿をつくれる人も現在では国内で50人ほどしかおらず、職人の高齢化や後継者不足が深刻だ。ビズビムは伝統技術を守るためにも、職人に継続的に仕事を依頼している。

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加熱処理された蚕の繭。現在では国産の蚕自体が減っており、流通しているもののうち約1~2%ほどだという。
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左:袋状になった繭を一つひとつ陰干しし、1~2日ほど乾燥させる。 右:乾いたら1枚ずつふたりがかりで引き伸ばしていく。いい繭は伸ばしても破れることなく5mほどまで伸びるという。
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左:平面状になったら複数枚重ね、全体に糊を付けてアイロンがけを施す。この工程により繊維がより強くなる。 右:完成した真綿はなめらかな質感。ここから裁断して洋服に詰めていく。 

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